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29 「鳥の詩」

事情により、1ヶ月以上、休載していました…。申し訳ございませんでした。

 鳥村辰…。

 弱輩ながらも、身も心も闇に落とした少年は、スリーピングでの代表の地位を再びに手にしたい、元・代表の男の計画に協力した。

 織部コルテ誘拐。そして、これにより、現・代表、セプテンバー・ミリアへの強迫。

 だが、地位を失った男が、組織の幹部を敵に回す、この行為は、明らかに不安定な計画である。

 しかし、鳥村は、その点を理解していた。

 ただ単に、元・代表に協力しているわけではない…。




 夏の強烈な陽射しが刺さり、地上の水分が蒸発し、空気が湿気に帯びていた。

 陽射しの刺さらない倉庫の影の下で、腕を組み、クスクスと笑う鳥村。

 彼は楽しかった。


 さっきの電話での元・代表のハシャギっぷりが。

 女性一人の拉致に成功しただけで、まだ、セプテンバーへの強迫は、まだだと言うに、なんという奥の浅い男だと…。

 だから、滑稽だった。


「はははは!あんなんだから、地位にも、部下にも、僕にも裏切られるのさ…」


 コツン…、コツン…。


 耳に入ってきた音で、彼は笑うのをやめて、耳を澄まし、遠くから聞こえる音は、足音だと気付く。

 すると…、鳥村は…、


「現実はゲームと違って、予想外があって、楽しいや…」


 倉庫の前に、近づいてくる足音を感じ取りながら、鳥村は、さっき脱いだ、あの奇怪な鳥の覆面を手に取る。

 彼は、自分のファンタジスタスーツを起動させた。



「ん…」


 足音の正体は、シュガーレスに着替えたゼファーナ春日。

 さっきまで、倉庫から、人の気配と物音を感じて、この場に近づいていた。


「ここに、誰かが捕らえられてるって、話だが…。なんで、人さらいなんかするんだ…」


 と周囲で、羽音を鳴らしたり、吠えているカラスや、鳥に視点を映しながら、シュガーレスは倉庫に、一歩一歩と近づく。

 ラッキーラブが解読した情報によると、女性を攫ったのは、鳥の形をしたマスクだと言うことだ。

 その鳥マスクは、なぜ、女性なんかを攫ったんだと思う、シュガーレス。

 同時に、まだ情報のないスリーピングの残りの一人のことが頭に過り、もしかしたら、女性を攫ったのは、残りの一人かもしれないと。



「鳥のファンタジスタスーツね…」


 と、倉庫の屋根に居る鳥を見ながら、シュガーレスは、スリーピングの連中は、なんか動物型が多いなと思っていた。

 そして、鳥の羽音に耳を立ていると…。


 バサッ!バサッ!


「はっ!?」


 シュガーレスは、背後から大きな羽音を感じ取り、思わず、振り向いた。


「へぇ、本当に、予想外だよ、試作の黒いスーツさん!!」


 シュガーレスの背後に立つのは、自らの背中から強烈な羽音を鳴らしている鳥マスクの人の姿…、鳥村辰のファンタジスタスーツ姿の『アイル』が。

 そのファンタジスタスーツ、アイルは、背中に鳥の羽のようなものが備えられていた。

 しかし、そのような特徴よりも、いつの間にか、彼に背後を奪われたことについて、シュガーレスは驚いていた。


「本当に鳥マスク!」


 ラッキーラブの情報の的確さに感服しながらも、シュガーレスは、振り返ったついでに、右足で、アイルの足元を蹴ろうとした。


「ふはっ!」


 そのローキックは解りやすかったため、すぐに、アイルはジャンプして、蹴りを避けた。

 しかし、このファンタジスタスーツ、アイルは、ローを避けただけでは終わらなかった。


 バサッ!バサッ!


 またも、アイルは、背中にある羽のようなもので、強烈な羽音を鳴らす。

 そして…、


「ウソぉ!!」


 シュガーレスは目を疑った。

 なんと、ジャンプしたまま、アイルは着地せずに、空中に浮いていた。

 羽をはばたかせて、宙に足を浮かせ、離陸している。

 つまり、空を飛んでいた。


「あっはははは!!」


 アイルの鳥村は、笑いながら、スーツの羽を動かし、空気の流れに乗り、本物の鳥のように、シュガーレスの立つ前方に突っ込んで行く。

 シュガーレスは、このアイルの特性に、呆気を取られた。


「空を飛ぶって…、ありなのか…」


 目の前に迫るアイルに対して、構えを取るシュガーレスの姿を、カラス達が見つめていた。




(ケリーめ…)


 ケン・ホッパは、研究所の拘束室のベッドの上で、腕を枕にして天井を見つめていた。天井には、染みがなく、殺風景な電灯だけがある。

 ケンは、ケリーから戦う気力や殺意が消えたことを、同じ血を分けた姉弟であるから、感じ取った。この場所に捕らえられてから、ケリーと会ったのは、1回しかないが解った。

 次に彼は、あのシュガーレスとの戦いを思い出す。

 そして、唇を噛んだ。


(このままで…、終わるものか…)


 ケンは、ベッドから起き上がり、自分の拳を握り締めた。



「まだ、怒ってんのかよ…?」

「別に…」


 隣で表情をムッとさせているアルゼを見ながら、カタナは言った。

 研究所を後にした二人は、タクシーに乗り、後部座席に体重を預けていた。

 アルゼはムッとした表情のまま、後部座席の窓を見つめた。まだ、ケリーの態度に腹を立てているようだ。

 可愛げのない子だな…、と思いながら、カタナは話題を変えようとした。


「そういえば、さっき、研究所の奴らが言っていた話だが…」


 カタナが話を始めると、アルゼは窓を見るのと、表情をムッとさせるのをやめた。


「本当なのか…?」

「ああ…、向こうに居る兄さんが現状を理解しての配慮…」


 そう彼女が言うと、カタナは渋い顔をした。

 そして…、


「だから、もうすぐ、シュガーレスも、ゼファーナ春日も必要なくなる…」


 アルゼは、そう言った。




 ダン!ダン!ダン!


 頭上から、矢飛びに放たれているアイルの蹴りの連打が、シュガーレスに命中していた。


「ぐわぁ!」


 シュガーレスのマスク、または頭部をガードしている両腕に、上空からの雨霰の攻撃で激痛が走る。頭上からの衝撃に耐える両脚が震えていた。下手に動けば、頸椎や、喉に当たり、逆に境地になる。そして、なにより、この雨霰からは逃げられなかった。

 アイルの飛翔特性により、鳥村の体はシュガーレスの頭上まで飛び、滞空し、彼を踏みつぶさんとばかりに、蹴りを放つ。まるで、雑魚キャラを踏み歩くゲームのキャラクターのように。

 そして、シュガーレスは見下されるの言葉を、その通りに実感していた。


「ひゃっははははは!!!!!つぶれろ!つぶれろ!クリボーみたいに!!」


 足元に伏せるシュガーレスを楽しそうに、何度も何度も踏みつけるアイル。そんな彼の姿からは、とてつもない邪悪が、ほとばしる。

 初の空中からの頭上攻撃に、耐えるしかないシュガーレス。もはや…、なにも出来なく、このまま、朽ち果てる…、わけはなかった。



 ザクッ!!



「ぎゃあああああ!!!!!!」


 シュガーレスを攻撃していたアイルは、急に叫び声を上げて、滞空をやめて、地上に落下した。ドスンと、アスファルトに落ち、彼はそのまま、右足を抑えて、転げ回った。その右足から、血が吹き出して、スニーカーを赤く染めていた。

 なにが起こったのか…。


「キサマァ!!」


 転がりながらも、血が飛び出している右足を抑えてつつ、アイルの鳥村は、さっきまで、自分が踏み付けていたシュガーレスを睨む。そのシュガーレスのスーツの胸元のファスナーが開いていた。

 アイルの右足に、コダチが突き刺さっていた…。

 ほんの少しの刹那で、シュガーレスがコダチを抜いて、頭上からの足に突き刺したのだ。

 シュガーレスは、足を抑えるアイルに近付きながら…、


「そういや、マリオは、トゲに弱いんだよ…」


 と言い、そして…、


「まだ、言ってなかったが、僕は、クリボーより、甘くない…」


 シュガーレスは、もう一本のコダチを抜いた。

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