俄かに湧き上がる街の中で
それはこの国創生以来、初の異例な出来事であった。
若干26歳で、総勢10万人を超える現役騎士の最高位【パラディン】の誕生。
それも生まれは名門ではなく、貧民街出身というまるで世の中の夢や憧れを絵に描いたようなサクセスストーリー。
今日この日、1000年の全世界統治が続くこの王国【ディフェネ】で生まれようとしていた。
そんな奇跡に、ディフェネ王宮城下町は俄かに活気立ち、至る所でその奇跡の立役者である男の顔や名前の入った旗、貼り紙が見受けられ、熱気に包まれた町民や観光客で溢れるその様子は、まるでお祭りかのような賑々しさを見せている。
「すごい活気だなぁ。」
暢気な口調で呟き、袋一杯に詰められたリンゴを一つ取り出して噛り付きながら、暢気にそんな城下町を歩く男が一人。
目にかかるほど伸びた薄橙色の前髪を、少しうっとおしそうに左右に掻き分け露わなった顔立ちは、まだ少年のあどけなさを残すかのように幼かった。
「君もそう思うだろう?」
男はそう言うと、手に持った食べかけのリンゴを軽く上空へと放り投げる。
それに素早く反応するように男の懐が小さく暴れるように乱れると、緩く空いた男の服の胸元から小さな何かがリンゴへ向かって一直線に飛び出した。
「キュイ♪」
飛び出した小動物はまるでリスのように小さな体と、猫のようにとがった耳と尾を嬉しそうに大きく動かしながら、か細く、嬉しそうな鳴き声をあげて、宙に浮くリンゴに飛び乗り、噛り付いた。
「はははっ!本当にシルフはリンゴが好きなんだなぁ!」
そう言って男は楽しそうに笑うと、肩にリンゴをかじるシルフを乗せて、王宮の方角へと歩みを進めていった。
「義兄さん!」
王宮の中のとある一室。
先ほどの男は元気よく扉を開け、中で複数の仕立人に囲まれる男に呼びかけた。
「……サン、またお前はそんな恰好をして城下で買い食いをしていたのか?」
呼ばれた男は、呆れたようにサンと呼ぶその男へ向かって不器用な微笑みを見せる。
サンとは対照的に、綺麗に切りそろえられた美しい銀髪に、冷ややかで、端正な顔立ちをしたこの男こそ、そう。
「えへへ。ごめんなさい。ルシウス義兄さん。」
99代目騎士総統括元帥、通称【パラディン】に着任するルシウスである。