07 「Boom Boom Dollar」
県内で行われる一般参加者による、団体戦での剣道大会を控えたK市内の体育クラブの『藤岡剣友会』。
今日の夜の7時、そのクラブ会員3人は、胴着と防具をつけ、弱々しく気合いの抜けた掛け声で、竹刀を振る。
公共体育館内の道場は、弱々しい足音が響いていた。
遠くから、彼らを見守る選手の一人であり、藤岡剣友会のリーダーである多摩雪乃という名の、まだ高校生くらいの胴着服の少女が居た。
彼女は不安そうな様子で、練習する彼らを見ながら、時計を見ていた。
(脇田さんが遅い…)
と、選手の一人である脇田が練習に来て居ないことを気にしていた。
彼女の不安が込み上げる。
毎年、大会で優勝を飾ってきた藤岡剣友会の団体戦参加メンバー。
しかし、ここ最近、彼ら、屈強な選手達の数名が、謎の集団に襲われ、負傷。剣道が出来なくなってしまい、大会に出られなくなってしまった。
そのため、大会近くだというのに、戦力になる選手達は、脇田以外、出場出来なくなり、残こされたのは、雪乃の美しい肌の美貌と健康そうな体つきに、ホイホイ入ってきた初心者のヤサ男達の三人。
それに加えて、剣道を幼い頃からやってきた雪乃と、頼りになる脇田だけだった。
なにより、理由が解らないまま、負傷して大会に出れなくなり、悔しいと嘆いている大事な剣道の仲間達を思うと、彼女は、余計に、脇田が来ない事に不安になった。
それにしても、選手達を襲った集団は、何者なのかと彼女は考えた。
しばらくして…。
ダンダンダン!
と、激しい足音が、彼女の耳に入ってきた。
「姉ちゃん!大変だ!」
足を鳴らすのは、彼女の小学生の弟、大樹。
彼の声が聞こえたとき、彼女は嫌な予感に体を蝕まれた。
制服に着替えた雪乃は、落ち込んだ様子で、道場を後にした。
暗い夜道を、弟の大樹と供に歩き、家路に向かう。
さっき、大樹が、クラブのマネージャーから聞いて伝えられた、脇田選手が、またも、何者かに襲われ、足首を負傷し、大会に出れなくなったとの連絡に、彼女はショックを受けた。
何故、自分が大好きな剣道の仲間達が、こんな目に遭わなければならないのかと、心の底から嘆いた。
同時に、みんなで楽しみにしていた今年の大会の辞退が、頭によぎる。
「姉ちゃん…」
と、弟の大樹に手を握られ、雪乃は泣きたい気持ちを抑え、笑顔で…。
「うん!そうだ、明日、学校が終わったら、みんなのお見舞いに行こう」
と、言った。
そんな姉の気持ちが、大樹には痛いほど伝わった。
翌日、夕方。
学校帰りに、選手達のお見舞いに行ってきた姉弟は、いつものように、練習するために体育館に向かった。
そして、二人は、通い慣れた体育館の入り口前で、とんでもないモノを目にする…。
「きゃああああああ!!!!」
夕方の薄暗い空気を裂くように雪乃は叫んだ。
彼女は、尻餅をついて、地面に腰を落とし、入り口にあるモノに、ガクガクと震える。
「人が、死んでいる…」
なんと、体育館の入り口前で、着物を着た男が倒れていた。
うつ伏せになり、まるで、時代劇の斬られ役のような状態で倒れているのに、彼女は、涙目になる。
しかし、大樹は驚くことなく、その倒れている男に近づいた。
スー、スー
すると、男から呼吸が聞こえた。
呼吸を確認した大樹は、腰を抜かした姉に対して、冷静に…。
「姉ちゃん、こいつ、生きてるよ…」
「へっ…」
と、言ってやった。
しかも、倒れている男は、地獄同盟会の一人、妙な剣客衣裳の冬風カタナであった。
体育館内で、二人が夜食用に持っていた弁当を、カタナに食べさせた。
彼は、こないだの集まりでの焼肉以来、なにも食べていなかったため、この体育館入り口前で、行き倒れていた。
「いやー、すまない。俺としたことが、うら若き娘さんと、ワンパクな小僧に助けられるとは!」
と、久しぶりの食事に、カタナは、胴着に着替えた二人に礼を言う。
そんな彼を見て、大樹は…。
「お前のせいで、高校の番長を泣かしたことが自慢の姉ちゃんが、腰抜かしちまったんだぞ!」
と、雪乃に指を差して言う。
さっき、腰を抜かしたことと、そんな変な自慢を言われ、恥ずかしくなった雪乃は…。
「お馬鹿!」
と、大樹の口を押さえた。
その二人の様子を見て、カタナは笑いながら…。
「それは、すまないことをした。許してくれ、娘さん」
と、わけ解らない姿をしているカタナだが、端正で整った顔立ちの笑顔で、雪乃を見つめた。
そんな彼の表情を見て、雪乃は柄にもなく、ドキッ…、と胸をときめかせた。
弁当のオニギリを食べながら、カタナは…。
「ちなみに、娘さん。さっき、腰を抜かした時に見えたが、なかなか可愛いパンツを穿いてたな」
と言い放った端正で整った顔面は、雪乃から、高校の番長を泣かした自慢のパンチを受けた。
そんなわけで、道場内に場所を変えて、雪乃と大樹の二人は正座しながら、今、藤岡剣友会が抱えている謎の暴行事件についての話を一部始終、カタナはあぐら姿で、鼻血をティッシュで抑えながら聞いた。
「なるほど…。それで、大事な仲間達は負傷を受けたので、その大会は辞退するか…」
と言いながら、鼻血が止まったか、手の甲で鼻を拭うカタナ。
そんな彼に、大樹は駆け寄り…。
「残っている奴らは、全然、頼りにならないんだ。あいつら、ヒョロヒョロだし…」
と雪乃狙いで、さっき、道場に現れて、だらだらと準備体操を始めた彼らを見ながら、大樹は言う。
お世辞にも、逞しいとは言いにくい彼ら3人を見て、カタナは、大樹の言い分に納得した。
「そうだ、姉ちゃん!この人に、選手として出てもらったら?なんか、見た目からして、強そうだし」
と、大樹は雪乃の手を引っ張りながら言った。
そう言われたカタナは、視線を大樹に向ける。
しかし、雪乃は、行き倒れてたのを助けたとはいえ、知らない人であるカタナに、そんなことを頼むのは、難しかった。
確かに、頼れる選手が居ない今、着物からでも解るくらいに、逞しい肉体をした彼に頼りたい気持ちはあるが…。
「コラ、大樹、ダメよ…。この人に、迷惑かけちゃ…。でも、あなた、確かに凄い体つきしてますし、木刀を腰にしてます…。あなたも、もしかして、剣道か、武術を?」
と雪乃に聞かれ、カタナは自分の腰にある木刀を見つめた。
「すまないが、この木刀は、草津温泉で買った土産品。さらには、剣道も武術にも精通しておらん…」
と、カタナは木刀を腹帯から抜いて、草津温泉の文字を二人に見せた。
草津温泉の文字を見た、二人は落胆した。
それに加え、カタナが…。
「それに、娘さんの方が、良い体しておるじゃないか…」
と、カタナは素早い身の動きで、正座中の雪乃の背後に回り、彼女の肩から、胸、腰、尻をペタペタと触る。
楽しそうな、端正で整った顔立ちのカタナの笑顔に、雪乃は、また高校の番長を泣かした自慢のパンチを味あわせた。
「あいつ!」
「なんて!」
「羨ましいことを!!」
その光景を遠くから見ていた、準備体操中の3人組は、見事に息を合わせて叫んだ。
「まぁ、俺も助けてもらった恩があるし、娘さんには、近年、セクハラが問題視される現在社会で、逮捕されるような真似をしたので、手伝わせてもらう…」
と、飛び出す鼻血を手で押さえるカタナが、そう言った。
遠くから見ていた、準備体操中の3人は、解っててやったのかよ!?と、カタナに心の底からのツッコミを入れたと同時に、何故か、尊敬の念を抱いた。
セクハラを受けた雪乃は、とりあえず、顔を赤くし、大樹の肩に両手を当てて…。
「じゃあ、手伝ってもらいます…。わたしは、多摩雪乃…。弟の大樹…。あなた、名前は?」
大樹は、やったー!と声を出しながら、頭に包帯を巻き、鼻血を流す男の顔を見た。
「冬風カタナ…。ハイカラな住所不定の無職さ…」
こうして、奇妙な男と、純情な剣道少女の二人は出会った。
鼻血を押さえながら、カタナは…。
(それにしても、彼女の仲間に負傷を与えた奴らとは…。まさかとは思うが、念のためだ…)
翌日、夕方の練習日。
大会まで、あと二週間しかない彼らは、今日も、公共体育館道場で練習を重ねていた。
団体戦参加メンバーに、雪乃と頼りない3人に、カタナも加わり、再始動した藤岡剣友会。
しかし…、そんな彼らの行く手を拒もうとするかのように、また新たな試練が待ち構える…。
道場の近くにある体育館の裏側の木々が静かに揺れる森林に、妙な足音…。
夜になり、木々と夜の闇に隠れるように、黒い全身タイツとマスクをした人影が三つ…。
そして、彼らは、密かに体育館裏口に近づき…。
「理由、動機、不明…。しかし、冬風カタナの連絡通り、公共体育館の裏口に、妙な影あり…」
裏口の体育館の屋根に立ち、上から、下で裏口に近づく影達を、腕を組んで見つめる者が居た。
黒いスーツ、黒い奇怪な形のマスク、赤いマフラー…。
そう、体育館屋根に立つのは、ファンタジスタスーツのシュガーレス・ゼファーナ…。
「ゼファーナ・春日こと、シュガーレス・ゼファーナが…、奴ら三名を、謎の暴行事件に関連ありと見て、手、足を折り砕いてでも捕獲する…。僕は、甘くない…」
コダチを抜刀して、シュガーレス・ゼファーナは屋根から、奴らに向かい飛び降りた。
登場人物の名前の由来。 ゼファーナ・春日→カワサキ、ゼファー400.750.1100より。 夏海アルゼ→ヤマハ、RZ250.350より。 秋羽隼→スズキ、GSX1300隼より。 冬風カタナ→スズキ、GSX1100カタナより。




