パラディンの誕生
「ルシウス・ワンコード。」
「はっ。」
王が名を呼ぶに呼応して、俺は立ち上がり、剣を床へ立て、敬礼をする。
緊張などしない。
あるのは使命感ただ一つ。
やっと俺はここまで来ることが出来た。
臆することなくルシウスは顔を上げ、決意を秘めた眼差しで玉座に坐する王を見据えた。
王に名は無い。
しきたり、と言う事もあるが、王とは即ちたった一人を指す言葉であらねばならぬ、と言う歴代の意思があるようだ。
周りの側近の王族たちと同じ様に顔を覆面で覆い隠してはいるが、何故か王から発せられる何かに圧倒されそうになる。
「護国の剣をここへ。」
王がそう言うと、周りの側近の一人が王の下へと寄り、跪き、仰々しく剣を王へ掲げる。
それを受け取ると、王はゆっくりと階段を降り、ルシウスの目の前へ立った。
「これが護国の剣【シュヴァリエ】である。これまでの功績を評し、主へと授けよう。」
「はっ。」
ルシウスは王の前で跪き、両手を掲げる。
歴代のパラディンへと受け継がれてきた護国の剣【シュヴァリエ】。
刀身は身の丈180㎝はあるルシウスとほぼ同じだが、厚みは驚くほど薄く、折れないか不安になる程だが、触れただけで何か特別な力が宿ったかのような不思議な剣であった。
柄や鍔も刀身程では無いが、通常の剣よりも随分長く、まるで十字架を剣にしたかのようなフォルムである。
ルシウスがシュヴァリエを受け取ると、王は宣誓した。
「我が名において、この者を騎士の最高位、第99代騎士総統括元帥【パラディン】に任命する事をここに宣誓する。」
「はっ!!」
王の宣誓に呼応し、ルシウス以外の全ての騎士が声を上げた。
王は再びゆっくりと階段を上り、玉座の後ろにある扉へと歩みを進める。
王の側近が声を上げる。
「これにて終いとする。皆の物、面を伏せよ。」
再び全騎士が面を伏せ、扉が開いて王と側近は扉の向こうへと去って行った。
扉の閉まる音を確認すると、ルシウスは立ち上がって振り返った。
「皆、面を上げろ。」
王の重く圧し掛かる様な声とは違い、静寂を裂く様に鋭いルシウスの声が謁見の間に響き渡る。
「私がこれから騎士総統括元帥となるルシウスだ。知っている者も、知らぬ者も、これからはお前達の命は私が預かる。」
大きく息を吸い込むルシウス。
「皆、私の理想と共に戦い、私の理想と共に死ね!」
「はっ!」
一際大きなルシウスの言葉に全騎士が敬礼をしながら声を上げる。
こうして第99代騎士総統括元帥ルシウスの物語は始まった。
今はまだ、この先に待ち受ける選択の時を、ルシウスは知らない。