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41 「PAPERMOON」

 冬風カタナは携帯電話を持っていない。だから、彼に夜食の弁当を買いに行かせたのは良かったが、途中で頼み忘れた物を思い出しても、隼は連絡出来なかった。

 仕方なく、ポニーポニックを着て、愛車に乗り、コンビニに行った彼を探していた矢先、リアリティを纏うザッパーの姿を発見した。

 ザッパーは形的には、地獄同盟会で味方だが、隼は彼のことが気に入らなかった。だから、こんな場所でファンタジスタスーツを着ている彼が、なにをしているのかが気になった。

 また無差別での破壊工作を行っているのなら…、と思い、隼は銃の安全ピンを解除した。


 ザッパーは、ただ隼を睨む。

 以前の破壊工作途中でのゼファーナ春日といい、コルテ誘拐するはずだったクレージースカイホッパーズを足止めしているカタナといい、今、目の前に居る隼といい、想定外の人物の登場に、大切な『計画』が狂っていくのを、ザッパーは心の中で感じた。


(こいつら…、『計画』の踏み台でしかない存在が…、エヌアル様の『計画』の邪魔を…)


 終電が走る線路の陸橋の近くで、二人のファンタジスタスーツの着用者が互いに睨む。

 最初に出会ったときから、この2人には、なにか根本的に大きな亀裂があった。

 だから、もう戦闘が始まるのに言葉はなかった。


「貴様は、計画に邪魔だ!!」


 ザッパーは懐に潜ませていた鞭を、その手に握った。




 クレージースカイホッパーの鎖が、カタナの両腕に巻き付いた。右手には、ケンの鎖、左手には鳥村の鎖。それぞれが、アナコンダのように捕まえた獲物をギリギリと絞め上げる。カタナの両腕は、蒼白に染まっていく。

 両腕を左右から、引っ張られ、十字架に貼り付けられたように、カタナは両腕を広げさせられる。抵抗しても、クレージースカイホッパーの二人は左右それぞれに、彼の身を引き裂かんばかりに鎖を引っ張る。

 左右の両腕に走る苦痛を、カタナは耐える。ビリビリと、彼の着ていたコートが破れた。


「まさに、その名の通りに、カタナ狩り!」


 ケンはそう言って、更に、鎖を引っ張る。


「ひゃははははは!!手羽先みたいに裂いてやる!」


 ケンの反対側に立つ鳥村も、鎖を引っ張り上げる。綱引きのようにして、互いに体重をかけて、カタナの両腕を裂こうとした。


「両腕がなくなれば、再生するにも、トイレも難儀になるな!カタナさんよぉ!」


 ケンにそう言われ、カタナはググッ…、と苦痛に耐えるため、歯を強く噛み締める。両腕が無くなれば、さっきの足首のように、拾って繋げられない上に、この二人を相手に圧倒的不利になる。

 神速愛を使うにも、こんなにも、がっちりと固定されては無理で脱出不可能だ。


「確かに、両腕無くなったら、女を抱き締められなくるな…」


 そうカタナが言うと、着物に続いて皮膚が破れた。血を流し、赤い筋肉や血管が露出した両腕の筋肉が、ミシミシ…と悲鳴を上げ始めた。少しずつ、筋肉の繊維や神経が切れ始めている。


「どうだ?羽を切られ、籠に閉じ込められる鳥の気持ちが解ったか!?」


 鳥村は徐々に避けていくカタナの両腕を見て笑う。


「なぁ…、ケン・ホッパ…」


 苦痛を堪えながら、カタナは口を開く。強く噛み締めた唇は避け、仮面から血が滴れた。

 あん?と、鎖を網を引く漁師か綱引きの要領で引っ張るケンは返事をする。


「おまえさんの姉ちゃん…、ハイカラに美人さんだな…。こんな世界に足突っ込まなかったら、ただの明るい普通の女の子なのにな…」


 返事が来た右側に、顔を向けてカタナは言う。


「だから、なんだ…」


 身内の話をして、情に語り掛け、力を緩ませる作戦に出たのかと、ケンは思った。カタナは、どうやら、この通りに手が出せなくなったと嘲笑した。


「ケリー・ホッパは、どうでもいいんだよ…。血が繋がっているから、なんだ?過去よりも未来…。俺は、敵に負けて落ち着いたケリーより、この同じ道に生きるミスター鳥村と人生を歩む…」


 と言い、ケンは反対側で力を込める鳥村に視線を送る。

 鳥村は、ふふっ…、とマスクの奥で照れ笑いをした。


「ふは…」


 もう肘の間接や骨が裂かれ露出し、筋肉がブチブチ…、と切れながらもカタナを静かに笑った。両腕の再生が追い付けないまでに、断裂まで秒読みだ。


「共に人生を歩むだ…?バカ言うな…。互いに傷を舐めあって、去勢しただけの女々しいジャリが…。ケリー・ホッパは、ちゃんと自分の道を見つけたのにな…」


 カタナのこの言葉に、二人はカチン!と頭の中で音を立てる。


「オタクら…、誰かに縛られて、破壊を続けてるだけだろ…。そんな、オタクらが鎖を操るファンタジスタスーツを着てるなんて、三文芝居もいいとこだな…」


 逆上した二人は、握っていた鎖を思いっきりに引っ張り上げ、カタナの肘から下の両腕を断裂させた。

 ひどく生臭い音が、公園に響いた。




バン!


 ザッパーが鞭を握った瞬間、その右手を隼は撃ち抜いた。


「ぐぁっ!!」


 弾は貫通して、手の甲を突き破り、鞭が地面に落ちた。ザッパーは血が溢れ出す右手の傷を、左手で防いだ。

 銃口の煙を絶たせながら、隼はザッパーを睨む。


「挨拶がねぇぞ…、後輩君のザッパー君さんよぉ!」


 鞭を握った動きから、ザッパーは明らかに自分に対して、敵意を持っていると隼は判断した。

 だから、容赦なく銃を放った。 そして、隼の判断力はもう一発、ザッパーの右膝に向けて銃弾を放たせた。


「ぐぉあ!!」


 被弾した右膝は曲がり、ザッパーは地面に落ちた。右膝には血と硝煙が出ていた。

 右膝と右手がやられた。これで、ザッパーのファンタジスタスーツ、リアリティの能力である地面を掘っての移動は難儀になった。


「秋羽…、隼ァァ…」


 うつ伏せになりながら、ザッパーはマスク越しの瞳から、隼を睨む。

 隼は銃をポニーポニックのポケットに収納すると、ザッパーの前で膝を曲げて、視線の位置を同じにした。


「急所は外してやったが、いきなり発砲して悪かったな…。だが、なにしようとしてたんだ!?てめぇ、コラァ!!」


 ザッパーの襟首を掴み、隼は叫んだ。その勢いで、ザッパーのリアリティのマスクは外れた。これにより、リアリティの機能は停止した。

 マスクが外れると、激しく憎悪を放つ歪むザッパーの表情が顕れた。これが、彼の本当の素顔なのか。

 隼は思う。ザッパーが、行った相手を問わずに死者まで出した無差別でのアンチヒューマンズ関係者への暴力。そして、最近起きたクレージースカイホッパーの二人による、同じく、アンチヒューマンズ関係者への破壊活動。この二つに、まったくの無関係な人間も犠牲になった。

 だから、隼は、この二つには、このザッパーが絡んでいると思った。推理や推測ではなく、直感でだ。


「鎖のファンタジスタスーツと、貴様、関係あるんじゃねぇのか!?なんの目的で、エヌアルから送られてきたんだ、てめぇ、コラァ!!俺達は、アンチヒューマンズを破壊するのが目的だがよ、無関係な人間まで巻き込む破壊はしねぇんだよ!」


 ザッパーの襟首を握って、持ち上げながら、隼は立ち上がる。

 狂気に表情を歪ませていた、ザッパーは口を息を吐き、急に表情を元に戻した。


「綺麗事抜かさないで下さい…、貴様らと、『俺達』のやっていることは同じなんですよ…」


 隼は『俺達』と言ったのを聞き逃さなかった。これは、ザッパーがクレージースカイホッパーの二人と関係があるのを自白したようなものだ。

 だが、隼は、彼の言葉に勢いを無くした。


「組織を破壊するには、大小であれ、犠牲が出ますよ…、『千葉隼人』さん…。あんた、バカだけど、わかるだろ…、それぐらい…。」


 襟首を握られながらも、ザッパーは隼に楯突き。さっきまで歪んでいたザッパーの表情は、急に穏やかになった。


「僕らと目的は同じなんですよ…、千葉隼人さん…。あなた、一番、アンチヒューマンズを破壊したいんじゃないんですか?」

「黙れ…」


 ザッパーの襟首を握る隼の手が震え始めた。穏やかに、まるで優しく語り掛けるザッパーの態度に隼の手から汗が溢れ、グローブが濡れる。

 隼の手の震えは、ザッパーにも伝わる。


「友人が組織の犠牲になったんでしょう?なら、徹底的に組織は破壊しないと…。また、あなたの友人みたいな犠牲が増えますよ…。ねえ、千葉隼人さん?」


 隼はザッパーの襟首を離したと同時に、彼の顔面を思いっきり、ぶん殴った。そのショックで、穏やかな表情を浮かべていたザッパーは意識を失い、地面に叩きつけられた。

 息を乱して、隼はガタガタと両手を震わせた。

 地面に倒れたザッパーの表情は、気を失っていたのに、とても穏やかだった。静かな眠りに着いたかのような、安らかな顔だった。


「チクショウが…、チクショウ…、チクショウォォォォオオオオオオオ!!!」


 取り乱し、叫び声を上げて、隼は拳銃を握る。

 ザッパーが落としたリアリティの仮面に、何発も何発も跡形が無くなるまで発砲した。

 何発も何発も、仮面に弾丸がめり込む。

 何回も何回も、乾いた銃声が辺り一面に響いた。

 仮面は砕け散り、破片になりながらも、彼を嘲笑するかのように、せせら笑いで地面に音を鳴らせた。




 リアリティが破壊された頃…、公園で、もう一つの決定的ななにかが決まろうとしていた。

 カタナの両腕は引きちぎられた。筋肉、骨すべてが断裂した。

 それが、クレージースカイホッパーのケン、鳥村の間違いだった。神速愛と、カタナの自分の肉体の犠牲を考えない驚異の精神力を体験したのに、安易に勝ちを確信してしまったのだから。


「神速愛…!」


 両腕が切られた瞬間、カタナの身体が鎖から解き放たれた。同時に、カタナは謎の能力、神速愛を使用した。

 神速愛を使用した瞬間、断裂した両腕から流れる血が、空中に漂い、鎖に巻き付かれているちぎられた両腕も静かに宙に浮く。血が玉になって、辺りに漂っている。ケン、鳥村は、鎖を引っ張った姿勢のままでゆっくりと動く。

 カタナ以外のすべての時間が、まるでスローモーションのビデオのように、ゆっくりとした遅い動きになっていた。

 だが、これは正確には、カタナの肉体すべてが超高速で動いてるからだ。感覚も肉体もすべてが高速に特化した。

 しかし、そのために、空気の摩擦や抵抗を強烈に受け、カタナの肉体には、無数の傷が刻まれていく。


「神速愛は…、無敵だ…」


 超高速の世界で、カタナは口を開く。

 両腕を失ったまま、カタナは二本の足を動かし、宙に漂うケンのクレージースカイホッパーの鎖に噛み付いた。すざましい顎の力は、簡単に鎖を砕き、巻き付かれていた腕を解放させた。

 そして…。




 ゼファーナ春日は、やっと眠りに着いた。ぐぅぐぅ…、と健やかに浴室で眠る。

 その一方、深夜のかなり遅い時間帯であるのに、関わらず、コルテはベッドの上で目を開いた。

 辺りは、真っ暗なのに、彼女はベッドから立ち上がると、静かに、パジャマを脱ぎ始めた。灯りなしに、月明かりだけで、彼女は着替えをする。

 それが終わると、今度、テーブルに向かって、月明かりを頼りに適当なチラシを拾い、ボールペンで、なにか文字を書き始めた。


「さすがに…、長く居すぎたかな…」


 彼女は、そう呟いた。




「バカな…」

「縛られていたのは…」


『俺たちだったのか…?』


 クレージースカイホッパーの二人が、カタナの両腕を引き裂いたと思った瞬間、勝敗は決していた。

 ケンと、鳥村…。二人の鎖が、互いの首に強く巻き付けられていた。

 神速愛を使用している間に、カタナが噛み砕いた鎖を口だけで二人の首に巻いたのだ。ケンの鎖は鳥村に巻き付き…、鳥村の鎖はケンの首に巻き付く…。しかも、互いに、まだ力を込めたまま鎖を握っていた。

 だから、二人の首はかなり絞め上げられた。


「ぐは!」

「ぐは!」


 2人とも、互いに、首を絞めあい泡を吹いて気絶した。首の骨は折れてはいないが、さすがに酸素が脳に届かなくなっていた。

 気絶すると、2人は公園の土に倒れ込む。

 全身の皮膚がズタズタになったカタナは、仮面越しに自分の片腕を口にくわえながら、クレージースカイホッパーの撃沈を見つめた。口にくわえた腕を右腕の切断部に当てると、サムライロジックの能力で再生しはじめ接着出来た。


「互いに傷を舐めあったが、互いに首を絞めあうことになった…。我ながら、悪趣味な結末にしてやったよ…」


 カタナは月明かりを頼りに、もう一本の腕を拾いに歩く。

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