表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

26.5 「ダイキライ」

「バカだ、真性のバカだ…。バカ世界選手権に出たら、2位だな…。1位は、秋羽隼で…」


 アルゼが、ワゴン車の後部座席に横たわる、全身傷まみれのパンツ姿のゼファーナに言った。筋肉が裂けて、ズタズタの血まみれになっている彼の右足に包帯を巻きながら、アルゼは、助手席で、両腕を怪我し、気絶しているケンに目をやった。

 あの戦いがあったホテルの前は、警察官や、パトカーが駆け付け、アスファルトに出来た、大きな穴と、ホテルの寝室の破壊ぶりを調査していた。

 その警官たちを避けるように、ホテルの前に、車を置いたアルゼは、機嫌悪そうに、ゼファーナの傷の手当てをしていた。あのジャージに、多少、ゼファーナの血が付いた。

 機嫌悪いのも、当たり前だった。深夜に、アルゼが寝ているときに、ゼファーナが、ケンを倒したと報告したからだ。

 で、駆けつけてみれば、気絶したケンを抱えている、全身ボロボロのゼファーナの姿だ。


「高層ビルから、落下してから着地して、そのまま、またビルに階段で駆け上がるバカ居るか…。しかも、相手のファンタジスタスーツ、破壊しやがって…」

「いだっ!!」


 と、ゼファーナの足を叩きながら、アルゼは言う。

 ゼファーナから聞いた内容を、そのまま、話すのもバカらしいと思いながらも、アルゼは、彼が脱いで、足元に置いたシュガーレスの損傷具合を見た。

 マスクに、ヒビが入っているし、スーツも血でベタベタで、ところどころが破れている。これは、修理が大変だと、アルゼは、ため息を吐いた。

 顔は絆創膏まみれで、腕や足が包帯に巻かれているゼファーナは、あちゃー、と思いながら、傷が痛むのを堪える。


(かなり、怒ってるな…)


 さすがに、今回は、辛勝で、敵よりも自分のダメージが大きかったと、ゼファーナは右足を見ながら思った。

 同時に、足元にある中破のシュガーレスを見た。そして、あの戦いの途中に、右足に巻いたマフラーに、目をやる。


「ところで…」


 ガラッ!と、後部座席のドアを開けて、車から降りたアルゼは、横たわっているゼファーナに、


「なんで、あの高さから、無事だった?」


 と、高層ビルのホテルを見ながら、聞いてきた。

 すると、ゼファーナは呆然とした。彼も、そのことについて、聞きたかったからだ。

 何故、あのとき、マフラーを足に巻いただけなのに、地面に落下しても無事だったのかを。



 落下したときのゼファーナは、無意識に、足にマフラーを巻いた。理由は自分でも解らなかったが、あのとき、マフラーを足に巻いただけで、落下しても無事だったし、ケンを、その足で倒せた。

 一体、なにがあったのか…。

 あのマフラーは、シュガーレスの右足に、何をしたのか…?

 それを、ゼファーナは、アルゼに聞きたかった。

 だが、彼女も知らなかった。



ブロロォォーーン!!


 アルゼは、運転席に座り、キーを差し、車のエンジンを始動させ、ハンドルを握った。


「とりあえず、貴様を、研究所の医務室に送る…」


 と、アルゼはシフトレバーを動かして、車を発進させた。伯父の会社、ライフコーポレーションのファンタジスタスーツ研究部の医務室に向かって。

 そして、助手席で気絶しているケンに目をやり、


「こいつは、拘束だ…。あの女、共々、知ってることを徹底的に吐かせてやる」

「あの女?」


 と、後部座席に横たわるゼファーナに、アルゼはアクセルを踏みながら言った。ゼファーナは、あの女に反応した。誰だと?

 すると、アルゼが…。


「キック女は、カタナがやった…」

「えぇー!!」

「カタナの奴は、無傷だった…」


 そう告げられ、ゼファーナは、また呆然とした。あの敗北を貰ったケリーが、カタナに敗れていたとは…。しかも、あのキック力を相手にして、無傷だったと。

 辛うじて、しかも、よく解らないシュガーレスの力で、同タイプのケンに勝利したゼファーナは、同じ仲間であるカタナとの実力の差を思い知った。

 自分の全身の傷を見ながら、ゼファーナは思った。まだまだ、自分は甘いと…。

 そして、自分の左手を見つめた。包帯で、グルグル巻きになっていたが。


(落下した時…)


 彼は、昔のことを思い出してしまったことを思い出した。あの水中で、この左手を握られた過去を。

 今度は、運転席のアルゼの方に、目を向けた。

 座席から、運転に集中する彼女の顔と、金色の髪の毛に、細い首筋と、横顔が見えた。

 ゼファーナは、それを見て、赤くなった。


(いっ、一応、アルゼも、なんだかんだで、女性なんだよな…)


 と、ゼファーナは思いながら、口を開いた。


「あの、アルゼさん…」

「ん…?」


 ゼファーナから話し掛けられたが、運転に集中してるので、振り向かないで、アルゼは返事した。

 ゼファーナは…、


「ありがとう…」


 と照れながら、言った。

 いろんな意味を込めて。

 こうして、駆けつけてくれたことと、あの日、助けてくれたことに…。

 それに対して、アルゼは…、


キキィ!!


 いきなり、急ブレーキをした…。車を、道路の脇に停車し、そして…。




「ダメだよ、君…。スピード違反しちゃあ…」

「はい、すいませんでした!」


 アルゼは、車から降りて、白バイの警察官に頭を下げた。そして、取り調べを受けていた。

 どうやら、彼女は免許、取りたてで、スピード違反をしてしまい、警官に捕まったらしい。

 アルゼは、いつものクールさをなくして、取り乱しながら、書類を書いていた。

 ゼファーナの精一杯の、ありがとう、は聞こえてなかったようで、彼は呆然とした。

 やはり、ゼファーナは、運命か、神掛かりに、彼女が苦手なんだなと、後部座席の窓から目を離し、両腕を頭の後ろに組んで、目をつぶる。


「えーと、はい、すいません!大学には、内密に!」


 だが、何故か、警官に捕まって、青ざめているはずのアルゼの顔が、赤くなっていた。まるで、りんごみたいに。

 警官に捕まり、顔に血液が回ったせいなのか、風邪気味だったからなのか、夏だったからなのか…。

 それとも、ゼファーナのありがとう、が聞こえていたからなのだろうか…。

 理由は、彼女しか知らない。

カタナ「このあと、彼女は、罰金を払いました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ