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◆出来立て妹が年上の嫁だった件の巻◆ 

 グツグツと煮えたぎるお湯。


 薪がくべられ燃え盛る火でぞんぶんに温められたドラム缶からもくもくと湧き出る蒸気、肌が真っ赤になった少年はどっぷりつかっていた湯船から慌てて身体を引きあげる。


「うあぁぁぁぁーっ!」


 阿鼻叫喚の雄叫びをあげて全裸で地べたを転がりまわる。


「はにゃー、気が付いたのですぅ。突然湯船から飛び出たらダメなのですぅ。煮沸消毒をかねて夕飯の出汁をとっているのですぅ。我慢するのですぅ。後、五分は肩を鎮めて我慢ですぅ」


「ぼけーっ、茹で上がるわーっ!」


「むむーっ、初対面でいきなり口が悪いのですぅ。はっ! もうもう、シロを見てお肌を真っ赤にするほどテレテレしてるですぅ。一目惚れのツンデレですかぁ?」


「そんなわけ無いだろーっ!」 


 竹製の火吹き筒を片手に煤ぼけた顔のシロがにへらぁと相好が崩れると心臓の鼓動は早くなっていく。


 ぷるるんと張りのある頬を朱に染めて胸ときめく居心地の良い早鐘に感情を乗せるように軽く目を細めてのたうちまわっていた少年を見つめた。


「ハーハー……あっ、えっと……キミが助けてくれたのか?」


「えっへんそうなのですぅ。とっても感謝するのですぅ。綺麗な柩で思春期の朝立ちぐらいカチンカチンに固まっていたのでお湯につけてとかしていたのですぅ。死んでも茹で上がった肉は食べれるので一石二鳥なのですぅ……とゆきなが言っていましたぁ」 


 無邪気に首を縦にブンブンと振ったシロを見て事情を悟った少年はほっと胸を撫で下ろしびしょ濡れた軽く頭を掻いた、そして恐る恐る顔を上にあげてあたりの景色をみいった。


 空は錆びた灰色。


 一点の雲もなくどんよりとしている。


 乾いたレンガで区切られた敷地には古ぼけた一件の大きな屋敷が鎮座しており人を威圧するような

圧倒的存在感をかもしだしている。


 肌にまとわりつく大気は澱んだ空気におおわれて爽快感の片鱗もない。


「そうですぅ、お互いに自己紹介をするのですぅ。シロはシロといいますぅ。まだまだピチピチヒヨっ子の百歳! とっても可愛い犬神なのですぅ。チャームポイントはクンクンするお鼻とぺったんこな胸ですぅ。シロは名乗ったのですぅ、なので名前をおしえるのですぅ」


「な、名前!? えっと、僕はナル……鈴賀ナル」

 興味津々で覗き込んでくるシロにやや儀礼的に答えた黒髪の少年ナルは特徴的な金色の瞳を瞬かせてきょどっている。


「むふふっ、ナルですかぁ。もうもう、ちんこ丸出しの素っ裸で名乗るとは凄い求愛なのですぅ。その決意に免じて今すぐ結婚してあげるのですぅ。感謝するのですぅ」


「はいーっ!? けっ、結婚だってーっ!」


 何が何かわからずにあたふたと慌てるナルを見てシロは指をもじもじさせると顔を真っ赤に染めて満足顔だ。


 ナル自身とびっきりの戸惑いの中心にいた。


 目が覚めればドラム缶で出汁を取られている始末……現状までの流れとそして今起こっている出来事がどのように結びついているのかまったく整理がつかない。


 ただ、小さな身体でめいっぱいお腹周りに抱きついてぴったり寄り添うシロのうちからあふれだすキラキラ星でも飛び出しそうな喜びがはっきりと感じ取れる。


 ナルにとっても久しく味わったことがない心地よい喜びを感じていた。


「そうですぅ。結婚しないとナルは生きていけないですぅ。このゴミ島はとっても厳しい弱肉強食の世界ですぅ。焼肉定食とはものが違うのですぅ。シロたち神様や妖怪たちですら特別養護神様ホームゆるぎ荘で身を寄せ合って暮らさないて生きていけないのですぅ」


「神様!? ゴミ島!?」


 あまりにも突飛な言葉を耳にして息が詰まりそうになったナルは茫然としてしまう。


 それは人として当たり前だろう、いきなりパラレルワールドに迷い込んだ状態なのだから。


「えっへん! そうですぅ、シロはれっきとした由緒ただしかった犬神なのですぅ。……といっても旧世界の役たたずなので死神に狩られてゴミ島に捨てられた身分ですぅ。ゆるぎ荘が鎮座するこの場所はそんな忘れ去られたゴミやクズが捨てられる島なのですぅ。……と言う訳でシロとすぐに結婚してここで暮らすのですぅ」


 あどけない相好で大きく澄んだ瞳に期待感をいっぱい溜めてシロは上目遣いでナルに囁く。


 その仕草は初対面のナルを無条件で信頼しきっているように無防備で本音と願望が寄り添った言葉を紡いでいる。


「ちょっと待てよ」


「はにゃ、もしかしてもうここで初夜をしたいのですかぁーっ。せっかちですぅ、ナルは裸でちんこ丸出しでもシロは乙女なのでパンツをはいてなくても心の準備ができていないのですぅ。もう、エロ猿ですぅ。子供は百匹はほしいですぅ」


「お前のその発想がエロだろーっ!」


 頭を抱えたナルはパニックに陥りそうな思考を踏みとどまらせながらもシロが『ほらほら愛でろ』と主張するように頭を突き出してきたので手を置いて黒髪をすくいながら優しく愛でた。


「そうですぅ。良い手つきなのですぅ。そのまま素直にシロの旦那さまになるのですぅ。今からダーリンなのですぅ。シロが発情期にはいるまで初夜はお預けなのですぅ。だけどちょこっとぐらいならおっぱい吸わせてあげますぅ。感謝するのですぅ!」


「てへへ……」とだらしなく言葉をこぼすと身体をもじもじさせながらシロは小さな手を誇らしげにぺったんこの胸に押し当てて恥ずかしそうに頬を真っ赤にして目を伏せてしまう。


「シロは何でも知っていますぅーっ。こないだゴミ山で拾った雑誌の袋とじエッチなコーナーを読んでがんばって研究したのですぅ。結婚には変態と萌えが不可欠とかいてありましたーっ。なので、今からシロは妹なのに年上で神様なのに嫁になってあげるのですぅ。感謝するのですぅ、ナルお兄ちゃん、ふんすっ!」


「ちょっとまったーっ、そのご都合主義的設定はおかしいやんーっ!」


 シロは犬耳を左右にピコピコと揺らして鼻息荒く真面目な顔でナルに言い寄るがナルは迷惑千万とばかりに大慌てで大仰に首をぷるぷると振った。


 そんな二人に割ってはいるようにニヤリと意地悪そうな笑顔をつくったゆきなが短く切り揃えられたグリーンの髪を揺らしてさも喜劇をみるように言葉を挟んだ。


「シロの言うとおりです。生き延びたくば素直にシロと結婚しなさい。我々は常に脅威にさらされています。家族と絆こそが全て(、、、、、、、、、)。ほんらい新参者であり人である貴方はこのゆるぎ荘の敷地内に入ることすら許されない存在。今、貴方が無事でいるのはそこの馬鹿犬神シロが緋影姉さまに駄々をこねあげて懇願した御蔭なのですよ」


「そうです、シロが床をゴロゴロ転がりまわって駄々をこねた御蔭なのですぅ。はううっ、ゆきなぁ! こっちをみちゃダメですぅ。シロの旦那さまは美味しそうなちんこ丸出し変態ルックなのですぅ。引き締まったプリケツが魅力的だったので犬歯をこすって少しカミカミと噛んだことは内緒なのですぅーっ」


「そんなことしていたのかぁーっ」


 その場でジタバタと騒ぎ祭囃子のように賑やかな二人の掛け合いにゆきなは珍しく自然に相好を崩していた。


「ほえぇーっ、珍しいもの発見なのですぅ。つっけんどんの朴念仁で有名な二つ名が能面と比喩されているゆきなが感情をだして笑っていますぅ。仏頂面でぶっきらぼうで美人と巨乳の二大至宝の持ち腐れのゆきなが笑っていますぅ。軍人の怨念が凝り固まって生まれたゆきなが笑うと丑三つ時に藁人形と五寸釘をもっている緋影姉ちゃんみたいですぅ……絶対に祟られそうですぅ」


「シロ……貴方の二の腕を焼肉の材料にするわよ」


「むひゃーっ、ゆきなの目がマジですぅ」


 ゆきなの怨念がこもったような冷たく低い声にシロは「はにゃーっ」と声をあげブルブルと身震いをしながらナルのふとももに抱きついた。


 そしてちらちらとナルの顔を見上げながらとても満足そうな表情を浮かべる。


 それはシロにとって新たな家族と安らぎの場所を得た瞬間でもあった。


「……鈴賀ナル」


 ゆきなは真剣な眼差しでナルに恭順するように求め訴えかけた。


 その瞳にたじろぐナルの心の隅々まで見通すような寂しさと疑いが交差した視線だった。


「私の名は真田ゆきな。シロのいったように世界に蔓延る無念と怨嗟が具現化した存在。シロと夫婦になるのなら私はナルの姉になる存在。ですので姉としての警告を一つだけ、シロの懸想立つ想いを無下にすることは許しません。ここは名も無きクズと廃棄物が集うゴミ島……その瞳の奥に宿る怨嗟……現世に晴らす恨みがあるのなら生き延びてためにシロに尽くしなさい」


 その凛々しすぎる軍服姿のめがね少女……まるで白昼夢でも見ているような錯覚におちいりそうな美しさと気高さが伝播してくる。


 そして僅かな沈黙の後、ゆきなは目を眇め、眉を顰めて再び言葉を紡いだ。


「鈴賀ナル……緋影姉さまがゆるぎ荘第三会議室で呼んでいます。貴方がここの住人に相応しいかを見極めるために。人……それも生者が訪れるなんて前例がないですから」


 そんなゆきなの言葉にシロは目を大きく見開いて反応した。


「はひぃーっ、ヤバヤバなのですぅ。陰険な緋影姉ちゃんのことだから都合が悪くなると極悪なことをバレないようにうまくやる達人になるのですぅ。シロのダーリンの乳首に洗濯バサミでつまんだりおちりの菊の穴にシロの大好きな生ゴボウを突っ込むきまんまんなのですぅーっ。ダーリン! シロも一緒にいくのですぅ、呼ばれてなくてもいくのですぅーっ!」


「洗濯バサミに生ごぼうって……それってド変態じゃないかーっ!」


 ここってとんでもない場所かも……。


 そんなナルの叫びなどどこ吹く風か……天真爛漫で直情思考のシロは力いっぱい拳を握ると瞳を潤ませて「新婚早々の浮気はダメなのですぅ」と大声で叫んだ。


 落ち着きを払った物腰のゆきなと「守るのですぅ」とブツブツ呟くシロに囲まれたナルは「とりあえず服を着させろーっ」と叫びながら訳も分からず連行されるのであった。


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