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22 「MAGIC」

夏海アルゼの嫌いなものリスト、人ごみ、車、バイク、ホラー、オカルト、虫、ネズミ、爬虫類、秋羽隼、ゼファーナ春日など

 現在、地獄同盟会が、アンチヒューマンズ配下の組織、スリーピングが雇った謎の刺客四人に狙われている。

 狙われている理由は、組織の利益に害を与えるためと、いよいよ、彼らが、組織にとって排除しなければならない存在として認知されたからだ。

 そのために、スリーピングは、地獄同盟会を排除のため、アンチヒューマンズから授かったファンタジスタスーツにて動いていた。

 だが、刺客の一人、轟護は戦意喪失のため、リタイヤ。

 シュガーレスを引き分けに持ち越したケリー・ホッパは、現在、冬風カタナに接近し、ある作戦を実行中。

 残る二人の鳥村辰、ケン・ホッパの動きは見えずにいた。

 残る、この三人を下せば、アンチヒューマンズの組織そのものが動き出す。

 そう思って、地獄同盟会達は行動をしている。




「このっ!!」


 深夜、シュガーレス・ゼファーナは、監視として、街中に潜んでいた奇襲タイプと戦闘をしていた。

 場所は、シャッターが閉まった商店街の道路の真ん中でだ。

 以前、ケリー・ホッパのキャンディ・キュティにて、辛酸は舐めたが、それでも、シュガーレスには、街中に潜んでいる監視達を破らなければならなかった。

 今のところ、刺客達の登場は、ケリー以来なかったが、以前より、シュガーレスの動きは慎重になっていた。


「こないだみたいに、なるものか!!」


 と、シュガーレスは、奇襲型の顔面にめがけて、ハイキックを一閃。それで、相手の意識を消し飛ばす。

 相手は地面に寝っ転がった。

 そして、すかさずに、周囲を警戒しつつ、シュガーレスは、そのファンタジスタスーツを剥がした。

 どうやら、今日も、あの刺客は、姿を現さなかったようだ。


「来いよ…、あの蹴り使い…」


 と、キャンディ・キュティにより受けた屈辱を晴らしたがっているシュガーレスは、彼女が現れないのに苛立つ。

 監視のファンタジスタスーツを燃やし終わって、ここから、去ろうとした瞬間…。


 がさっ!!


「!?」


 シュガーレスの近くで、物音が。

 直ぐ様、その方向に、シュガーレスは体を向けて、態勢を整える。


「刺客か!?」


 と、シュガーレスは思った。だが、一般人かもしれないので、軽く、一歩ずつ退きながら、建物の影に隠れられるようにした。

 すると…、


「俺だ…、ゼファーナ春日…」


 シュガーレスの動きが止まった。

 視線の先には、赤い般若の仮面を被り、着物姿で片手に木刀を持った男が現れた。

 その見慣れた姿と、聞き慣れた声と、シュガーレスの正体を知っていることから、間違いなく、仲間の冬風カタナだった。

 どうやら、彼も同じように、監視破りをやっていたらしく、片手に持った木刀がボロボロになっている。



 建物の影、カバンを脇に置いて、シュガーレスのマスクを外しながら、ゼファーナは眼鏡をかけ、スーツから私服に着替えた。

 そして、彼の隣で、サムライロジックの仮面を外したカタナが、パンを食べている。


「毎日、監視を潰してますが、次から、次へと…」


 と、ゼファーナは尽きる事のない監視達に、うんざりした様子で、ため息をついた。

 そうか、そうかと頷きながら、パンを食べながら、カタナは話を聞いていると、


「そんなことより、カタナさん、いいんですか…。あの婚約者さん…」


 ゼファーナが、そう言った。

 それを聞いて、カタナは、口からパンをボロボロこぼす。

 ゼファーナは、その様子を見て、どうやら、彼は今悩んでるんだなと解釈した。




 先日、市内体育館に来た、刺客の一人、ケリーホッパ。

 彼女は、正体が地獄同盟会内に知られていないため、偽名を装い、カタナ、ゼファーナ、藤岡剣友会メンバーの目の前に現れた。

 偽名は、『矢車ソウナ』だ。

 体育館玄関に呼び出したカタナが、彼女の前に現れた瞬間…、


「逢いたかった!」


 と、いきなり、偽名のケリーはカタナに抱きついた。

 見も知らずの女性に抱きつかれて、なにがなんだか解らないので、困惑するカタナ。

 それを、近くで見て、顔が赤くなるゼファーナ。

 そして、その光景を、口を開けて驚いている雪乃。

 全員が、何が何だか解らなかった。



 詳しい事情を聞くと、彼女、矢車ソウナには婚約者が居た。

 しかし、数年前、婚約者は、ある日、突然に行方不明に…。彼女は、この数年間、ずっと彼を探し続けた。

 しかし、なんの手がかりも手に入らず、彼の捜索を諦めようとした時、市内の剣道大会で、彼を見つけたと情報を手に入れたのだ。

 その行方不明になった男性の名前は、『影山瞬二』。

 だが、彼は、今は違う名前を名乗り、街中を放浪しているとのことだった。

 そして、現在、彼はこの市内体育館に住んでいると聞いたことから、彼女は、ここに出向いたとのことだった。

 彼女の言う婚約者とは、そう、冬風カタナのことだ。


 もちろん、この話は、ケリーの口八丁の嘘話。

 これは偽名と、この嘘話により、婚約者として、カタナに近づき、隙を狙う作戦だった。

 普通なら、こんな嘘話を通用するわけがなかった。すぐに、カタナが違うと言えば、話が嘘だとバレる。

 だが、ケリーは、この作戦が成功する確信があった。何故なら、彼女は、カタナに関する、ある情報を手に入れていた…。

 それこそが、ケリーの嘘を通すことを成功させた理由であった。




 その先日のことについて、ゼファーナは、再び、カタナについて訊ねた。


「あなた、記憶喪失だったんですか…」


 そう再び、言われ、カタナは…、


「ああ。数年前の記憶はない…」


 と、カタナは苦い顔をしながら答えた。

 冬風カタナは、記憶喪失であり、過去の記憶がまったくなかったのだ。

 記憶を失っていたために、あのケリーの嘘の矢車ソウナって女のことについて、嘘だと切り捨てることが出来なく、むしろ、記憶を失う前は、そうだったのか?と、カタナは思ってしまったのだ。

 それに、冬風カタナって、名前は地獄同盟会から与えられた偽名だ。

 ゼファーナは、だから、彼は他のメンバーよりも謎が多く、自分のことを話さなかったのか…、と、再び、納得した。


「本当に、全然、覚えてない…」


 と、カタナは頭を悩ませる。

 カタナは、見事なまでに、ケリーの嘘に引っ掛かってしまった。

 しかし、ゼファーナは、それよりも、もっと気になっていたことが…。


「あの…、雪乃さんは…」


 と、ゼファーナは、ケリーが去った後に、雪乃が全身硬直していたのを思い出しながら言う。

 それについて、カタナは…、


「なんか知らないが、あいつは、ここ最近、元気がない…。どうしてかな…?」


 と、簡単に答えた。

 カタナは、自分の記憶に関わっているらしい、ケリーについて悩んでいるので、雪乃については、あまり考えていない様子であった。

 そんな彼を見て、


「なんか、僕、彼女の気持ち解ります…」


 と、ゼファーナは目を斜め上に逸らして呟く。

 カタナは、へっ…、と言った。




「轟が奴らに敗れたのに、随分、手間の掛かる下らない真似をするんだな…」


 同じ頃、深夜の高級マンションの室内にあるシャワールームから、湯気と、水の音がした。

 そこで、タンクトップのケン・ホッパは両腕を組ながら、浴室で、シャワーを浴びている姉に、ドア越しに話し掛けていた。

 裸で、シャワーを浴びているケリーは笑いながら、


「あんたも、一緒に入る?数年ぶりにー」


 と、ドアの向こうの弟をからかう。

 しかし…、


「冬風カタナは、不死身の能力…。一筋縄じゃない…。たぶん、地獄同盟会メンバー中、一番、厄介だ」


 まったく、姉の冗談を受け付けないで、ケンは話を進める。轟が敗れたという情報を、どこからか仕入れた彼には、今、どんな冗談も受け入れられなかった。

 しかし、彼はもともと、冗談は好かないタイプ。

 そんな相変わらずの堅い態度の弟を、つまらないと感じながら、ケリーは仕方なく、


「だから、あーやってるんじゃないよ…。奴の記憶喪失に付け込んで、隙を突いて、奴の仮面を回収し、冬風カタナを…」


 無邪気に笑っていた目を鋭くさせて、ケリーは話す。

 それを聞いて、ケンはフッ!と笑った。

 蛇口をキュッ!と閉めながら、彼女は、


「まぁ、あんな『実験台の男』より、あたしは試作の黒仮面シュガーレスに興味があるな…」


 と言って、脇の取っ手に掛けてあったタオルを取る。

 それを聞いて、


「夏海エヌアルのことか?」


 と、ケンは聞いた。

 タオルで全身を拭きながら、ケリーは…、


「違う、別人みたい…。こないだ、戦ってみたけど、動きや話し方が、カワイイわ…。あーいうの好きだわ…。メチャクチャにしたくなる…」


 と言いながら、痣の残る右足を見つめた。

 ドア越しのガラスから見えるケリーの女性らしい体のシルエットから感じる、ほとばしるような狂気に、ケンは仲間であり、実の姉であるのに恐怖した。

 だが、同時に、そんな彼女を、彼は頼もしく感じた。

 ポチャン、ポチャンと水滴が、ケリーの体から滴れた。




 カタナは鈍い、と思いながら、ゼファーナは、翌日の夕方の市内体育館にて、藤岡剣友会のマネージャー業をこなす。

 この日、カタナは、あの例のケリーの偽りの姿、矢車ソウナから、自分の過去について、いろいろ聞くために、練習には居なかった。

 そのせいか、今日の雪乃は、鬼のように荒れていて、いつも以上に練習に力を入れている。


「はい!気合いを入れなさい!!」


 と、小室、田中、尾崎をバリバリと、雪乃はシゴいているのを、ゼファーナは気の毒に見つめながら、正座をして、あることを考えていた。


(にしても、妙だ…)


 ゼファーナは、考えた。

 まず、あの矢車ソウナという女性は、確かに、以前、カラオケボックスで助けたことがある。しかし、それだけじゃなく、何故か、彼女の声は、どこかで聞き覚えがあった。

 それに、刺客達が襲い掛かり始めた、今の時期に、数年前から行方不明になった人を捜し回っている彼女が現れたのも妙だ。

 そういえば、刺客達は、アルゼ、隼、カタナ、エヌアルのことを身の内を知っている…。

 ゼファーナは、まさか、彼女は刺客でないのか…、との考えが頭に浮かんだ。

 しかし、まだ、予想の範囲内での考えだ。確信にはならなかった。



「春日君!テーピング持ってきて!早く!」


 と、考え事をしていたゼファーナに、雪乃は叫ぶ。

 やはり、今日の雪乃は荒れていると思いながら、はい!と返事をして、ゼファーナは正座から立ち上がった。

 すると、ズキッ!と、ゼファーナは右足から、痛みを感じた。


(まだ完治してなかったのに、無理したからな…)


 と、ゼファーナは袴から右足を出して見てみた。

 先日の深夜、奇襲タイプと戦った際、敵の顔面を、キャンディ・キュティとの戦いで痛めた右足で、ハイキックしたため、また、右足に痛みが返ってきたのだ。

 考えなしに、ハイキックした自分を恥ると、ゼファーナの頭に、なにかが走った。


(あっ…!)


 ゼファーナの頭の中に、突然、玄関に現れた時のケリーの姿が思い出された。

 あの日の彼女は、短いスカートを穿いていて、ハイヒールに、ニーソックスをしていた。

 だが、彼女の右足は、膝までのニーソックスに下に、太ももまで包帯が巻かれていた。

 それを、ゼファーナは思い出した。

 すると、なにかが、ゼファーナの中で繋がった。


「あの女…」


 雪乃が、早くしなさいと叫んでいたが、まったく、ゼファーナの耳に入らなくなった。




 今、カタナは、そのケリーホッパと共に居る。

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