プロローグ
「ナル、なぜ死ぬのだ!」
その声音は激しい憤りをおびていた。
「不死者たるお前がこんな道半ばで死ぬことは許さぬぞ……うちが五寸釘で心臓を抉り出して五体を引き裂き殺すまでは誰にも殺されないってうちに誓ったではないか! 灰上美人の華に囲まれていっぱい約束したじゃないもう一人ぼっちにしないで」
酷く瞳を光らせながら慟哭した声で力なく俯いた銀髪の美少女は透明の柩の中でひっそりと横たわる少年の頬に手をそえて愛おしむようになぞる。
「このエロ馬鹿変態のダーリンはもどってきた夜にはとっておきの濃密系初夜って約束したのですぅ、シロのおっぱいを吸うまでは絶対に死なないっていったのですぅ」
両目に涙をいっぱい溜めて行き場のない憤怒を噛み殺して無性にイライラしている小柄の美少女は足元に転がるゴミを蹴り上げた。
「そうだとも、我が妹たるシロの初夜もだがゴミと淀みと憎しみの化身のうちのことも抱くと言ったではないか。いっぱい……いっぱい愛してあげるから。もうどんな相手と浮気しても縄で縛って煮えたぎるマグマに落としたり、砂かけババアのところで朝まで添い寝なんかさせないから……戻ってきて」
悲哀の色が重なったように大きな曇天雲が灰色の空を遮り光がとざされた薄暗い世界に鎮座するゴミ山の稜線の彼方まで延延と続いている。
「こうなったら……弔い合戦です。ナルはこのゴミ島を守るために……私たちを守るために命を落としたの。このゴミ島は私たち聖域。忘れ去られた神や迫害された妖怪に許された最後の砦。特別養護神様ホームゆるぎ荘の総力を結集して弔い合戦に打ってでましょう緋影姉さま!」
二人の美少女を交互に見ながら軍服を着た美少女は端整な顔立ちを歪めて決然と意思を示した。
ただ、その左足の付け根からはめられた真新しい義足が戦場の厳しさを物語っている。
遠くから亡者の鳴き声が聞こえる。
三人はお互いに温かい視線を向け合うとゴミ山の更に先に鎮座した宇宙戦艦を見つめた。
「これが現実なのか。全知全能の世界から見捨てられたうちたちにまだ、みえざるものは過酷な試練をあたえるのか! うちは信じられないぞ」
「むむーっ、あいつら一匹残らずシロの犬歯で噛み殺してやるのですぅ」
「私も馬鹿犬神と同意見よ。座して滅びを待つ訳にはいかない」
その時、不意にけたたましい咆哮がゴミ山の麓から轟いた。
目もくらむような憤激を宿した胸の高鳴りに押されて小柄の美少女は犬耳をピクピクさせて顎をあげるとゆっくり瞼を閉じる。
そして警戒心が湧き上がった声で
「あいつらは絶対に生きてこのゴミ島からかえさないのですぅ」
と今にも鋭い犬歯で噛み付きそうな声をあげた。