表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/49

30 「カーマは気まぐれ」

 『運命の人』…。

 逢った瞬間…、出会った瞬間…、なにかを感じた、胸がときめいたみたいな…。

 そんな出会いの相手は、きっと、これからの自分の人生をも変えてしまうんだろう…。

 おとぎ話のような、幻想ではあるけれども…。

 もし、それが私にもあるなら、どんな運命の出会いをするのだろう…。

 そして、その人は、どんな運命の人なんだろう…。

 ホコリだらけの世界で、気を失う彼女は気を失いながら、そんなことに想い更ける、夢を見た…。




「痛い!痛い…!!」


 アイルの鳥村は、蹲りながら、足に突き刺さったコダチを抜いた。赤くなったスニーカーから、更に、血が吹き出した。そして、自分の血に染まったコダチを、右手に握る。

 そうしている間に、シュガーレスが…、


「そのまま、おとなしくしてな…。その足じゃ、まともに動けない…。そのマスクを剥がして、戦闘不能にしたら、治療を…」


 そう言いながら、もう一本のコダチを握りつつ、アイルに迫る。マスクを剥がして、ファンタジスタスーツを停止させるために。

 だが…。


 バサッ!バサッ!


 また再び、すざましい羽音を立てて、アイルが飛翔した。

 そして…。


「ふん…」


 アイルは空中に浮上し、シュガーレスを睨む。足からは、ポタポタ…と、血が滴り落ちていた。


「待て!貴様!!」


 滞空しているアイルを見つめながら、シュガーレスは叫ぶ。

 そんなシュガーレスに狙い定め、アイルは右手に握るコダチを投げ付ける。


「っ…!」


 だが、シュガーレスは、あっさり避けた。コダチはアスファルトに弾かれて、転がった。

 そして、その隙に、アイルは更にはばたき、シュガーレスと距離を離した。どうやら、このまま、アイルは引き下がるようだ。


「とんだ誤算だよ…。まぁ、嬉しい誤算になりそうだけど…」


 と言いながら、アイルは羽を動かし、高度を上げつつ移動して、倉庫の屋根に乗り移り、このまま、屋根の上を、脚を引きづりながらも、どこかに消えた。

 どうやら、あの飛行能力は、長時間の飛翔は無理らしい。それに、足にダメージを受けた瞬間、落下したことから、たぶん、肉体、精神の影響も飛行に影響に受けるようだ。だから、去ったのは賢明なのかもしれない。

 アイルが去ったのを、確認したシュガーレスはマスクを外した。夏の日差しで、顔から汗が流れていた。


「なんだ、ファンタジスタスーツ…。なにが狙いだ…」


 よく解らない動きをするアイルの鳥村を不気味に感じながら、ゼファーナは、手で汗を拭き取ると、またシュガーレスのマスクを被った。

 そして、倉庫に閉じ込められている人質…、織部コルテを助けに脚を動かした。




 一方、その頃…。

 都内某所の地下にあるディスコクラブ…。まだ、開店時間ではなく、店のドアノブには『CLOSE』の看板が、ぶら下げられている。

 しかし、店内には、ミラーボールが回り、まばゆい光が放たれつつ、古いディスコミュージックが流れている。

 この店のソファーに、あのセプテンバー・ミリアが居た。片手に、酒を持ち、店内に流れている80年代のディスコミュージックに耳を傾けていた。

 酒を喉に流し込むセプテンバーに元に、一人の中年の髭のバーテンダーが近づく。片手には、スライスされたサラミが並べられた皿。

 そして、バーテンダーは、静かに、セプテンバーの前に皿を置き…、


「元代表を発見いたしました…。とある組に隠れていましたよ…。ファンタジスタスーツ、『ランゲージ・デザイナーズ・キラー』はスタンバイ出来ました…」


 と静かに告げた。

 セプテンバーは、グラスをテーブルに置いた。そして、軽く笑みを浮かべる。

 どういたしますと、バーテンダーが言う。丁寧な口調から、どうやら、このバーテンダーは、セプテンバーの部下であるのだろう。

 すると…、


「サラミは、このまま、キープ…。一時間後には戻る…。つまみ食いは、ノーだぞ…」


 セプテンバーは立ち上がった。それに合わせるように、バーテンダーの男は、頭を下げた。

 カラン!とグラスの氷が音を鳴らす。




「あの…、起きて下さい!」


 ホコリ臭い倉庫の一室。そこで、気を失っている織部コルテの肩を、私服に着替えたゼファーナが揺らす。栗色の長い編まれた髪の毛も揺れる。

 コルテを縛っていたロープをすべてを、コダチで切った。だが、また、あの鳥のファンタジスタスーツが来るかもしれないと、ゼファーナは辺りを警戒した。

 何故、この女性を誘拐したんだ…、と疑問に思いつつ、ゼファーナはコルテの顔を見つめながら揺らす。


(にしても…、美人さんだ…)


 ゼファーナは、コルテの顔立ちに照れた。しかし、いかん、いかん!と自分の理性を働かせた。

 すると…、


「…っ!」


 彼女の目蓋が開いた。

 それに気付いたゼファーナは、安心した。だが、この現状をなんと説明しようかと、考えていた…。

 しかし…。


 バゴッ!!


 目覚めたコルテのした行動は、ゼファーナの鼻の頭に思いっきりのパンチだった。


「かぶっ!?」


 鼻血を吹き出しながら、ゼファーナは眼鏡を飛ばされ、あまりの痛さで立ち上がる。予想外のパターンだった。

 目覚めた彼女は立ち上がり…、


「お前か、わたしを縛り上げたのは…?」


 そう言いながら、鼻血が流れているゼファーナの襟首をわしづかむ。

 ひぃぃ…と、思いの外に狂暴な彼女に震え上がりながら、ゼファーナ。


「違います!あなたが、ここで気を失っていたから…、介抱しただけで…」


 ガクガクブルブルと震えながらに話すゼファーナを見て、彼女は襟首を握る手の握力を緩めた。

 すると、コルテは自分の髪の毛を叩きながら、周囲を見渡す。


「確かに…、わたしを襲ってきたのは、鳥みたいな奴だった…」


 気丈な態度で、コルテはホコリだらけの自分の服を叩いた。

 唖然とした顔で、ゼファーナは、そんな彼女を見つめた。


(なっ、なに、この人…)


 彼は、この時点で気付いてはいなかった。まさか、先日、自分を魅力した歌声の持ち主が、この鼻パンチの彼女だったのに…。

 そして、彼女は思う。


(こんなのが、運命の出会いであるものか…)


 ゼファーナは、彼女が新たなる敵の姫君であることに…、コルテは、敵の隠し札に救われたことに…、まだ気付いてはいない。

 こうして、二人の奇妙な運命の出会いは、新たなる戦いの幕を開いた。


 そして、二人の互いの印象は最悪だった。


(なに、この暴力女…?)

(なに、このダサいガキ…?)




 その日の夜。

 夏海アルゼは、自宅のマンションに帰宅して、すぐに、ソファーに倒れ込んだ。同時に、テレビのリモコンを握り、ニュース番組を映した。

 すると、ニュースキャスターが…、


『新たな情報が入りました!○○組襲撃事件の続報です!被害を受けた組員全員の鼓膜が破れていた…』


 と告げていたが、興味が無かったのか、アルゼは、すぐに違うチャンネルに変え、別のニュースの報道を見た。

 別のニュース番組では、『織部コルテ』の失踪事件について取り上げていた。

 この報道も興味が無かったのか、アルゼはテレビを消した。そして、ソファーにあったスイカ型の抱き枕を抱えながら、額に腕を当てて、仰向けになる…。


「新しい仲間か…」


 そう言って、彼女は、天井を見つめた。




 夜になり、OPENの看板が掲げられたディスコクラブには、多くの若者達が、音楽に合わせて、ダンスをし、酒を楽しんでいた。

 クラブの一席に、また、セプテンバー・ミリアの姿が。

 あのサラミを、手で摘み、グラスの酒を飲んでいた。サラミの皿の脇には、血に染まった携帯電話があった。


「ふっ…、一仕事のあとの『Earthwind&Fire』は、ファンタジックだ…」


 すると、ブルブル!と、血に染まった携帯電話が揺れた。サラミの皿をも、一緒に揺らして…。




 真夜中の闇に隠れるようにして、廃墟の影に潜む、アイルのマスクを外した鳥村…。コダチが刺さった足には、包帯がグルグル巻きになっていた。


「くっ…、まだだ…、あの元代表は利用出来るんだからな…」


 鳥村は、片手に携帯電話を握っていた。着信先は、あの元代表へだ。

 鳥村には野望があった。

 それは、この話を切り出した元代表を裏切り、コルテを人質に、セプテンバーを脅して、自分がスリーピング代表の座に就くことだ。そのために、コルテを攫った。だが、シュガーレスにより失敗した。

 なので、元代表には、一応、失敗したと報告し、協力を仰ごうと携帯電話を鳴らした。

 だが…、鳥村は、セプテンバー・ミリアの凶悪と巨大さを認識するだけだった…。


「グッド・イブニング…、ミスター、チキンボーイ…」


 鳥村が鳴らした、元代表の携帯電話に出たのは、元代表ではなく…、セプテンバー・ミリアだった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ