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26 「グライダー」

エターナリティ:正体、ケン・ホッパ。 タイプ、肉弾戦格闘用グローブ、迷彩服。 武器、両手のメリケン。 特性、両腕の筋力、上半身を強力に強化する。特にパンチに優れ、速さ、威力ともに、拳銃すら超える。

 アンチヒューマンズ配下、スリーピング。

 この組織は、地獄同盟会壊滅の命より、アンチヒューマンズから授かった高性能ファンタジスタスーツ、4着の特性に適応出来る人間を、裏社会で名前を馳せている人物で選出。裏世界の人間達を、肉体面、精神面と、過去の犯罪暦から調べ上げた。

 結果、ある闇に生きる青年達の四人を選んだ。


 一人は、轟護。

ある県で有名な暴走族の頭を務め、死者を出してしまった最悪の暴動を引き起こし、少年院へ。出所後、彼は、親類すべてから、見捨てられ、転がるように、裏社会に身を置き、そのカリスマ性と、凶悪性から、その世界では知る人と知る人物となった。そして、ファンタジスタスーツの『ゴッド・スピード・ユー』に選ばれた。

 もう一人は、鳥村辰。若輩ながらも、ある凶悪事件を起こし、ニュース沙汰になったほどだ。

 そして、ケリー・ホッパに、ケン・ホッパ…。二人は、暗殺稼業を請け負う殺し屋の家系で生まれた。二人は、幼少時より、様々な訓練を施され、肉体面、精神面共に、すべて、殺人へと向けられていた。そんな二人が、ファンタジスタスーツの『キャンディ・キュティ』、『エターナリティ』に選ばれ、与えられるのも、スムーズに進むだけだった。

 しかし、ケリー・ホッパは女性の面があった。だから、人を見下したり、狂気に身を任せたりするなかにも、無意識の優しさがあった。

 だが…、ケン・ホッパは…。


 この四人で、チームを組ませたスリーピング。

 しかし、現状は、轟護の戦意喪失、ケリーのファンタジスタスーツ消失と、二人も、地獄同盟会により、再起不能へと追い込まれている。

 残るのは、ケン・ホッパ、鳥村辰の二人。

 果たして、地獄同盟会は、残る二人と、スリーピングを砕き、黒幕である、アンチヒューマンズに近づくことが出来るのか…。




 神は、なんのため、この両手を授けたのか。

 仕事をするため?大切な誰かの手を握るため?誰かを抱き締めるため?誰かに触れるため?

 考えただけでも、限りがない。

 しかし、ケン・ホッパは、こう答えた。


「首を握るため」




 バゴッ!バゴッ!バゴッ!


「ぐぁああああ!!!」


 エターナリティは、ホテルの窓を背景しているシュガーレスの腕、足、腹に、数え切れぬ回数の連撃を浴びせた。コンクリートをも、問題にしない両手によるパンチを。スーツによって、肉体は強化されているが、生身のゼファーナであったら、無残より、ひどい言葉になっていた。

 激痛が、シュガーレスの体に走る。所々が、血を吹き出していた。とうとう、骨にも異常が来た。


「がふっ!!」


 マスクを守るので精一杯のシュガーレスだったが、内蔵に影響が来たのか、血を吐きだした。

 吐血が、仮面に飛び散り、漏れて、床に落ちる。

 ケンの拳は、速く、重い。鉄球を、何発も、体に撃ち込まれてるみたいだった。


「んなろぉ!!」


 シュガーレスも、右手を握り締めて、エターナリティのマスクを狙う。


バゴッ!


「ぐっ!」


 辛うじてだが、エターナリティの左頬に命中した。多少、ダメージはあるみたいだが…、


「そんなパンチで!!」


 すぐ様、エターナリティは左拳を振り下げ、シュガーレスの顎に狙いを定めた。そして、思いっきり、振り上げる。


ブン!!


 激しく空気が裂ける音がした。

 シュガーレスは、しまった!と思いながら、ガードをしようとしたが間に合わなかった。


ガゴッ!


 ケンの左腕による強烈なアッパーが、シュガーレスの顎に命中した。


「ぶっ…」


 ゼファーナの口の中で、激しく歯と歯が激突し、それに巻き込まれた舌と、唇が軽く裂けて、そこから、血が吹き出した。衝撃で、体が浮いた。

 シュガーレスのマスクは、顎部から、ピキピキ…、とヒビを走らせた。アッパーの衝撃で、顎部から脳を揺らされて、ゼファーナの意識が、ふわりと消えた。

 マスクの奥の眼光から、光が消えた。


ブン!!


 宙に浮いたシュガーレスの体に、狙いを定めながら、エターナリティは、右腕を振りかぶり…、


「さようなら、試作の中身…」


 強力な力で、右手を握り締める。

 そして、シュガーレスの腹部を狙い、右腕を前に突き出した。


ドガッ!!


 もはや、光の速さとも思える速さの右拳が、気を失っているシュガーレスの腹部に命中した。

 メキメキ…、と、なにかが砕ける音がし、マスクからは、絞ったかのように、大量の吐血が飛び、シュガーレスは、窓まで吹っ飛んだ。


パリン!ガチャン!


 窓ガラスは割れ、シュガーレスの体を受けとめる事無く、破片が辺りに散らばる。

 シュガーレスは、ガラスが体中に突き刺さりながら、ベランダを通り過ぎ…、この高層ビル、数百メートル階層の窓から飛び、宙に。

 そして、そのまま、地面に向かい、落下して行った。

 例え、非現実に肉体を強化するファンタジスタスーツであろうが、この高さから落ちたら、助からないという現実が通用しないわけがなかった。

 ただ、数百メートルの空中から、シュガーレス・ゼファーナは落下し、叩きつけられるだけだ。


「ふはははははは!ひゃっははははははは!!!」


 割れたガラスの破片を踏みながら、めちゃくちゃに、器物が破損した部屋の中で、ケンは笑った。




(死ぬのか…)


 空中に放り出されたゼファーナの意識が戻った。

 血が仮面に飛び付いていて、この高さから見える、キラキラ光る街の輝きが見えなかった。

 体は、風を受け、ただ落下している自分の身体に重力を感じた。

 首に巻いてあるマフラーが、なびいている。

 一緒に落ちているガラスの破片が、キラキラと光っている。

 かなりの速度で落下しているのに、何故か、地面まで着くのが遅く感じる。

 この感覚すべてが、これから、自分が死ぬんだと認識させた。


(頑張ったんだ…、仕方ない…)


 消え行く意識の中で、シュガーレスは思った。


(それに…、俺は、死にたかったんだ…)


彼の脳裏に、今までの記憶が蘇る。漆黒に染まっている思い出達が。



…………………


 生まれたときから、親に捨てられた。施設に預けられた。学校でいじめられ、手首を切った。


(あのとき…、血が止まらなくて、泣いたっけ…)


 手首を切ると、当たり前に、血が出てきた。止まらないで、血が溢れ出した…。

 血が流れるのが、急に怖くなって、思わず、止めてしまった…。

 やっぱり、自分は生きたいんだと思った。

 でも、周囲は、それを許さないかのように、毎日、毎日、自分が生ているのを否定のように、イジメを続けた。

 そして、また手首を切った…。でも、また止めた…。

 それを、繰り返した。

 生きたい、生きたい…、でも…。

 誰も助けてくれない、誰もが、自分の存在を否定する。



 生きるの、やめろ…、死ね…。



 誰かに、そう言われた日…。

 自分は、生きちゃいけないんだと自覚した。



 桜が咲き始めた頃、俺は、川に身投げした。その川は深くて、勢いが激しい。

 深く、深く、体が沈んで行く。

 水が容赦なく、呼吸を塞ぎ、体温を奪う。体が生きようとするのを停止させる。

 傷まみれの左手の体温がなくなっていく…。


 これで、やっと…、死ねるんだ…。


 そう思った時…。

 左手が暖かくなった。体温がなくなっていく、傷しかない左手が。

 川の中で、目を開いた。


 誰かが、水の中で、自分の左手を握っている。


 誰かが、俺を助けようとしているのか?

 やめろ、やめてくれ!

 死なせてくれ!死にたいんだよ!こんな、こんな…。

 生きたくないんだよ…、もうイジメられるの、嫌なんだよ…。

 だから、手を離してくれ…。


ぶわっ!


 握られている左手の傷から、血が吹き出した。

 いきなり、傷が開いた。

 水中で、赤く吹き出す。

 水が、赤くなった。

 まるで、血が、なにかを訴えているみたいだった。


 そして、手を握る誰かが、叫んでいる。

 水の中だから、聞こえるわけがないんだが、確かに、声が聞こえた。


 左手を握っているのは…、あいつだ…。

 夏海アルゼ…。

 あいつが、叫んでいる…。



『い・き・ろ』



 って…。


 迷惑だった。

 こっちの気持ちも、事情も知らないくせに…。


 だが、涙が出た…。


 その握ってくれた手が、暖かくて…。



……………………



「うおおあああああああ!!!」


 落下しながらも、消え行く意識を取り戻すかのように、ゼファーナが叫んだ。

 仮面の奥の瞳に、力が宿るように、再び、光が灯る。

 手袋から血が溢れた左手を、強く握り締め…、


「まだ、やることがある!!まだ、命尽きるわけにはいけないんだ!!」


 シュガーレスは、首にあるマフラーをほどいた。


「途中で、死ぬほど!!死んでしまうほど!!俺は!甘くないんだ!」


 ゼファーナはマフラーを、右足に巻き付けた。

 地面に激突するまでの猶予は、もうなかった。

 だが、シュガーレス・ゼファーナは叫ぶ。自分の存在を、世界中に叫ぶように。


「シュガぁああああ、レスぅうううう!!!」


 地面落下寸前、シュガーレス・ゼファーナは、マフラーを巻き付けた右足を、アスファルトに突き出す。

 そして!



バゴォォオオオーーーン!!!



 周辺に、まるで、爆弾が爆発したか、地震が起きたかのような爆音と、衝撃が走った。




「うっ…」


 爆音が鳴り響いた後のこと…。

 ホテルのめちゃくちゃになり、ガラスが散らばっている寝室のベッドに、ケンは座っていた。

 そして、勝利の余韻に浸っている…、はずだった…。

 ケンの背後から、声がした。


「言ったはずだ…、俺は、甘くない…」


 振り返ると、奴が居た。

 体中に、ガラスが突き刺さり、マフラーが巻き付けられた右足から、大量の血を吹き出し、黒いはずのボディスーツが真っ赤に染まっている仮面の男…。

 高層ビルから、落ちて絶命したはずの男…。

 シュガーレス・ゼファーナが…。


「バカなぁ!!」


 そうエターナリティのマスクの奥から、ケンは叫んだ。無事なわけがない、あの高さから、助かるわけがない。

 だが、振り返った先には、シュガーレスが存在している。血を床に垂らしつつも、両足が立っている。

 そして、エターナリティが動揺している隙を、シュガーレスは見逃さなかった。


「必殺…」


 シュガーレスは、大きく、エターナリティに向かって、飛び跳ねる。そして、あのマフラーが巻かれた右足を突き出す。

 エターナリティは、ハッ!と頭が混乱しながらも、両腕で、マスクをガードした。

 飛びながら、キックをするシュガーレスの右足が赤く染まり、エターナリティに迫った。

 そして…、


「グライダーズ・ハイ・キック!」


 と叫びながら、エターナリティの両腕に、シュガーレスはキックを命中させた。同時に、右足から、血が飛び出した。


バゴォォオオオーーーン!!!


 強烈な破壊音とともに、衝撃が、エターナリティを襲い掛かり、両腕の包帯、メリケン付きの手袋が、バリバリ!と裂けて、同様に、マスクも破れた。

 上半身のスーツが、すべて破れながら、ケンは後ろに背中から倒れて、ドスン!と床に転がった。

 たぶん、意識は消えていた。


スタッ!


 シュガーレスは、着地した。右足から、さらに大量に血が飛び出す。そのせいか、激しく息を切らせている。

 血が止まらない右足を手で抑えながら、倒れているケンの方に首を向けた。

 そして…、


「てめぇなんかが、俺の生き死に決めんな…」


 と言った。

 ガラスが割れた窓から、ただ、風が吹いていた。

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