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40 「浴室」

真・地獄同盟会:目的不明。現時点で確認されたメンバー、ザッパー春雨(ファンタジスタスーツ、リアリティ)、ケン・ホッパ(クレイジースカイホッパー一号)、鳥村辰(クレイジースカイホッパー二号)。アンチヒューマンズの地盤沈下を促進させている集団。ザッパー春雨は地獄同盟会(本家)のメンバーであるが、裏で、彼らと敵対している。ケン、鳥村は荒んだ精神の赴くまま、破壊を続ける。

 関西出身の大学生、田頼騎士たより ないと君。二十歳。サッカーサークルのエース。明るい性格で、女性から無条件に好かれる青年。女に困ったことが無いと豪語しており、彼女は居るが、その彼女はガードが堅いため、毎晩、いろんな女性と遊び惚けていた。

 今夜、そんな彼女の方から電話があった。今日、パパとママが居ないから…、との言葉を受け、線路沿いにある彼女の自宅マンションまで、浮かれ脚で歩いていた。途中、薬局に寄り、スッポンドリンクと高級スキンを購入。

 彼女との初めての夜は、忘れられない甘い夜する…、はずだった…。


「ぎゃああああああ!!」


 陸橋の下で、自慢の右足に、下駄の付いた生右足首がぶつかるまで。

 まるで、今、切断されましたと言わんばかりに、右足首が転がっている。

 彼は握っていた携帯と、買い物袋を手から落とし、生々しくも、骨や、血管、神経や赤い血肉が見える右足首の切断面に恐怖した。

 彼が叫ぶと、誰かが…、


「おい、そこの!そこに落ちてる右足首、拾ってくれ。スチュワーデスが、客にキャビアとワインをサービスするみたく」


 と言った。

 声の方に、田頼君は首を向けると、陸橋の下には彼の他に、三人居た。身体中に、鎖が巻き付けられているドクロのマスクを着た二人と、右足首がなく、ダラダラと血を流している着物で鬼の仮面をした男が居た。

 田頼は、恐怖におののき、混乱した頭で言われたまま、生の右足首を手で拾う…。


 ブン!


「えっ…?」


 一瞬、強い風が顔に当たったかと思ったら、拾ったはずの右足首が消えた。同様に、目の前に居た奇妙な姿をした三人の姿は消えた。

 田頼君は、そのまま、気が抜けて、足の力が抜けて、ヘタヘタ…と地面に腰を落とす。

 彼は、これは夢か、幻覚かと思ったが、手には、さっき触れた右足首の血がベットリとつき、スッポンドリンクとスキンの入った買い物袋が消えていた。



 後に、この陸橋の下は、『赤い右足首の橋』と呼ばれるようになり、ここに、スキンを持っていくと、右足首を失った落武者の霊が現れるとの、都市伝説となり語り継がれた。

 真実は、永遠に明らかになることはなかった。




「チクショウ、くっつくか?」


 カタナは逃げ込んだ公園のトイレの影で、拾った右足首を右脚にくっつけようと努力していた。

 切断された右足首が生えてきたら、便利なのにな…、と思いながら、自分の右脚を睨む。

 神速愛による高速移動で、田頼君に拾ってもらった右足首と自分の買い物袋を拾い、ケンと鳥村の目から、一時的に逃げ、近くの公園のトイレの影に潜んでいる。神速愛の使用により、肉体はボロボロで皮膚からは血が流れたが、サムライロジックにより、すぐ修復した。

 問題の右足首は、プラモデルか、パズルをつなげるかのようにして、右脚の切断面と足首の切断面を合わせたら、皮膚が新たに再生、接着剤みたいに繋がった。しかし、筋肉や、神経は繋がっておらず、まだ自由に右足首は動かせない。修復には時間が掛かるようだ。

 さっき、自分の買い物袋だと思って拾った田頼君の袋を開けると、スッポンドリンクとスキンが出てきた。


「いっけね…、間違えた…」


 スキンが入ってたことから、足首を拾ってくれた青年は、今日、一大勝負する予定だったんだな…、と罪悪感を感じながら、カタナはスッポンドリンクの栓を開け、仮面の口部から飲み始めた。

 サムライロジックの弱点は、仮面を破壊されると再生出来なくなるのと、肉体の再生の際、かなりのカロリー、たんぱく質などの肉体を構成する栄養素を消費する。そのため、普段から彼は、摂取する食事の量と、食事の回数が多かった。


「さて、行くか…」


 まだ、右足首は完全に修復していないが、カタナは田頼君のスキンをコートのポケットに入れて、立ち上がった。

 空になったスッポンドリンクのビンは、ここに捨てた。



 ケンは、カタナが残した買い物袋を覗くと、弁当が2つにビールの缶が数個入っている。それを確認すると、公園の入り口で捨てた。

 彼の隣の鳥村は、カタナが逃げ込んだ公園に残る血痕を見つめてる。


「ここに逃げ込んだか…」


 鳥村は、そう言う。

 すると、ケンは…、


「さっき、部外者に気をとられた一瞬で奴は消えた…」


 と初めて体験するカタナの神速愛に驚きと、不安を感じていた。血痕が残っていることから、瞬間移動とかテレポートではなく、目に見えない速度で逃げたのを彼らは理解した。

 超高速で不死身のカタナを相手にすることに対し、二人は脅威を感じていたが、それ以上に、自らの右足首を犠牲に出来る覚悟と、痛みに耐えられる奴の精神力が脅威だった。

 二人が、公園のトイレに近づくと…、


「おまた…」


 陰から、のうのうと、カタナが現れた。

 ケン、鳥村は身体中に巻き付かせている鎖をジャラジャラ…と鳴らせて、再び、戦闘態勢に入る。




 カタナと、ケン、鳥村が戦闘を開始してから、まだ数分しか経っていない。

 彼らが公園に移動した数分後、ザッパー春雨が、ファンタジスタスーツ、リアリティを身につけ、三人が居た電車の陸橋の下に現れた。現場には、血の跡が残っている。


「ケン、鳥村…。コルテ捕獲をせず、冬風カタナと接触するとは…。役たたずも、いいとこだ…」


 マスクを外して、鋭く目を光らせた。音声が流れ続けている無線機を、スーツのポケットから取出し、片手に握った。無線機からは、リアルタイムでのケン、鳥村の肉声や、周囲の雑音、カタナの声が流れていた。

 これは、ザッパーが二人に内緒で、クレイジースカイホッパーのファンタジスタスーツに細工した盗聴器と発信機から送られてくる情報。仲間として受け入れてたはずのケン、鳥村に、このような細工をしていたザッパーは、最初から彼らのことを信用などしていなかった。

 こうして、アルゼに固定されている自分に代わって動いてもらっている二人の現状を確認するため、現場に現れた。

 彼は、アスファルトに付着した血を指でなぞりながら、現状を確認する。


(えーと…、鳥村からの情報で…、セプテンバー・ミリアの義理の娘、コルテ…。盗聴器で聞こえたが、コルテは、何故か、あの忌々しいゼファーナ春日と一緒…。理由や、過程はどうでもいい…。現時点で、コルテを捕まえるのに、ゼファーナ春日と、カタナが邪魔になるな…)


 手に着いた血のりを、ハンカチで拭いながら、ザッパーは周囲を見渡す。


(セプテンバーを叩けば、アンチヒューマンズの一角は折れる…。そうすれば…)


 現状を確認し、理解したザッパーは公園に脚を向け、マスクを被った。


(とりあえず…、今は、カタナが邪魔だ…。『予定』より早期ではあるが…、このまま、奇襲で奴の首を叩き折る…。次は、コルテ捕獲と、ゼファーナ春日の始末…)


 今現在、落ちこぼれていたのを拾って利用しているケン、鳥村を失うわけには行かないザッパーは、ファンタジスタスーツを起動させ、加勢のため、陸橋から去ろうとした時…。



ブルルルルルン!!



 空気を裂くような激しいバイクのマフラーの音が、ザッパーの背中と、鼓膜に突き刺さった。

 ピタッ!と公園に向かうはずのザッパーの脚が止まった。

 同時に、記憶から消えるだけだった、さっきの盗聴器からのケンの声が、脳裏に再生された。



………………


『冬風カタナ…!消えた!』

『バカな!あの一瞬で!』

『探せ!鳥村!』

『くそ!買い物袋しか残ってない…』

『コンビニの弁当が2つ…』



………………


『コンビニ弁当が2つ…』


 いきなり現れたバイクの音が突き刺さるザッパーの耳と脳裏に、この言葉が強く再生された。

 ザッパーは、しまった!?と動揺した。

 コンビニ弁当が2つ…。普通に聞けば、買った本人と、もう一人の誰かの分と思うのだが、カタナの能力の性質上、奴一人で食べるもんだと思い込んでいた。しかし…、コンビニ弁当が2つということに、妙だと感じなかった自分の甘さを、ザッパーは強く噛み締めた。

 しばらくすると、バイクの音が止まった。


「まさか、んなとこで、貴様に会えるとは…な…」


 ザッパーの背後から、今度は静かに足音が聞こえた。

 いきなり、現れた誰かがバイクから降りて、ザッパーの方に歩み寄る。


「なにしてんだ?ザッパーさんよ…」


 ザッパーは、その声に振り向いた。


「秋羽隼ァ…」


 愛車のZZ-R1100と共に、ポニーポニックを纏った秋羽隼のまさかの登場に、ザッパー春雨は腹の底から、ドス黒い声を吐いた。

 ケン、鳥村の前に予定外に現れたカタナに、振り向き様に現れた予定外の隼。これらの予定外は、ザッパー春雨の腹の底にあるドス黒いなにかを呼び覚ました。

 ドス黒いなにかを感じた秋羽隼は、本能がまま、片手に握る拳銃の安全ピンを解除した。




(なんだ…、嫌な予感が…)


 浴室で、寝袋に包まれながら、ゼファーナは窓を見つめていた。

 夜は冷え込むため、室内で眠れるようにはなったが、ベッドはあの女が占領しているし、いくらなんでも、年頃の自分が異性と同じ部屋で寝るのは…、とのことでまともに眠れる場所は、浴室しかなかった。

 ここで眠るのに慣れていないのもあるが、今日はやけに眠れなかった。

 浴室の窓はぼやけているため、月明かりもぼやけて見えている。

 胸騒ぎからか、ゼファーナは寝袋から出る。

 彼女に見つからないように、シュガーレスの入ったカバンを、いつも枕元に置いていた。

 カバンを開けると、シュガーレスの黒く光る仮面が、ぼやけた月明かりを反射させ、表面にゼファーナの顔を映した。




「ザッパー春雨の報告だと…、まだ、ゼファーナ春日はシュガーレスを完全に扱い切ってはいないか…。彼の性格と過去なら、シュガーレスの『フラッシュバックシステム』を引き出せると思っていたが…。まぁ、いいか…」


 日本ではないどこかの高層ビルの一部屋。

 日差しが、突き刺さる窓を見つめる金色の髪の毛の青年が一人、椅子に座っていた。

 そして…、左手首にはめてある腕時計を見つめた。


「日本は、夜か…」


 しばらくすると、部屋のドアを叩く音がした。


「夏海エヌアル様…、お食事のご用意が出来ました」


 青年は、ああ…、と返事した。

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