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35 「Electronic light Moon light」

 ゼファーナ春日が、また、雨の降るアパート前で、定着してきた寝袋での睡眠に慣れてきた昨日のこと…。いきなり、自分の携帯電話が鳴った。相手は、冬風カタナからだ…。

 今まで、アルゼに口止めされていた事実を、すべて、カタナはゼファーナに話した。ゼファーナを離脱させること、新入りのことすべてを…。

 そして、新入りのザッパー・春雨が、アンチヒューマンズを陥れるためとはいえ、無関係な人間をも巻き込みながらのファンタジスタスーツ排除行動をしているのを話した。


『今まで、話せなくて悪かった…。ザッパー・春雨は、俺たちの仲間だ…。奴を信用しなければならない…』


 電話の向こうのカタナが、珍しく、シリアスな雰囲気で話している。


『あと…、お前を外そうとしたアルゼを許せ…』


 受話器から、そうカタナが言ったのに、対して、ゼファーナは立ち上がり、寝袋から出た。

 そして、彼は自分の左腕を見つめ…。


「当たり前です」


 ゼファーナは立ち上がり、降りしきる雨の中に飛び込んで行った。



 しばらくして、アパートのドアを、パジャマ姿のコルテが開けた。


「鼻血君…。雨ひどいから、入りな…。ただし、変なことし…、あれっ…?」


 ドアを開けたコルテの目に前にあったのは、ゼファーナの寝袋と、降りしきる大雨の飛沫だけだった。

 キョロキョロと、周囲を見つめて、コルテはどこかに行ったゼファーナを目で探した。


「どこ、行った…?」




 市内体育館の受話器を握りながら、カタナは、ゼファーナに今までの成り行きを話したことを、今度はアルゼに告げた。

 当然、アルゼは、カンカンになった。受話器から、唾が飛んできそうな勢いだ。


『なんで、話した!?』

「なんか、ここ最近、ギクシャクしてたから」


 笑いながら、カタナは受話器を握りつつ、お茶をすする。


『ゼファーナ春日は、脱退させると…』

「あの新入りが言ってたじゃねぇか、居ても居なくてもいいって…、だから、ゼファーナ春日の気持ち次第だぜ」

『しかし…』

「それに、あの勘違いの新入りの行動は、目に余る…」


 茶を飲み終わったカタナは、受話器とティーカップを置くと同時に立ち上がった。


「だから…、後輩に礼儀を教えに行く…」


 木刀を片手、あのサムライロジックの仮面を握って、カタナは給湯室から出た。

 市内体育館の外は、大雨が降りしきっている。



 通話が切れた携帯電話を握りながら、アルゼは自宅のアパートで、呆然と立ち尽くす。携帯電話を握るアルゼの片手が、カタカタ…、と震えていた。


「あのザッパー・春雨は…。兄さんが送ってきた男…。兄さんが信用した男…。兄さんが認める力を持つ男…。その彼に逆らうと言うのは、兄さんに逆らうこと…。あいつら…、どこまで、バカなんだ…。兄さんに逆らうなんて…。兄さんは、あいつらのリーダーで…、あいつらより強いんだぞ…」


 アルゼは片手から、携帯電話を落とした。

 そして、自分の頭を抑えた。


「兄さんに逆らうの…?あたしの兄さんに…」


 アパートのテーブルの上には、今まで、ザッパー・春雨がリアリティで行ってきたと思われる暴行事件の新聞記事が、一面に広がっていた。記事には、死傷者は居ないものの、明らかに、組織と無関係で、たまたま、リアリティの動きを見てしまった者…、または、その現場に居合わせてしまった者達に…、口封じと思われる暴行が見られた。

 ファンタジスタスーツの存在を広めないためとはいえ、こんなに多くの無関係な人々を巻き込む必要があるのか…、と、アルゼ自身も思っていた。

 しかし、兄、エヌアルは、それを良しとし、あのザッパーを信用しろと、アルゼに言った。

 だが、アルゼは手を震わせて、雨が降りしきる夜の街を見つめた。


「兄さんと、あたしは誓ったんだ…。父さんの仇を討つ、って…。そのためなら…、地獄に堕ちたって…」


 窓ガラスに手を当て、ガラスに写る自分の顔を見てみた。いつもの自分らしくない、怯えた小動物のような顔だった。気付いたら、涙すら、目から滲んでいる。

 アルゼは、その目から滲み出た涙を拭う。

 そして…。


「そうだ…。兄さんが正しいんだ…。その兄さんが認めた、ザッパーが正しいんだ…。それに刃向かうなら、例え、味方であったとしても…」


 アルゼの目が歪んだ。

 そして、彼女は、爆裂ロマンティストのファンタジスタスーツを身につけ、雨の降りしきる街に飛び出した。




 バシン!!


 リアリティの鞭が、シュガーレスの右手にあるコダチに命中した。コダチの刃が割れて、砕け散る。


「くっ!!」


 刃が散ったコダチを捨てながら、シュガーレスは、鞭を左右に身体を動かして避ける。鞭が当たったビルの壁は砕け、同じように、ゴミ箱も砕け、中身の生ごみが辺りに、ぶち撒かされる。鋼鉄のワイヤーで作られた鞭…、だと、シュガーレスは思った。


(なんかの漫画で言ってたけど…、鞭って、音速を超えるし、少しの力で人体の皮膚を剥ぎ取れ、その打撃痛みだけで、人をショック死させられると…)


 そんなことを思い浮べながら、シュガーレスは鞭を避ける。いや、避けるので精一杯だった。

 速いのだ、その鞭の動きが…。


「どうしました?先輩…。やはり、エヌアル様、アルゼさんの判断通りに、あなたは要らない人間ですね…」


 右手の血を飛ばしながら、鞭を振るうリアリティが、上から目線で、シュガーレスに向け、鞭を放つ。

 飛んできた鞭が、シュガーレスの真正面に飛んできた。マスクに一直線だ。

 しかし、シュガーレスは冷静だった。今までの戦いの経験からか、臆することなく、向かってきた鞭に対して、もう一本、持っていたコダチを横にして投げた。


「なにっ!」


 横に投げられたコダチは、砕けることなく、鞭を釣り竿のリールか、アナログのビデオテープのように、軸になり、鞭を絡ませ、巻き付かせた。鞭が、コダチに絡まり、コダチを締め上げる。


「なにっ!!」


 コダチに巻き取られた鞭は、勢いを失い、地面に落ちた。

 その隙を、シュガーレスは見失わなかった。


「オラァ!!」


 リアリティの鞭を握る右手に、飛び蹴りをした。さっきのナイフの傷といい、その蹴りの衝撃で、リアリティは右手を開け、鞭を地に落ちた。

 リアリティの右手に、もう一度、激痛が走る。


「ぐぁっ!こいつ!」


 鞭を足で踏み付けたシュガーレスは、半メートル、リアリティの近くに立ち、今度は、リアリティマスクを狙って放った。

 だが…!



 ガザッ!!



 シュガーレスのパンチは、空振った。リアリティが目の前から消えたのだ…。

 いや…、さっきまで、リアリティが立っていた地面には、大きな穴が…。そう、リアリティは穴を掘って、地面に逃げたのだ。

 シュガーレスは、事前に、カタナから話は聞いていたので、驚きはしなかった。

 だが、相手が地面に潜んでいるということで、シュガーレスは、大きくジャンプし、ビルの壁の突起部に、手を掛け、地面から離脱し、突起部に体重を預け、ぶら下がる。


(にしても…、バカに、今日は身体の調子がいいな…)


 そう思いながら、シュガーレスは地面に開いた大きな穴を見つめた。


(あの女の料理のおかげか…)


 コルテの顔を思い出したが、状況が状況なので、シュガーレスは頭を切り替えた。


(地面に潜るとは…。しかも、潜るスピードが速い…)


「何故、仲間である私に攻撃するのです…。先輩…」


 どこからか、リアリティ、ザッパーの声が聞こえてきた。地面の中で、音が反響して、シュガーレスの耳に届いているようだ。

 そういえば、さっきからの雨が止んでいることに、シュガーレスは気づいたが、相手の声に返答した。


「歓迎したかったけど…、無関係な子どもに、鞭を振ろうとした奴を歓迎なんか出来るか…」

「あなた、ご自分の立場を理解していないようですね…」


 リアリティが言っているのは、ゼファーナが、エヌアル、アルゼの考えにより、地獄同盟会から外されようとしていたことである。

 つまり、今まで、シュガーレスを身につけ、アンチヒューマンズと戦うことを生き甲斐にし、過去を忘れようとしていた、ゼファーナ春日にとっては、とても残酷なことであった。

 しかし、ゼファーナ春日は、そのことは了承していた。


「ああ…、アルゼが、僕を外そうとしていることだろ…、理解しているさ…」


 ぶら下がりながら、シュガーレスは、地面のどこかに居るリアリティを、目で探るのをやめ、突起部を握っている右腕をそのままに、シュガーレスは自分の左腕を見つめる。


「彼女は、死のうとしていた俺を救った人だ…。だから、彼女が、俺をいらないと言うのなら、俺は文句は言わない…」


 リアリティの声が途絶えた。


「しかしだ…。貴様のように、無関係な子どもに鞭を振ろうとする人間を無視するわけには行かない…。例え、俺が地獄同盟会から外されても…、貴様が地獄同盟会であっても…」


 左腕を震わせながら、シュガーレス・ゼファーナは地面のどこかに潜ったリアリティを見つめながら、右足の膝を曲げて、右脚に巻いてあるベルトから、ナイフを一本、左手で取る。

 そして…、


「無関係な人間を巻き込むのなら、俺は、戦い続ける!!アンチヒューマンズであっても、地獄同盟会であっても!!誰であっても!それが、アルゼから救ってもらった命での俺…、それが、この俺…、シュガーレス・ゼファーナだ!!」


 大きく叫びながら、シュガーレスはナイフを地面に向かい、思いっきり、投げた。

 サクッ!と、柔らかくなった地面にナイフが突き刺さる。

 すると、ガバァ!と地面をめくり上げて、リアリティが右手を地上に突き出してから、身体全体を地面から出した。


「いい気になるな!!落ちこぼれが!!貴様は、地獄同盟会から外されたんだよ!落ちこぼれが!!現実を受け止めろ!!貴様一人で、なにが出来る!?」


 地面を、ロケット花火のように飛びしてきたリアリティを見つめながら、シュガーレスは下唇を噛んだ。


「現実以上に、俺は、甘くない!!」



 そんな二人の声が、ビルの壁に反響していた。雨が止んだせいで、この周辺に、声が響いていた。あまり、人が通らない場所であったはずだが、シュガーレスとリアリティの他に、もう一つの影があった…。

 タキシードと、シルクハットと、仮面…。そう、夏海アルゼのファンタジスタスーツを纏った姿、爆裂ロマンティストだ…。

 この場に、数分前から居た。

 兄の認めたザッパー・春雨を守るために…。ザッパー・春雨に危害を与えるなら、例え、味方のカタナや、隼、ゼファーナでも、攻撃する…、つもりだった…。

 だが、彼女はやめた…。

 さっきのゼファーナ春日、シュガーレスの言葉を聞いたせいか…、関係ない子どもを巻き込もうとしたザッパー・春雨の醜さを目の当たりにしたせいか…。

 ザッパー・春雨を擁護する気持ちはなくなった…。例え、兄が認めた男であっても…。

 アルゼは身体を震わせ…、


「ゼファーナ春日…。あいつ、バカか…。バカすぎるぞ…」


 仮面の奥の瞳から、涙が流した。大粒の涙が、次々と、さっきまでの雨のように流れ落ち、地面を濡らしていく。

 アルゼは膝を崩して、前屈みに倒れ、涙を地面に落としていく。


「あの日は、気まぐれに、貴様を助けただけだ…。だから、恩なんか忘れても良かった…。お前を外そうとした私を恨んでも良かった…。なのに…、お前は、バカか…」


 何故、こんなにも泣いてしまったのか、自分でも理解出来なかった。

 ただ、自分を信じてくれているゼファーナ春日の言葉が、あまりに重く、そして、優しかった。




 地面から飛び出してきたリアリティに、シュガーレスは…。


「教えてやる…。地に潜るより、空を駆けることの方が素晴らしいのを…」


 壁に捕まっていた右手を離して、飛び付いてきたリアリティに狙い定め、シュガーレスは両足で、リアリティの両肩を蹴り飛ばした。


「俺の肩を蹴った!!」


 両肩から鈍い音を出し、リアリティが地面に叩きつけられる。同時に、リアリティは、自分の頭上を見上げると…。

 リアリティの両肩を蹴った反動で、シュガーレスは天高く飛翔していた。宙に舞ながら、シュガーレスは首の赤いマフラーを、ケン・ホッパの時のように、右足に巻き付けた。


「また、あの時のように…」


 だが、右足にマフラーを巻き付けると、ズキッ!!と、右足に激痛が走った。


「ぐっ!!」


 空中から落下してくるシュガーレスを、向かい撃とうと構えるリアリティ。

 まさに、一触即発の瞬間…。



 バゴォォォーーーン!!!!



「なっ!!」

「!!?」


 二人の動きが止まった。

 あらぬ場所から、なんと強烈な爆破音が…。

 バランスを崩したまま、シュガーレスは、リアリティにキックを当てずに、地面落下。リアリティも、その爆破音に気を取られ、攻撃の手を止めた。爆破音がした先に、二人は首を向けた。

 そこには、赤い炎を背景に向かってくる爆裂ロマンティスト…、夏海アルゼの姿が…。


「アルゼ…!?」

「アルゼさん…!!」


 二人は、いきなりの彼女の登場に驚く。

 そして…。


「味方同士で争うな…。恥を知れ!!」


 アルゼは二人に、強烈に声を浴びせた。

 さすがのシュガーレス、リアリティも勢いがなくなり、構えるのをやめた。二人はマスクを外して、ファンタジスタスーツの機能を停止させた。

 ゼファーナは、マスクと一緒に足に巻いたマフラーを解く。マフラーを外した瞬間、右足に激痛が走るが、今は堪えた。

 アルゼは、マスクの奥の瞳をザッパー・春雨に向けた。


「リアリティのザッパー・春雨…。貴様は…、兄さん、エヌアルの指示以上の行動した…。いくら、こちらの行動が遅いとはいえ、必要以上の行動により、返って、こちらの動きも出にくくなった…」


 アルゼに、そう言われたザッパー。だが、反論をしない彼ではなかった…。


「しかしながら…、ミス・アルゼ…。お言葉ですが…」


 バチン!!


 反論の口を開いたザッパーの顔面を、アルゼは思いっきり、ひっぱたいた。端正な顔のザッパーの頬が、真っ赤になった。

 この光景を見た、ゼファーナは、ひっ!と声を漏らす。

 いつも以上に、目を尖らせるアルゼ…。


「ここでの指揮は、この私、夏海アルゼだ…!エヌアルからも、この私が任されたんだ!だから、貴様は、私に従え!!」


 赤くなった頬を抑えながら、茫然とするザッパー。その容赦のないアルゼの説教に、見ているだけのゼファーナは茫然とした。

 雨が止んだ土から、気温で蒸発し始めた水分が、空気に混じり始めた。




 一方、その頃…。


「牛丼の特盛りのお客様ー」

「俺だ」


 カタナは、リアリティの暴走を止めに行くはずだったのに、何故か、牛丼屋で箸を割っていた。

 大きな牛丼のどんぶりを前にして…、


「はて、そういや…、ザッパー・春雨は、どこに居るんだろう…」


 彼の居場所が解らないのに気づいたが、まぁいいやと言いながら、カタナは牛丼を食べ始めた。

 牛丼屋のドアの前で、ラッキーラブがドアを叩いていた。

ゼファーナ「ていうか、アルゼ、なんか目赤くない!?」

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