謁見の間
謁見の間。
臣下達が唯一王と謁見できる場であり、王の住まう離宮へと続くこの場所は、神聖な場所として1000年の間朽ちることも、傷つくことも無く受け継がれてきた由緒正しい場である。
離宮には王族のみが暮らしている。
王宮と離宮を隔てる玉座の後ろの巨大な扉は、不思議な力で閉ざされており、王、または王族の許しなく開く事は一切無い。
ある意味この扉のおかげで1000年続く王国は平穏を保てているとも言える。
そんな由緒正しい謁見の間に選ばれた色取り取りの鎧とマントを身にまとった騎士が、入口から玉座の階段下まで続く赤い絨毯の脇に立ち、鞘に納まった剣を床へたて、右手は胸の前でひじを折って水平に構える敬礼のポーズをとりながら、まるで置物かのように整列していた。
その最前列の中には、金色の鎧にオレンジのマントを身に纏ったサンの姿もあった。
「王が参られる。皆、面を下げよ。」
玉座脇にこれまた着物を纏った置物のように立っている王の側近が騎士へ号令をかける。
彼らは下位の王族であり、帽子から下げた覆面で顔を出す事は一切無い。
騎士達からすればある意味不気味な存在である。
彼らの指示に従い、騎士達は右膝を立てて左膝を折り、床へ顔を伏せる。
重厚な扉が開く音がした。
皆は顔を伏せたまま、扉の奥から光が放たれると共に、一歩一歩、静寂に響き渡るような足音を聞く。
足音が止むと、再び重厚な扉が動く音がして、今度は閉まったのだと皆はわかった。
『……何度やってもこの時間だけは慣れないなぁ。』
「キュ?」
サンは顔を伏せたままそんな事を考えていると、胸元にこっそり忍ばせたシルフが首元から顔を出し、厳粛にしているサンを覗き込んでいる。
「(あ、こら!シルフ!大人しくしてなさい!)」
「キュー……。」
小声でシルフにそう言うと、不服そうな小さな鳴き声でシルフはサンの胸元へ再び潜る。
背後の扉が開く音がした。
柔らかな絨毯を踏みしめる足音。
サンは思わず顔を綻ばせる。
『始まる。』
足音はサン達を通り過ぎ、絨毯が終わる階段の前付近で止まり、皆と同じように人が伏せる気配がした。
一時の静寂が謁見の間を包み込む。
自分の事では無いのに、サンの心臓は張り裂けそうなほど鼓動を速めていた。
自分の心音がこの静寂に響いていないか、一瞬不安になる。
「面を上げよ。」
そんなサンの不安など意にも解さぬように、静寂へ重く圧し掛かるような、低く、重厚感のある王の声が響き渡る。
その声と同時に全ての騎士は跪いたまま、顔を上げた。
玉座に座るは名も無き王。
そしてたった一人、そのすぐ階下で皆と同じ様に跪き、面を上げる銀髪の見慣れた男の姿がある。
さぁ、任命式が始まる。
サンは興奮と緊張で紅潮し、綻ぶ顔を止める事が出来なかった。