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瀬戸内君との出会い

 瀬戸内君は、このクラス一の、いや、学年一のイケメンだ。

 だけど、みんな、彼のことを「顔はいいけど残念な人」と呼ぶ。

 でも、私は思う。


 瀬戸内君は残念じゃなくて、とても可愛い人だって。



「ねぇ、うちのクラス転入生が来るんだって!」


「ええ。どんな人だろ。イケメンだといいなあー。うちのクラス、男子レベル低いしー。……誰とは言わないけど特に苗字に竹がついて山がつく奴とか、ひどいよね」


「いや、そこは美少女だろ。うちのクラスの女子、高梨以外パッとしねーもんなあ。高梨も美人だけど、かわいらしい感じじゃないしよお。苗字ほで始まって、名前が凛子の奴とか、もはや女じゃねーよな」


「なんですって!」


「最初に言ったのお前だろっ!」


 最初に瀬戸内君が転校して来た日のことを良く覚えてる。

 教室の中にいきなり一つだけ増えた机を囲みながら、みんなでまだ見ぬ転校生がどんな人かはしゃぎながら想像してた。

 先生と一緒に現れた瀬戸内君は、期待以上のイケメンで、女の子みんなで歓声をあげたっけ。


「やばいやばい! マジでイケメン来た! めっちゃたぎる!」


「……テンションあがってるけどよ、お前みたいなおかめぶす、あんなイケメン相手するわけねーだろ。鏡見ろよ。ばーか」


「……なによ! 自分はじゃがいもみたいな顔してる癖に、よく言うわ!」


「………だから、お前みたいなオカメにはじゃがいもくらいがちょうどいいって言ってんだよ」


「…………え?」


 前の席で、幼稚園からの幼なじみらしい本郷さんと竹山くんが、顔を真っ赤にして(途中から顔の赤さの理由が変わった気がする)言い合いしてるのを聞きながら、私はただ瀬戸内くんに見惚れていた。


瀬戸内せとうち 和明かずあきです。どうかよろしくお願いします」


 目鼻立ちがくっきりとした、それでいてくどくない端正な顔に、お洒落な黒縁眼鏡を掛けてて、教壇の前で背筋をぴんと伸ばし、臆することなく饒舌に自己紹介を述べた瀬戸内君は本当格好良かった。

 問題はその後だった。


「それじゃあ、瀬戸内の席は……ええと。今野の後ろだな。あの空いてる席に座ってくれ」


「……はい。わかりました」


 瀬戸内君の席は、私のすぐ後ろ。

 私はどきどきしながら、机の間をぬって歩いて来る瀬戸内君を見ていた。


「………っ」


 一瞬、目があった気がした。まあ、瀬戸内君の席と、歩いて来る彼の間に私がいたんだから、(そして私はずっと瀬戸内君を見ていたんだから)目があってしかるべき、てな感じではあったのだけど)

 瀬戸内君は何故かちょっと驚いたように目を見開いて、それからすぐ視線を逸らして眼鏡をくいって押し上げたんだ。

 わぁ、格好良い人は眼鏡をあげる様も格好いいんだな、と思った瞬間、派手な音が教室に響いた。


「お、おい、どうしたんだ!」


「大丈夫か! 瀬戸内! 意識はあるか!」


「眼鏡は……眼鏡は無事だぞ! 割れてない!」


 瀬戸内君は眼鏡を押し上げることに気を取られるあまり……机に脚を引っ掻けて、すぐ脇にいた男子の机に派手に突っ込んで転がっていた。

 どうやら、頭を打ったらしく、両手で頭を抱え込んで悶絶しているその姿はなかなかに強烈だった。



 以来、瀬戸内君についた渾名が「残念王子」


 もし、これ一回きりだったら、そんな男子からやっかみ交じりにつけられた渾名は、すぐに消えてしまったかもしれない。

 だけど、瀬戸内君が派手にやらかすのは、残念ながらこれ一度だけじゃなかったんだ。


「あ、はい。鉄血政策を行ったのはビシュ、ビスマルク……!」


 授業中先生に当てられては、盛大に噛みながら回答をし。(それでもいつも正解しているからすごい)


「……大丈夫が瀬戸内!」


「何故、よりによってゴール手前でこけるんだ! お前は!」


 男女合同の体育の時間では、足がもつれて派手にずっこけ。(それまではかなりの高記録だったのに)


「きゃー! 保険医の先生! 保険医の先生よんで!」


「誰か消毒液持ってないか! ハンカチよこせ! 圧迫止血するぞ!」


 家庭科の調理実習の時間では、手が滑って派手な流血沙汰を起こす。(でも、瀬戸内君が切った野菜は、どれも正確に同じ大きさだった)


 基本的に全てがハイスペックなのに、なぜか人の注目が……それも、女子の注目が集まっている時は必ず大ドジをしでかす瀬戸内君に、瀬戸内君にのぼせ上がっていた女子たちの恋心は一気に醒めた。

「あのドジさえなければ、瀬戸内は完璧な男なのに」とみんな揃って溜息をついている。


 ……だけど、私は逆にそんな瀬戸内君だからこそ、気になって仕方なかったりする。

 失敗した時に真っ赤に狼狽えた顔とか、ちょっと涙で潤んだ目とか、慌てて取り繕うとするとことか、その癖注目が集まると格好付けるとことか、可愛くて仕方ない。

 つい近寄って、よしよしと頭を撫でて慰めてあげたくなる。


「……舞子。あんた変な趣味しているわね」


 友達はみんな呆れた顔をするのだけど、私ってそんなに趣味が悪いのかな?

 でも、誰が何と言おうと、可愛いものは可愛いのだから、仕方ないよね。


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