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06 「ギリギリ・サーフライダー」

『謎のライダー、逃走中の強盗に銃を突き付ける』


 早朝の新聞記事を、マンションで読んでいたアルゼは、コーヒーを口から吹いた。

 コーヒーが滲んだ記事には、強盗がランエボで逃走中、謎のライダーから、銃を突き付けられ、失速し、逮捕と書かれていた。

 犯人は、『ゴルゴムの仕業か!』と泣き叫んでいた。

 なお、逮捕に貢献した青いスーツの謎のライダーは、明らかに、銃刀法違反、スピード違反だった上、料金所を無視して行ったとのこと。

 これを読んで、アルゼは頭を抱える。


「こんな真似したのは、あの馬鹿のスキンヘッドに違いない…(ゴルゴムとか、こいつら、馬鹿か!?)」



 騒ぎの中心になっている秋羽隼は、出勤時間の5分前になっているのにも、関わらず、パンツだけの服装で、アパートで眠っていた。

 今日も、工場長の血圧は上がる。




「最近、様子がおかしいぞ…」


 と、スタッフルームにて、店長から、ゼファーナは言われた。

 今日のバイトは、ゼファーナは休みであったが、シフトの確認のため、レストランのスタッフルームに顔を出していた。

 そのとき、店長の所沢さんから、そう言われた。

 二人しかいない空間に、少し、沈黙が流れる。

 ゼファーナ自身も、最近、自分がよく解らなくなっていた。

 さっきも、ここに来る途中、桜花のバイクがあるか確認してしまい、駐輪所になかったから、ため息を吐いてしまった自分に、頭を抱えて悩んでいたところだ。


「そんなに、僕は暗いですか…」


 と、自虐的にゼファーナは返した。


「いや、違うな…」

「えっ…」


 店長から、意外な返し方をされた。

 店長は、自慢の髭をいじりながら、ゼファーナと初めて出会った時を思い出す…。




………………


 初めて出会ったあの日は、今から、4ヵ月前の、店長が、よく行く飲み屋で友人の男が、ゼファーナ・春日を連れていた。


 店長にとってのその男は、2年前に、その飲み屋で、バイクの話で気が合って、気楽に話せ、よくツーリングに行く仲であった。

 男は、とある工業開発の大企業の社長という立場であったが、鼻にかけず、気さくな人柄であり、なんでも、数年前、なんの研究をしていたか知らないが、研究員であった兄を亡くした。

 その兄の息子と、娘を引き取り、妻や、子どもが居なかった男は、実の子どものように接していると言っていた。

 その二人の子ども達は、現在、息子の方は半年前に、留学し海外に。娘は現在、大学に通い、一人暮らしをしているそうだ。

 そして、その友人は、『夏海幸雄(なつみ さちお)』という名だ。


 しかし、妻や、実の子どもの居ない彼が連れてきた少年のゼファーナは、家族でなく、何者だと、店長は不思議に思っていた。

 さらに、ゼファーナは飲み屋のカウンター席の彼の近くに立ち、隣で酒を嗜んでいる店長を、眼鏡の奥から、じっと睨んでいた。

 初めて見たときは、なにかに憑かれているみたいで、オカルト映画の登場人物みたいで、気味の悪い少年だと、ゼファーナを見て、店長は思った。

 しばらくして、夏海幸雄は、店長に…。


「君に頼みがある…。この少年は、半年前、とある事情で、兄の娘のアルゼが見つけた…。ゼファーナ・春日という名前だが、これは、偽名だ…」


 と、声を渋らせて言う。

 とある事情が、なんだか、店長には解らなかった。 しかし、彼の近くに立っているゼファーナの左腕の袖から、チラチラと見え隠れている左手首の傷跡が、なんの事情かを、店長に推測させる。


「詳しい話は出来ないが、すまない…。彼を、ゼファーナ・春日として、君の元へ働かせてくれ…」


 そう友人である夏海幸雄からの深々と頭を下げた姿に、店長は断れなかった。



 ゼファーナは、レストランで働かせると、思っていたより、真面目に皿洗いや、仕込みなどの仕事をこなしていたが、人と話さず、馴染めずで、最近になって、やっと、挨拶を返せるようになったぐらいだ。

 あと、アルバイトの子たちからは、彼を、なんか気持ち悪いと言って、誰も近寄ったりして、話を掛けない。


 詳しい事情が解らないが、友人の頼みで雇ったゼファーナは、店長からしても、なにか、簡単に触れられないような過去を持っていること以外に、謎だらけな少年だった。



………………


 そんな彼が、どう言ったことか、様子が以前より変わり始めていた。 気のせいか、ゼファーナの左手首のあの傷跡も、最近、目立たなくなってきたほどに、薄くなっている。

 傷の治りは、精神的なことが影響すると知っている店長に、彼に、なにかあったのかと思わせる。

 それに、いつもの彼なら、そうですか…、の一言で済ませて、すぐ立ち去っている。


「違うって…、なんですか…」


 自分の左手首の薄くなった傷跡を見ながら、ゼファーナは、店長に聞いた。


(あなたは、僕がシュガーレスなのを知らないんだ…。ここ最近、シュガーレスに感染されてきた自分の体は、この傷のように、過去を消そうとしているんだ…)


 袖めくり、傷跡を撫でながら、妙に威圧ある態度で、ゼファーナは店長を見つめる。

 店長は、友人から紹介された少年、ゼファーナの様子の変化の原因を探るように、同じく、威圧をかけて、彼を見つめる。

 その場に、沈黙が流れるが…。


「あっ、おはようございますー!!」


 しかし、スタッフルームに走る沈黙は、桜花にドアを開けられたことによって、破られた。


「んぁ!」


 その声に、反応したゼファーナは素早く、左手首の傷を袖で隠して、彼女の方に振り向いた。

 まるで、バントされたボールを、素早く拾い上げ、一塁に投げる外野の反射神経のごとく、機敏に動く彼に、店長は驚いた。


「あっ、春日君。今日、バイトなの?」


 と、聞いてきた彼女に、ゼファーナは下を向きながら…。


「いいえ…、シフトを確認しただけで…、すいません…、すぐに消えます…」


 と、喋った。

 店長は、目を点にして、本当に、様子が違うゼファーナを見つめる。


「春日君って、なんか、謝ってばっかりだね…。あたし、怒ってるように、見えるのかしら?」


 彼女が、ロッカーに向かいながら、そう言うと…。


「いやっ、その…」


 思わぬ返しに、ゼファーナは言葉を詰まらせた。


「こないだだって、アレ(NSR250R)をジロジロ、こそこそ見てたくせに」

「ぶっ!」


 と、彼女が口元をニヤませて、そう言った。

 ゼファーナは、鼻水を吹いた。

 アレがなんだか解らない店長は、いやらしい意味に聞き取ってしまい…。


「おい!春日!アレって、なんだ!」

「だぁ!!」


 と、店長はゼファーナに近づいて、彼のワイシャツの襟首を握った。

 ゼファーナは、顔を赤くして…。


「違う!いやらしい意味じゃない!誤解です!」

「この店は、一階建てだ!!」

「それは、五階!!」

「なにを、ジロジロ、こそこそ見たんだ!!」

「落ちついてくれぇ!」


 と、珍しく声を荒げて、ゼファーナは、店長に自己弁護をした。

 しかし、誤解をしたままの店長は、ゼファーナに、アレってなんだを、襟首を掴んで揺らしながら、繰り返し訊ねる。


「じゃあ、あたし着替えますんでー、覗かないでねー」


 と騒ぎを起こした桜花は、クスクス笑いながら、脱衣室に入って行った。

 ゼファーナを暗い奴かと思っていたけど、別に普通の男の子だと、彼女は笑っていた。



 店長から、頭を揺らされて、フラフラになりながら、ゼファーナは歩いて、レストランから出て行く。

 あんなに、騒いだのは初めてだと感じながら、フラフラと歩く。

 レストランから、しばらく歩くと、国道添いの歩行者用の通路に出る。

 車が止まる事無く、走り流れ続けていた。


「ん…!」


 フラフラの頭で、遠くを見ると…。

 痩せた小さな茶色の子犬が、歩行用通路をフラフラと歩いていた。

 しかも、今にでも、車が走っている道路に飛び出しそうな感じだ。

 よろよろと、子犬が車両側に向かった瞬間。


「あっ!」


 ゼファーナは、ワイシャツの胸元のボタン飛ばしながら、乱暴に外し、懐から、シュガーレススーツを覗かせた。

 そして、ジッパーを降ろして、懐に隠していたファンタジスタスーツの起動キーであるシュガーレスマスクを取出し、眼鏡の上から被った。

 私服を上に着ているが、多少、動きずらくなっただけで、シュガーレススーツの力が発動。

 視界も、眼鏡に合わさり、確保。

 そして、迷うことなき、スーツの力で、数10mを疾風のごとく駆け抜け、子犬をキャッチ。

 その勢いのまま、子犬を抱いて、国道添いの建物の影に隠れた。


「はぁはぁ…、もう心臓に悪いよ…」


 建物の影に隠れながら、子犬を抱きつつ、マスクを外した。

 ワンワン!子犬は、ゼファーナの腕で吠えるながら、彼の素顔を舐める。

 子犬を見ながら、彼は…。


「僕は、甘いなぁ…」


 と呟きながら、子犬に舐められ続けた。

冬風カタナ:年齢不詳。20前半くらい。 性格、放浪癖あり以外、不明。 使用ファンタジスタスーツは不明だが、他のメンバーのスーツとは、概念が違う。 武器、『木刀』。

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