第1話「実はオレ、ロボットでした」
今日は西暦2345年、6月7日。オレの13度目の誕生日だ。
オレの名前はシイル。小さなモバイルハウスで両親2人と暮らしている。
見た目は茶髪に茶色のアーモンド目。丸っこい顔。
自分で言うのもヘンだが、フツーの少年だ。
……今日まではそうだった。
家のリビングで、俺の誕生日祝いをする夜のことだった。
「シイル、今まで騙してすまなかったが、
実はお前は人間じゃなくてロボットなんだ」
誕生日ケーキの電子火花が散らつく中、親父は言った。
「いやいや、んなアホな」
くだらない冗談だなと思って笑ってると、
母さんが真顔なことに気づいた。
「え、マジなの」
そんなわけがないと思った。
そもそもロボットなら何でも覚えられて、勉強は楽勝なはずだ。
オレはロボットにしてはバカすぎる!
「信じてもらえないだろうから、この日のために付けといた機能がある」
親父はそういうと懐からスイッチを取り出し、ポチッとな、と言って押した。
すると俺の右腕はガコンといって折れ曲がり、できた空洞からハトのおもちゃが出てきた。
「ぎゃーっ!!!」
そんなバカな。オレは左腕で右腕を掴んで叫んだ。
「すまん、これが真実なんだ……!」
タンジョウビオメデトウ、タンジョウビオメデトウ、と甲高い電子音声でハトが喋っている。
「しかもお前が13歳というのは設定で、本当は5歳だ」
「5歳!?」
道理で8歳より前の記憶が無いと思ってたけど、オレ5歳だったのか!
近所の子供を思い浮かべるとあんまりに幼くて、ショックだ。
「お前はコンピューターの支配から世界を救うために作られた、全人類の希望だ」
「それならハト付けてる場合じゃねーだろ!」
一体どこまでバカ話でどこから真実なんだ!
混乱していると、母さんは付け加えるようにしてこう言った。
「父さん、ハトが好きなのよ」
「だから何!?」
父さんはオレの腕を元に戻してから話を続けた。
「シイル、お前や父さんたちが生きているこの世界が、
現実じゃなくて電脳による仮想世界であることは知っているだろう」
「それは知ってるけど…」
俺たち人間はコンピューターの支配下に置かれ、もう現実の世界に生きちゃいない。
それは今の世界の常識で、歴史学を学べば一番初めに知ることだ。
でも……
「今こそ現実の世界を人間の手に取り戻さなければならん!」
「他の人に任せちゃいけないのかよー」
正直オレは今の生活が不便に思ったことはないのだ。
「くっ……本当の世界を取り戻す!とかそういうのに憧れないのか!」
「せっかくこんなおあつらえ向きの世界があるのにねえ」
親父が拳に力を入れて悔しそうに話すと、母さんも共感して頷いた。
俺が取り戻したいのは日常だ。マジで。
「父さんだってチヤホヤされたいんだぞ!世界を救った開発者としてな!」
結局自分のためかい!めちゃくちゃだこいつ。
「とにかくオレは今まで通り暮らすからな!」
オレは腕組みをして断固として断る姿勢を見せた。
「かくなる上は」
そう言うと親父はさっきのスイッチをもう1度押した。
そしたら、今度はオレのあらゆる関節からハトが出てきた。
「ぎゃーっ!」
「このまま一生過ごしてもらうことになる」
親父はしたり顔だ。ケーキの電子火花に照らされて邪悪に見える。
「それは嫌だー!」
オレはハトを出しながら仰向けに倒れて喚く。なんてマヌケなんだ。
「ならば行くのだ」
「くそ、仕方ない……」
本当に仕方ない。ハトを出しながら歩く人間…いや、ロボットなんて、
あまりに滑稽だ。そんなんで一生生きていくなんて嫌すぎる。
俺が頭を抱えてしばらくすると、
しきり直すように母さんが手を叩いて言った。
「それじゃ、誕生日ケーキを食べましょうか」
それどころじゃないぜ……
――こうして、オレはコンピューターから世界を取り戻すために旅立つことになったのだ。