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28 「ラジオスターの悲劇」

 夏海アルゼ、冬風カタナは、スリーピングの刺客3人達が拘束されている、県外某所に隠されている研究所に居た。

 彼ら、三人を拘束している研究所の部屋。それは、牢屋や、刑務所のような感じではなく、三人それぞれに、壁やドアのある部屋が与えられ、室内は普通のホテルようにベッド、シャワー、トイレ、洗面所、テレビ、窓などが用意された快適な感じだった。食事だって、ちゃんと出る。

 カタナは、それを見て、俺も拘束されたいと言った。

 ただ、厳重なセキュリティで、室内には、監視カメラが取り付けらており、部屋のドアにはロックがされて、研究所の人間だけが解除が出来る。研究所から、外へは出られないように工夫がされ、脱獄行為と判断されるような行為は禁止されていた。

 そんな彼らが部屋から出れるのは、面会がある時だけである。

 そう、地獄同盟会からの…。



「マジ、プライバシー侵害だよねー。ストレス、溜まるー。あー、むかつくー」


 テーブルの置かれた、面会用の長方形の狭い個室には、1対1で向かい合うアルゼと、ケリーが居た。ドアは締め切られ、窓だけが開いていた。そこから、涼しい風が入り込む。

 椅子に、だらけた座り方をして、アルゼを挑発するケリー。

 ケリーは、囚人服のようなスエット服上下を着ており、目付きを鋭くして、アルゼを睨む。快適な拘束室とはいえ、さすがに、外出出来ないのには、イライラしている様子だった。

 だが、椅子に脚を組んで座るアルゼは、もっとイライラしていた。ケリーが、全然、組織の話をしないからだ。


「貴様らだって、奇襲タイプのファンタジスタスーツで、監視してただろう…」


 ドン!と机を叩いて、アルゼは言う…。

 すると、ケリーが笑いながら…、


「あらー、ごめんなさいねー。でも、あんた、監視されても、こまらなそうな身体してるから…、つい…」


 と言った。

 ケリーは、自分の胸を両腕で挟むようにして、アルゼの前に突き出した。そして、目線は、アルゼの胸元を指す。

 アルゼは表情は変わらなかったが、青筋を額に浮かべて…、


「お前…、殺す…」


 と言って、立ち上がった。

 すると、ひゃはははは!と大笑いをして、ケリーは、


「ごめんねー、あたし、監視されると困る身体してるからー!あんたの怒る気持ち、粉みじんも、わからないのー」


 と言った。

 アルゼは立ち上がったまま、椅子を蹴り飛ばし、ドアを乱暴に開けて、出て行った。



「組織について、教えてくれ…」

「いいわ…」


 アルゼと入れ替わるようにして、面会室の席に座ったカタナは、ケリーと向かい合い訊問した。

 さっきまでの態度が急変し、顔を赤くし、姿勢正しく椅子に座るケリーは、カタナに話を始めた。

 部屋の外で、それを盗み聞きするアルゼは、壁を思いっきり、数回殴っていた。それを見た、研究員達は恐怖した。


「でも、ごめんなさい…。組織、スリーピングのアジトは知らない…。スリーピングの代表から部下を通して、金で雇われて、集まった四人なの…、あたしたち…」


 組織、スリーピングは用心深いらしく、彼女らも詳しい情報は知らないらしい。

 スリーピングの部下達から、報酬をネタに、ある場所に呼び出された例の4着のファンタジスタスーツに選ばれた四人。しかし、スリーピングのアジトや、代表の詳細も知らされず、ファンタジスタスーツと、地獄同盟会の情報、定期的な監視役達からの連絡を与えられただけだったそうだ。

 それを聞いて、カタナは、ため息をし、まだまだ、組織に近づくのは難しいんだなと感じた。思った以上に、敵の警戒は強い。

 組織の気配の遠さに、気が遠くなってきたらしく、カタナは頭を抑えながら、下を向く。

 そんな彼を見て、ケリーは、あっ!となる。


(いけない!あたし、彼を落ち込ませた…)


 元々の立場を忘れて、敵であるはずのカタナを気に掛けるケリー。

 何故か、さっきから、デレデレな態度を見せるケリーは、なにかを思い立ったように…、


「あと、なにか知りたいことは…?なんでも、いいわよ…。なんでも、教えてあげる…。例えば…」


 と、また両腕で胸を挟み、カタナを上目遣いで、下唇を軽く噛み、誘うように言う。

 下を見つめていたカタナは、思わず、横目で彼女の胸元をチラ見し、ゴクリと喉を鳴らす…。

 そして…、


「じゃあ…、上からの、スリーサイズを教え…」


 と、なにかを聞こうとした瞬間…。


ダン!!


 なにか、激しい壁の激突音が部屋の外から聞こえた…。

 そのせいか、急に態度や姿勢を改めたカタナは…、


「なくていいから、残る刺客についてを教えて…」


 と言い直した。

 部屋の外で、アルゼが右手を抑えて、痛みに悶えていた。壁に変な跡が着いていた。

 すると…、


「えっ…」


 急に、誘うような態度をしていたケリーの様子が変わった。

 カタナも、右手を抑えているアルゼも、彼女の様子の変化に気付く。

 そして、ケリーは口を開き…、


「名前は、鳥村辰…。あたし、あいつ嫌いだった…」


 と言い放った。




 セプテンバー・ミリアは、あの高層ビルのマンションの個室に、一人、椅子に座りながら、深く考え事をしていた。

 彼は、有名ミュージシャンでありながら、アンチヒューマンズの人間。しかも、幹部の位置に立つ。

 そんな彼のとっては、格下であるスリーピング。そのスリーピングの一員である、鳥村が、セプテンバーがプロデュースしたアイドルの織部コルテを拉致。

 この行為は、明らかな反逆行為。

 そのことについて、思考を廻らせるセプテンバー…。



 彼は、先日のことを思い出す。

 セプテンバーは、スリーピングの刺客達が三人敗れたとの報告を、組織から聞いた。

 内容は、スリーピングに任せていた地獄同盟会の排除の結果は、戦力の高性能ファンタジスタスーツ3着と、監視に使っていた奇襲タイプ数着の喪失。同時に、それら、商品であるファンタジスタスーツを、地獄同盟会排除に回したこと、マフィア、某国からの銃などの武器調達での出費。それにより、利益の激減と、出費による赤字。

 これらのスリーピングの失態に、組織の下した決断は、スリーピング代表の辞任。

 そして、スリーピングの地獄同盟会の排除計画からの撤退。もう鳥村辰、一人では、巻き返し不能と判断。

 これにより、組織は、地獄同盟会排除の後釜に、幹部の一人であるセプテンバー・ミリアを任命。同時に、セプテンバーを新たなスリーピングの代表に選任した。

 昨日、新たに地獄同盟会排除の命を受け、新たなスリーピング代表となったセプテンバー・ミリアは、元スリーピング代表に、辞任の報告を電話で告げた。

 辞任が決まった瞬間、元スリーピング代表は、泣き叫びながら、チャンスを!チャンスを!と電話から、懇願していた。



 それらのことを頭に浮かべ、セプテンバーは、あの元・スリーピング代表の初老の男性の顔を思い出す。


(お山の猿気取りで、他を見下している、金に汚れたファッキンが…)


 元代表の男とは、面識のあったセプテンバーは、この織部コルテ拉致事件の真相を、推測ではあるが、掴んだようだ。

 彼は、椅子から立ち上がり…、


「どうやら、ケジメをレクチャーせねばならないようだ…」


 着ていた高級なリクルートスーツを脱ぎ始めた。

 セプテンバーが掴んだ真相…。

 それは、元・スリーピング代表が、最後の高性能ファンタジスタスーツを持つ鳥村辰を操り、幹部、新スリーピング代表であるのセプテンバーと繋がりのある織部コルテを拉致。

 目的は、彼女を人質にし、脅迫。そして、再び、スリーピング代表の座を取り戻すことだ。セプテンバーの権限なら、スリーピングの代表を取り戻せる。

 それに、セプテンバーは、織部コルテを娘のように接していた。だから、脅しは効果ありだった。

 だが、謎が一つ…。

 鳥村辰が、元スリーピング代表に協力したこと…。仮に、元代表が返り咲いたとしても、組織からの信用を失っているため、メリットは少ないのに。

 しかし、それでも、確信を得たセプテンバーは動き始める。




 織部コルテの拉致を、鳥村辰の独断行為とは、セプテンバーは判断しなかった。それは、雇われメンバーで、組織の人間を知らない鳥村が、セプテンバーを知るはずかない。知ったのは、代表が鳥村に近づいたからだ。だから、織部コルテを拉致した。

 それに、味方が居なくなった代表が頼れるのは、鳥村だけ。



 カァー!!

 港近くの倉庫には、何故か、やけに多くのカラスが羽を広げて、飛んでいた。

 カラス達が飛んでいる倉庫の中…、そこには、奴が居た…。


「もしもし…」


 暗い倉庫の室内で、鳥村は携帯電話を片手に、誰かと話していた。


「あんたの言うとおりに、セプテンバーって人の女を捕まえたよ…」


 薄らに笑みを浮かべながら、鳥村は、コルテを縛って閉じ込めた部屋のドアを見る。

 携帯電話から、嬉しそうに笑う男の声が聞こえた。その声の主は、まさしく、例の代表の男のもの…。


 どうやら、セプテンバーの予想は当たった。

 しかし、鳥村の狙いとは…。



(ふひっ…、最高のステージになりそうだ…)


 携帯電話を握りながら、鳥村は笑った。

 どうやら、腹の底では、何かが練られているようだった。

 だが…、彼は、ある予想外の事態を、これから、味わう。



 ワン!ワン!


 鳥村と、拉致された織部コルテの居る倉庫で、カラスの泣き声と合わさるような犬の声がした。

 犬は、尻尾を振る。

 その犬は、地獄同盟会サポートの情報収集の天才犬、ラッキーラブ。カラスの泣き声に答えるように、ラッキーラブは吠える。 そして、ラッキーラブに呼ばれ、倉庫の近くに立つ、ゼファーナ春日…。

 カラスの泣き声を聞き取るように、耳をピクピク動かしながら、ラッキーラブは、前脚を動かし、地面の砂をなぞっている。

 ラッキーラブがなぞった砂は、日本語の形になって、文字として読める。どうやら、カラスの泣き声を人間の言語、日本語に解読して、ゼファーナに伝えているようだ。


「ここに、変なファンタジスタスーツに拉致された女性が居るんだね…」


 砂に書かれた文字を読みながら、ゼファーナは、シュガーレスの入ったカバンのチャックを開く。

 カバンから、シュガーレスのマスクが見えた。

セプテンバー・ミリア:有名ミュージシャン、音楽プロデューサーかつ、アンチヒューマンズ組織幹部。 性格、外国人。女性を虜にする色気の漂う鍛え込まれた肉体と、甘い声を持つ。作者が英語苦手なせいか、中途半端な英語と日本語を話す。 ファンタジスタスーツ、不明。 武器、不明。

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