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◆ゆるき荘の緋影とお題でポンの巻◆


 乱れた衣服からまろびでる透き通るような白い素肌を顕にしている女性の前でナルはシロと並んで色あせた畳の上で正座のうえ三つ指つきそうな勢いで頭をさげていた。

 

 女性の年齢は二十前ぐらいだろう。


 さきほどのゆきなよりもやや年上に見える。

 

この女性が特別養護神様ホームを統括する(おさ)・七難緋影だ。


 身なりは質素そのもの、色あせた白小袖と緋袴。


 藁人形の絵があしらってある千早。バストの上からさがる前布は黒。


 みかけだけは巫女さん風の衣装だ。


 そんな三人はゆるぎ荘に入って正面二百米(メートル)、その曲がり角にある第三会議室と呼ばれている二十枚の畳が敷き詰めている個室でシロは姉と旦那の初顔合わせ……そう、家族初対面していた。


「こんにちわなのですぅ、こきげんはよいですかぁ? 悪かったら一目散に廊下に逃げますのでぇ。緋影姉ちゃん、シロのダーリンを連れてきたのですぅ」


 シロの声色はよそよそしく少し震えていた。


 顔色もよろしくない。


 怯えるようにゴクリと喉をならして犬耳はペタンと折り下げている。


 これは強者に対する絶対服従の証だ。


「……死刑」


「ひえぇーっ、いきなりなんでですかぁーっ」


「シロといい男が結ばれるなんて腹が立つから」


「そんなの横暴なのですぅ」


「そう思うならうちによこしなさい。ちょうど新薬の被験者がほしかったの」


「むひーっ、ダーリンのお尻の菊様に生ゴボウさしさしどころの騒ぎではないのですぅーっ」


 シロは瞳を輝かせて「にゃんですとぉーっ!」と叫び猛然と抗議するがのれんに腕押し緋影は軽く肩をすくめるとやれやれと額を押さえつつナルを見た。


 その目は鋭くナルを射抜く、まるで敵か味方かを見極めるような威圧感のほとばしりをうかがい知ることができるまなこだ。


「あの透明の柩を調べた。あれは遠き世界である常世と繋がる現世において死ぬことも許されぬ重罪を犯した(、、、、、、)ものに永遠の眠り(、、、、、)を与えるコールドスリープ用の棺。生者よ……いや、鈴賀ナル……その比類なき力強き波動、その名にあの棺……もしや、あの(、、)人類を裏切った濡れ衣をきせられた(、、、、、、、、、、、、、、、、)、鈴賀ナル(、、、、)ではないのか?」


 緋影のその言葉にナルはくいつく。


「濡れ衣だって……どういうこと!? 僕が濡れ衣って。僕が奴にはめられて冤罪を受けたときはそんな話はまったくなかった。みな僕を恨み、蔑み……僕の声に耳を傾けようとしなかった……冤罪って」


 ナルは虚をつかれたように瞳を瞬かせて驚愕している。


 そんなはずは……しんじられない。


 ナルの記憶……そう、ナルが生者として時が止まったあの日以降の星霜が刻まれた歴史をこの緋影は知っている。


 まるで絵物語でも聞かされているような感覚だ。


「やはり、知らぬか……あの柩は当時の真実を知っていた有志の正義をつらぬいた死という犠牲により排泄空間(亜空間)に流されたのであろう……このゴミ島に流れ着いたことは奇跡……鈴賀ナル……もう、背徳の汚名をきせられた過去は忘れよ。ここで新たな人生を歩むがよい。むろん、うちの奴隷として……クククッ」


「ど、奴隷ですってーっ!? そんなのダメですぅーっ。ダーリンは変態すぎて一生童貞で終わりそうなお買い得ダーリンなのですぅ。なので緋影姉ちゃんに渡すのはイヤイヤなのですぅ」


 頬をぷーっと膨らませたシロが唇を尖らせると不満げな顔で「ぶーぶー」と抗議しながら緋影に詰め寄った。


 この行動に驚いたのは緋影だった。


 てっきりすぐに引き下がると思っていたらしく血色の悪い唇に人差し指を当てると柔らかく微笑んだ。


「では、シロよ。その者との祝言をあげ、初夜を迎えてあっはんうっふんと嬌声を地下道に響かせながら子作りをしたいのであれば……ゆるぎ荘にて共に暮らしたいのであれば……ゆるぎ荘の住人である神や妖怪たちにナルの存在を示し、家族と絆の証しをたてよ」


「むむーっ。緋影姉ちゃんはとっても難しいことをいっていますーっ。も、もしやーっ、シロのこっそり秘蔵コレクションのお骨コツコツコレクションを明け渡せというのですかぁーっ。はうう、あれは犬歯がむずがゆいときにカミカミするのにちょうど良いのですぅ……はううぅ、だ、だけどダーリンのためですぅ。素直に渡しますぅ、かわりにダーリンのお尻で犬歯をガジガジしますぅ」


「もう二度とかませるかーっ!」


「もうもう、ツンデレなんですからぁ、ぽぉ」


 この世界にもツンデレってあるのですかーっ!?


 不条理な交換条件に巻き込まれたナルはシロの素敵な変態っぷりに動揺することもなくお尻に手を当てて「グルルーッ」と唸っている。


 そんな二人を緋影はうっそりとした死んだ魚のような濁った瞳をギラつかせて温かな眼差を送ると軽く微笑み優しげな口調で囁いた。


「やっぱり死刑にする。ナルよ、折角なので死刑方法を選ばせてあげるよ」


「ちょっと待て、なんで僕が死刑にされるんだーっ。僕にも権利があるだろう」


「そうなのですぅーっ。ダーリンはシロと結婚する権利があるのですぅ」


「何でいきなり結婚やねん!」


「クククッ、ではうちが言い渡す処刑方法を選択できる権利の行使だな」


「なんで殺されなきゃダメなんやーっ!」


「クククッ、贅沢者め……ならば、選ばせてやろう。このシロとともに生きたければこの書類にサインしろ。ここに名を記してうちの用事を一つこなせばうちの真名のもとにナルをゆるぎ荘の一員として認めてやろう。でなければ、悪しきものが蔓延るゴミ島でのたれ死ぬかそこの壁で潜んでいるぬりかべにコンニャクプレイで弄ばれて死ぬか……好きな方を選択しろ。生きたいのか!? 死にたいのか!?」


 危機迫る迫力! うっそりした瞳が嘘のように鋭く光る。


 内からみなぎる覇気は年相応の女性のそれとはあまりにもかけ離れて異質だった。


 存在そのものが憎悪や嫉妬が凝り固まって意思をもったような錯覚さえ芽生える。


 そんな想いが心中で渦巻いた刹那。


 ドスンッ!


 緋影に難なく手首を取られたナルは子供のように軽くあしらわれて受身も取れずに畳に打ち投げられる。


 一瞬、息が詰まったナルが瞼を開けた真ん前に緋影の顔が見えると喉元に鋒鋭い五寸釘が突き立てられるとひんやりとした鉄の感触が肌にひろがる。


 ナルのお腹の上をまたがりマウントポジションをとっている緋影のスピードと気迫にナルの肉体は硬直したようにピクリとも動けない。


「ナルよ……二社一択だ……死んでうちの実験用モルモットになりたかったらこのまま無言でいろ。生きのびて想いを晴らすチャンスがほしいなら一度だけ首を縦に振れ。そして、そこの用紙に名をかけ。あの用紙は契約書だ、あれに名を記せば、今、この場でうちのお尻の感触をお腹で堪能している事実は見逃してやる」


「はぅぅーっ、ダーリンはピンチに見えて緋影姉ちゃんのお尻をもみもみ堪能していたのですかーっ! これはとびっきりのエロなのですぅ」


「そんなわけないだろーっ!」と叫びたいがナルは押し黙って緋影の要求どおり頷いた。

 するとナルの真剣な表情を俯瞰して堪能していた緋影が突然唇を尖らせると面倒臭そうな仕草で立ち上がりシロに振り返る。


 すると緋影は自らの柔らかく波打った銀色の髪を一本引っこ抜くと半ば諦めたようにシロに渡した。


「ほら、この書類を書き終えたら、うちの髪と一緒に燃やせ。そうすれば契約が成立する」

 ぶっきらぼうにそう言い捨てると緋影が出口に向かい歩きはじめた。


「シロ、その契約書の意味をよく考えて行動をしろ。伊達と酔狂で作ってやった契約書だ。もう二度と他人である生者の受け入れはない特例だ。愛する妹よ。後、その契約書に記載してあるお題を必ずこなすように……クククッ」


「はううぅ、ありがとうなのですぅ。持つべきものはやはり緋影姉ちゃんなのですぅーっ」

 シロは笑顔を崩さず契約書と緋影の髪を大事に胸元で抱きしめた。


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