読み進めてはいけない
さてさて、今宵もまた。
その遊園地に人が訪れる。
ひと気のなくなった遊園地。
うら寂れた廃墟を思わせるその場所は、だからこそ人を魅了するのか。
興味本位、戯れに。
貴方がたもまた、そんな来訪者の一組であった。
その報いが、どのようなものか――知る由もないのでしょう。
場所は、かつてドリームキャッスルと呼ばれた建造物の、成れの果て。夢を与えた絢爛豪華なお城は、今はおどろおどろしい建物となっています。
出迎えてくれたのは、みすぼらしいひとりの男。
貴方方は、彼に話しかけることにしたのです。
「やれやれ、全く。
またかよ」
男は、億劫そうに頭を振りました。
◇
おまえさんで、もう十人目……いや、こいつは十組目って言うのかね。まったく、うっとうしい。俺達は、ただ静かに過ごしたいってのになあ。
しかし、まったく皮肉なもんだ。
そもそも、この遊園地はヒトが寄り付かなくなって閉園だってのに、今更になってこうやって、あんたらみたいなお客様が来るんだからねえ。後の祭りって言うのかねえ。
そうは、思わないか? まあ、どうでもいいか。どうでもいいわな。
ん、俺達が何だって? ふん、見てわかるだろ?
ここは、いわゆる家なしの、ろくでなし連中の溜まり場だよ。ホームレスってやつだよ。文句あるか?
得に、このドリームキャッスルは、部屋も多いし、雨風も凌げるしな。恰好の住み家ってもんだ。
ま、ここでの奇声とかは、住んでいる奴らのもんだろうよ。まあ、色んな奴がいるしなあ。プライバシーって奴だよ。関係ねえだろ。
ほら、納得しただろ。
もう帰れ帰れ。
あ? まだ話が聞きたい? めんどくせー。
ん? 何だ、食い物をくれるのか? そういうことは、早くしてくれ。そんだったら、少しはこっちも態度を変えるぜ。
へへへ……おいおい、仕方ねえなあ。ちょうど腹も減ってたんだ。俺は人間は……ああ、いやいや、何でもねえ。気にするな。
おう、こいつはうまいぜ。甘いものなんて、久しぶりだー。
ん、飲み物もあるのか? いやいや、気が利くねえ。ぷはー、炭酸か。よく冷えててうまいじゃねえか。
……ふ、ふん。し、仕方ねえな。
ちょっとだぞ。まあ、ちっとなら、話に付き合ってやってもいいぞ。まだ、ギリギリ日は高いし、大丈夫だろう。
あ? こっちの話だ。気にするな。
んで、何が訊きたいんだ?
そもそも、ここが廃園になった理由? ただの経営難だろ。世知辛い世の中だからなあ。今日日の子供は、遊園血なんぞ楽しまねえだろう。
それならガキ達が、ここで行方不明になったってことか?
おいおい、世界に誇る治安大国のこの日本でそんな事件があって表沙汰にならないわけがないだろう? 日本の警察、舐めるなよ。どこぞのデマ国と一緒にするなよ。人身売買デパートでもあるまいし。
他の噂だって、どいつもこいつも眉唾さ。
ジェットコースーターの事故なんて、首が飛ぶわけでもねえ。せいぜいヅラが盛大に飛んだとか、彼女の手前、調子こいて最前列に乗った彼氏が思い切り漏らしちまったとか、かかかか……それも立派な事故だわな。
メリーゴーラウンドは、今でも時々動かしてる奴がいるなあ。
まあ、観覧車も似たようなもんだ。暇つぶしだ。
なあ、おい。もちっと食い物はねえのか? お、わるいな。いただくぜ。最近は、あまり食い物も見つからなくてな。助かるぜ。
んで、他の話かあ。
ミラーハウスで入れ替わり? ぬはははは! それは、崩れた女が厚化粧でも直したんじゃねえの? 女は化けるって言うしなあ。
あ――さっきから聞いてて、肩透かし? つまらない?
おいおい。あのなあ、そんな面白いことなんてねえんだよ。どんな噂に、何を期待してるか知らねえけど、現実なんてこんなもんだよ。
つまらない。だから、ここは潰れたんだろ?
全く、人間って奴はなあ。
ほんとこうやって、無責任に騒ぎ立ててくれる。いい加減、はっきり言うぜ?
俺達はどうせ世間のあぶれ者。ここでひっそり暮らしたいんだ。それだけだ。
だから、放っておいてくれないか? おまえらみたいな野次馬連中がずかずか来るのは、はっきり言って迷惑なんだ。
ほら、お帰りはあっちだ。
さあ、帰れ帰れ。
なあ。
明るい内に、帰りなさい。
……ん?
何だ、まだいたのか?
早く帰れって言っただろ?
おい、知らねえぞ!
俺は、まだおとなしい。
他の奴らは、どうか知らねえぞ。暗くなると、他の奴らも出てきやがる。もっとタチの悪いのもいるんだ!
さあ、帰れ。
さあさあ、帰れ。
今すぐだ!
命は、惜しくねえのかよ!?
……ふん。
やっと帰ったか。
それにしても全く、人間の肉なんて美味いものかねえ。俺には、わからねえよ。
まあ、あいつらは大好物みたいだからなあ。
ここに人間がいるなんてわかったら、とんでもねえよ。
しかし、人間ってのはわからねえな。怖い噂をばら撒いたのに、却ってやってきやがる。くだらねえ話にしておけば、呆れて帰ってくれるってもんだ。
まったく、それもいちいちめんどくせええなあ。
ん?
あ、おい。
おい、まだいたのか? 何をぐずぐすしてやがる。
馬鹿野郎、早く帰れ! 帰れって言ってるだろうが!
もう、時間がねえ――
……あー、あー。
もう、遅い。
無理だ。
タイムオーバーだ。
残念だったな、あんたら。
不用意に首を突っ込むから――
ほら。
ああ……あいつらが、来ちまったじゃねえか。
◇
好奇心は猫を殺す。
確か、そんな言葉がありますね。
このお話の登場人物達は、警告を受けているにも関わらず首を突っ込み過ぎたせいで、恐ろしい末路を遂げたようです。
早く帰ればよかったのに、もう二度と帰れなくなってしまったようです。ご愁傷様です。
火のない所に煙は立たず。
そもそも曰くつきの場所には、それ相応の理由があるのです。
君子危うきに近寄らず。長生きをしたければ、時には臆病であっても構わないのです。それが、賢い生き方と言うものですよ。
まだ、死にたくはないでしょう?
ほらほら、他人事ではありませんよ?
今、この文章を読んでいるそこの貴方。
貴方も、ここで読むのをやめておきなさい。
ブラウザバックで戻って、こんな駄作のことなんて忘れてしまいなさい。
ここには、もっとたくさんの面白いお話がたくさんあるでしょう? ちょうどイベントをやってもいるようですし。そちらを読んでいた方が、絶対にいいですよ。
有意義ですよ。ほら、そうしましょう。
今ならまだ間に合います。
ほらほら、急いで。
ねえ、だから。
間違ってもこれ以上、読み進めては絶対にいけませんよ?
はい、それでは。
さようなら。
…………。
あれ?
ねえ、まだ帰らないんですか?
貴方も酔狂ですねえ。
こんなお話、面白くもなんともないでしょう?
もう、やめておきない。ねえ、その方が絶対にいいですよ。
ほらほら。
ねえ?
……いや。
ほんと。
だから、やめておきなさいって。
ふ、をおとすだろう。
……あ。
あ、あー。
ここまで読んでしまいましたか。
貴方も、警告に従いませんでしたね。
残念です。
本当に、残念です。
ねえ、気が付きませんでしたか?
この文章には、読んだ者に働きかける災いの文章が隠されていたんです。
ここまで読んでしまった貴方には、きっちりとその呪いが刷り込まれてしまいました。
予告通り、数日以内にその災いが訪れることでしょう。
わたしは警告しましたよ?
従わなかったのは、貴方です。
残念です。
本当に、残念です。
呪いを解く方法?
知りたいですか?
どうしましょう。
それは、ですねえ……
あ、時間切れです。
・のついた文字をつなげて、読んでみてください。
本当は、もっと後味悪かったりを考えましたが、お遊びなのでこのくらいにしておきます。