高梨さんと大林君
……高梨さんの、いつも不機嫌そうな顔って、ただ普通にしてるだけだったんだ。
てっきり話しかけられるのが嫌なだけだと思ってたなあ。私も。ごめんなさい。
「別に一人でいるのは、嫌いではないから良かったんだが……悟から話しかけられるのは、うれしかった。悟はいつも私のことを考えて、色々話題をふってくれたし、私をいろんな場所に連れ出してくれた。他に友達なんかいなくても、悟が隣にいれば、私は幸せだったんだ」
大林君の世話好きな性格を考えると、なんとなく想像できるな。
瀬戸内君と私の為に色々してくれたみたいに、高梨さんの為に一生懸命動いていたんだろうな。
「だから、学区の都合で中学校が別れた時は、本気で泣いた。だけど悟は、中学校になってからも定期的に私に連絡を寄こして、私が中学でうまくやってるか心配してくれたんだ。……まあ、当然、中学でも友達らしい友達は出来なかったんだが、悟が私を気にかけてくれているだけで、私は十分だった。悟の進路に合わせて、この学校を受験して、見事合格。二年で同じクラスになれた時は天にも昇る気分だったんだが……」
「……だが?」
「悟は高校に入って、すっかり変わり果ててしまった……!」
……うん? 高梨さん悲痛な声あげてるけど、話聞くかぎり、大林君どこも変わってない気もするけどなあ。
「『お前も俺とばかりつるまず、同性の友達をもっと作った方がいい』とか言って、普段は男友達とばかりつるんで、時々しか私に構わなくなってしまった! 小学校の頃は、もっとずっとそばにいてくれたのに! スマホで連絡する時は、以前と同じままなのに、学校では妙によそよそしいんだ! ひどいとは思わないか!?」
「……いや、まあ、それは仕方ないんじゃないかな」
……ほら、私達、思春期だしね。
やっぱり異性とばかり、仲良くするのは恥ずかしいものがあるし。
私、瀬戸内君のこと大好きだけど、やっぱり普段は今まで通り、同性の友達と一緒にいたいなとも思うし。
大林君の気持ち、私は結構わかるな。
「仕方なくなんて、あるか! 私は、悟さえいれば友人なんていらんぞ」
「まあ、そのあたりは、人それぞれというか、大林君の価値観だから……」
激しい。やっぱり激しいよ、高梨さん。
……それだけ、大林君のことが好きなんだろうけど。
良くも悪くも、まっすぐな人なんだ、なあ。
「そんな風に一人で悶々としている所で、お前が急に悟と距離を縮めるものだから、誤解してしまった。……悪かったな。今野舞子」
「あ、いや、それは別に構わないんだけど。……大林君のアドレス知ってるなら、私を呼び出すより直接メールで聞いた方が早かったんじゃ」
「悟に直接お前と付き合ってるなんて言われたら、立ち直れなくなるだろうが」
……まあ、それもそうだね。好きな人から直接聞くのは、やっぱり怖いよね。
しかし高梨さん、知れば知るほど、奥深い人だなあ。
……これを機に友達になれたら嬉しいんだけど、大林君以外いらないって言ってるし、やっぱり無理かな? 仲良くなりたいんだけど。
「しかし、だ。……誤解とは言え、ここまで事情を知られたからには、今野舞子。お前にも協力してもらうぞ」
……て、え?
高梨さんは口元に、妙に迫力ある笑みを浮かべながら、私の肩を掴む。
「……瀬戸内とかいう、デカブツ眼鏡。ポッと出の癖にいつの間にか悟の隣を独占していて、腹が立ってたんだ……今野舞子。是非、これからは日中も瀬戸内にどんどん絡んで、悟からあいつを引き離してくれ」
「むりです! むり! 瀬戸内君の交遊関係邪魔したくないし、私も友達いるし、恥ずかしいし!」
「……なぜだ。お前は瀬戸内の女なんだろう?」
「お、女って、言い方! ……と言うか大林君、友達多いから瀬戸内君引き離しても、別の男の子が隣にいくだけだと思うよ?」
その後しばらく粘る高梨さんを宥めすかして、「女友達ができれば、大林君も安心して高梨さんと話してくれるようになるかもしれないよ? 恋愛の相談とかも乗るし」と提案した結果、めでたく高梨さんと友達になることができました。
友達が増えたのは嬉しいけど……果たして、高梨さんの恋はどうなることやら。
恋に悩む高梨さんは、とてもかわいいけどね。
「ーーよし。完成」
「お、サロメできました? 水彩の色合い、柔らかくて良いっすね。絵本の挿絵みたいで」
「ありがとう。琴音ちゃんの絵も、色の組み合わせが綺麗で華やかだね……意味は全然わかんないけど」
「ふ……これは、青春の葛藤を意味しているのですよ。ここの寒色系が、苦しみや涙を、そしてここの暖色系が恋の甘さを表してましてですね……」
「……じゃ、私、予備校のコマ、今日早く入れてるから、この辺で」
「ちょっと舞子先輩! 最後まで話聞いてくださいよ!」
「だって琴音ちゃん、自分の絵について語り出すと長いんだもん!」
「ーー今野!」
一応顧問の先生にコンクール応募作品が出来上がったことを報告してから帰ろうと、あの渡り廊下を歩いていたら、ちょうど休憩中だったらしい瀬戸内君がこちらに走ってきた。
「早いな。もう、帰りか?」
「うん。コンクール応募する作品出来上がったし、今日は予備校早いから」
「こないだ話してたあれ、出来上がったのか。……発表はいつなんだ?」
「ちょうど一ヶ月後くらい。……どきどきするなあ」
「大丈夫だよ。今野なら……こ、根拠はない、けど……」
「ありがとう」




