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04 「FLASH BACK」

・出血描写があります。苦手な方は、ご注意下さい。

 被害者の南東華大学の生徒からの証言によると…。


 と、先日のニュースの内容を、ゼファーナは思い出していた。


 南東華大学が受けた被害は、三階、四階の更衣室に侵入し、鍵のかかったロッカールームを、なんらかの力でこじ開け、中から、生徒達の下着や、水着などの衣類を盗んだ。

 厳重な警備がされている学内に入り込み、着替え中の生徒らを、盗撮、インターネットの有料サイトで、流しているとのこと。

 これらの犯行から、犯人は同一犯とみなしている。

 なお、生徒達の精神的なショックが大きく、不安や恐怖に煽られているとのこと…。


 ゼファーナは、昨日、出会った桜花蘭のことを、頭に浮かべた。

 そして、眼鏡を外して、マスクを被った。

 マスクには、視力を補正する効果があるし、被ると邪魔になるので、眼鏡を外す。


「犯人は、ファンタジスタスーツを着てなくとも、二度と地に足を踏めなくする…」


 そう思うと、マスクの眼後部が光った。

 そして、学内に忍んだ。



 南東華大学の三階の地上から、数メートルはある高さ。

 その階の外側の窓付近の壁。

 異質な白い物体が、貼り着いていた。

 それは、蜘蛛やカエルのように、壁に這うようにして貼り着き、壁をよじ登っている。

 そして、これが貼り着いている壁の周囲は、人が通りにくい学園の菜園がある。

 さらには、授業や、サークル活動をしている時間帯であり、手薄になっていた。

 この貼り着いているのは、紛れもなく人。

 しかも、ファンタジスタスーツを着た人間であった。

 ゼファーナの推測は、当たっていた。

 このスーツは、壁に溶け込むような灰色の全身タイツ。

 そして、目にはゴーグルがあり、手足部分が特殊になっており、壁に貼り着けるように、手袋や、ブーツに硬質な細かい針が付いていた。

 これで、彼は壁から屋上に行き、学内に侵入。

 視線に入らない天井、窓から外の壁などに貼り着き、学生たちの動きを見計らい、更衣室の鍵を壊し、サークルなどで着替えした後の衣類の盗難を働いていた。

 さらには、夜中に、更衣室の天井各所に細工して、隠しカメラを設置し、そこから、盗撮の映像を入手していた。

 これが、許しがたい昼の闇に隠れた侵入者の正体である。

 そして、いつものように、犯人は立入禁止になっている、要らなくなった机、椅子などの物置となっている屋上に到着して、身を隠した。


 だが、今日は、いつもとは違う。


「なるほど…。少し高値の壁に貼り着く特殊なファンタジスタスーツか…」


 犯人が屋上に到着した瞬間、あらぬ方向から声が聞こえた。

 その声の方向に、犯人は顔を向けた。

 そこには、腕を組んで、椅子に座るシュガーレス・ゼファーナの姿が。


「誰だ!貴様は!」


 犯人は、叫ぶ。


「あんたと違い覗きにスーツを使っていない者だ!」


 と、シュガーレス・ゼファーナは椅子から立ち上がり、目の前にあった机を、犯人に向けて蹴飛ばした。

 ブァン!!と飛んできた机を犯人は、その特殊な手を開いて、手に貼り着けるように机をキャッチした。

 机は、やはり、手にひっついている。


 シュガーレス・ゼファーナが、ここまで、着たのは簡単だ。

 ただの単純な脚力で、地上から、屋上の五階まで跳んだのだ。

 スーツで強化され、目にも見えない動きと、バイクに追いつける脚力なら、出来ない事はない。


「くっ!」


 今度は、犯人が、手から机をシュガーレスに向けて投げた。

 同時に、この場から離れようと、地上の方へと、飛び降りた。


「甘い!」


 同じように、机を避けて、跡を追うように、シュガーレスも屋上から飛び降りる。

 犯人は、近くの木にしがみつきながら、ズサー!と滑り落ちたのに、対して、シュガーレスはダイレクトに地上から落ちて、高さからの衝撃を両足で受け止めた。


「ぐっ!」


 シュガーレスの足は痺れたが、当然、問題はない。

 しかし、その間に、犯人は遠くへ走って行く。

 後を、シュガーレスは追った。


(学校から離れた…)


 と、シュガーレスは南東華大学を、視界に入れた。


(学校は嫌いだ…。なのに、なんで、こんなところに…。僕は居る…)


 そう考えながら、シュガーレス・ゼファーナは犯人を追う。


(あの頃…)


 彼は走りながら、少しだけ、過去がフラッシュバックする。

 言葉に出来ない苦痛、痛み、悲しみ、虚無感、無力感が満ち溢れ、それらが、シュガーレスマスクの奥にある彼の瞳を、漆黒に染め上げる。


(今は、違う!今は、僕は、ゼファーナ・春日じゃない!!俺は、シュガーレススーツを着ている!だから、シュガーレス・ゼファーナだ!!)


 漆黒に染まった瞳が、逃げて行く犯人を捕らえる。

 しばらくして、何故か、脳裏に女性の顔が浮かんだ。

 女性の顔は…。

 出会ったことのない、遠い記憶に存在する母親ではなく、違う…。

 あの顔は…。

 しかし、その顔を消し飛ばすように、ゼファーナは目の前に犯人に向けて叫んだ。



「この苦苦しい世界は、俺の存在を否定した!なのに、貴様のような無関係な人間をダシに、甘い蜜を舐めてる害虫が存在するのが、許せねぇんだよ!!」



 しばらくして、昼間でも、真っ暗で、人通りのないトンネルの中に、犯人は消えた。

 そして、シュガーレスはトンネルの中で足を止めた。

 本当に、真っ暗で、視界が上手く確保出来ない。

 犯人は、間違いなくトンネルに潜んでいる。


「隠れたか…」


 シュガーレスは、コツコツ…、前へ歩く。

 歩きながら、首元のジッパーを胸元まで下ろした。

 そして、開いたスーツの胸元から、スーツの内側に固定されている二本の鞘があった。

 その鞘から、二本のコダチを抜き、両手に握った。

 胸元まで下げたジッパーを、また首元まで戻した。


 シュガーレスが、コダチ準備をしている時、犯人はトンネルの天井、ちょうど、シュガーレスの背面になる位置に、貼り着いていた。

 犯人のファンタジスタスーツのゴーグルには、暗やみでも視界が効くような仕様になっていた。

 だから、暗やみに紛れ、天井から、シュガーレスの背後に。


(あの野郎…。のうのうと、なんか準備したらしいが、背中が隙だらけだぜ…)


 と、犯人はスーツの腰ポケットから、ナイフを取り出した。

 これで、背後から、シュガーレスを…。


(邪魔されてたまるか…。脱ぎたての下着とか、ブルセラで、油くせぇオッサン共、変態どもに高値で売れるんだ…。しかも、こちとら、盗撮で飯食ってんだよ!邪魔されてたまるか!!)


ダッ!


 そして、犯人は、天井から離れて落下。

 落下地点は、シュガーレスの頭上。

 犯人は、ナイフを両手で握り締め…。


(パカッ!って、頭蓋骨、割れちまえ!!)


 犯人の刄は、シュガーレスの頭上寸前!


…。


!?


(えっ…)



 シュガーレスは、振り向いた。

 落下してくる犯人と、目を合わせた。

 そして…。


ざくっ!ざくっ!!


「ぎゃああああああ!!!!!」


 犯人は、トンネル中に響き渡る叫びで辺りを染め上げる。

 両足の太ももに、シュガーレスのコダチが、それぞれ、一本ずつ、ケーキのキャンドルのように突き刺さり、鮮血が飛び散る。

 あまりの激痛に、犯人は膝を崩して、前かがみに倒れた。

 そして、シュガーレスは倒れた犯人を見下すようにして、前に立っていた。


 シュガーレスの足元には、攻撃に失敗した血の付いていない犯人のナイフが転がる。


「後ろを制したくせに、相手から反撃が来るのと、俺のマスクも暗やみで視界が確認出来るのは、予想してなかったのか?甘いな…、甘すぎて、反吐が出る…」


 と、激痛に苦しむ犯人にシュガーレスは語る。


「貴様のスーツの特性と、貴様のコソコソした犯罪行為、さっきまで逃げてた貴様が、トンネルのような上下がある空間で、どうするかは、予想出来る…」


 そうシュガーレスは語る。

 さらには、犯人が落下してくる瞬間に、微かな音と微かな風が来た事で、シュガーレスは反撃した。

 スーツは通気性が良いのと、皮膚の感覚をシャープにさせるため、どんなに微かな変化にも反応出来る。


ズッ!ズッ!


「ぐっあ!」


 犯人を転がして、両足の太ももから、コダチ二本をシュガーレスは回収した。

 引き抜いた際、シュガーレスマスクに血が飛び散った。


「足の止血はしてやる…。だが、そのスーツを脱いで、隠しカメラ、盗んだ物を、全部を証拠品として、警察に送る…」


 と言いながら、コダチに付いた血を振り払った。




「で、僕は、そのあと、ファンタジスタスーツを燃やしましたし、やはり、裏サイトのネットオークションからです。犯人は、今頃、警察病院…」


 と、仕事終わりで、私服に戻ったゼファーナは、隣の席のアルゼに事の一部始終を報告。

 いつものジャージ服のアルゼは、サラダを食べながら、ウーロン茶を飲んでいた。

 ゼファーナは、目の前で、肉が、ジュウジュウ焼かれている鉄板を見た。


「ところで、なんで、集合するのが、焼肉屋なんですか…」


 と、向かい合う席で、バクバクと食べている秋羽隼と、冬風カタナの二人を見ながら、ゼファーナはアルゼに聞く。


「カタナが、一週間ちかく、食事抜きだったのと、どっかの馬鹿が、焼肉屋じゃないと嫌だと…」


 そう言っていると、隼が鉄板の焼かれているレバーを取った。

 アルゼの目が釣り上がった。


「それ…、僕が焼けるの待ってたレバー…」


 と、隼の口に運ばれていくレバーを見て、アルゼは言う。


「だったら、名前でも書いとけ、バーカ」

「後で、殺す…」

「ああー、出来るんなら、殺してくれー」

「脅しじゃなく、本当に、殺す…」


 と、アルゼと隼が口喧嘩を始めた。

 ゼファーナは、この光景を見て、ため息を吐き、アルゼは本当に、態度がデカイわりには、気が短いと思っていた。

 アルゼと、隼は、互いに睨み合う。

 その横で、平然と肉を食べているカタナ。

 ゼファーナは、口から魂が抜ける思いだった。


「どうした…?さっきから、一口も食べてないが」


 と、着物で頭に包帯を巻いているカタナが、ゼファーナに話し掛けた。

 ここに来てから、ゼファーナは注文もしてなく、一口も肉を食べていなかった。


「あー、いや、なんか食欲なくって…」


 と、ゼファーナは手で腹を抑えた。

 そして、今日、戦ったファンタジスタスーツを着た犯人を思い出していた。

 そのせいなのか、解らないが、どうも気分が良くない。


「俺は、腹がイッパイになって来たから、スープでも頼むが、お前は?」


 と、カタナはメニュー表を開いて、ゼファーナに聞いた。

 スープなら、腹に入るかもしれない…。

 変な人だが、今、横で喧嘩を始めてる二人より、カタナは気遣い出来る人で良かったと、ゼファーナは思った。


「すいません、カルビスープを、20人分」


 と、手を挙げて言うカタナに、ゼファーナは、こいつら、ダメだ…、と頭を抱えて嘆いた。





秋羽隼:21歳。自動車修理板金塗装工、整備士。 性格、昔はゾッキーだったらしく、ヤンキー気質な兄ちゃん。 使用ファンタジスタスーツ、『ポニー・ポニック』。使用武器?『KAWASAKI ZZ-R1100』

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