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21 「SLEEPING GIRL」

ポニーポニック:正体、秋羽隼(本名、千葉隼人)。 タイプ、追撃用ライダースーツ。 武器、小型拳銃、ZZ-R1100。 特性、火器類や、敵の逃走、追撃に対応するために、集中力や感性を強力に強化するスーツであり、射撃や、車両などの道具を扱う戦闘は、地獄同盟会のメンバー中では、最も長けるが、肉体強化は弱いため、肉弾戦は向かない(だが、隼は素手の喧嘩は強い)。さらに、緊急事態に陥ると、一瞬だけ、空間そのものから消失し、相手の目に写らなくなり、すべての物体から触れられなくなる特性がある。

 相変わらずのジャージ姿のアルゼと、市内のショッピングモールを歩きながら、ゼファーナは、彼女が轟から得た情報を聞いていた。

 気温が暑くなったため、ゼファーナはTシャツを着ており、カバンには、シュガーレスを入れていた。

 ショッピングモールは、休日のせいか、多くの子供たちや、家族連れ、カップルの姿が見えた。


「高性能ファンタジスタスーツを渡されたのは、轟を含めた四人…。貴様が戦ったキック女も、その一人。あとの二人の詳細や、正体については、義理があるらしく、これ以上は、語らなかった…。組織についても、全然、語らない…。得た情報が少なすぎる…」


 と、轟の口を割ることが出来なかったのに、イライラしながら、アルゼは、仕入れた情報を言う。

 ゼファーナは、彼女の機嫌を損ねないように、上手いこと相づちを打つ。


「奴は、ライフコーポレーションに拘束した。奴のファンタジスタスーツも、研究材料として…」


 と、彼女が言う。

 すると、ゼファーナは…、


「その轟って、人が仲間になることはあるんですか?」


 と、聞いた。


「あーいうタイプは、信用出来ない…。あのバカと、同タイプだからな…」


 鋭い口調で、彼女は返答をした。

 あのバカが誰なのかは、ゼファーナは、すぐ解った。彼の頭に、あのバカに貸した金の額が、デジタル表示で浮かぶ。


「だから、奴には、君の存在を内密だ。まだ、組織に顔が割れていない君を、あんな奴に教えたら、どうなるか…」


 と、彼女は言う。

 そう聞いて、ゼファーナは、轟を地獄同盟会のメンバーに入れるのは、絶望的だと思った。少ない戦力だから、彼を入れて、チームを増強すればいいのと、考えていたのに。


 先日、例の金を返さないバカも、同じことを言い、轟は族の頭やってた奴で、義理や筋を優先するから、簡単には、こっちに寝返らないだろう、と言っていた。

 そう言う彼を見て、ゼファーナは、なんで、たった数日前に出会った人のことを、そんな風に理解出来るんだろうと思った。


 すると、ゼファーナの頭には、今、一緒に道を歩いているアルゼのことや、先日、とあることで大変な目に遭っているカタナや、金を返してくれない隼のことは、仲間であるのに、そういえば、知らないことだらけだと気付いた。

 会議や話し合いのため、食事とかはするが、互いに身の内話は、全然しないのだ。

 だから、メンバーのことは、性格以外、あまり知らない。

 こんなことで、自分達、地獄同盟会は仲間だと言えるのかと、ゼファーナは疑問に思い始めた。


「どうした…?ぼーっとして…。最近、貴様、考え事が多いぞ…」


 仲間のことを考えていたゼファーナに、アルゼが横槍を刺す。


「えっ?」


 彼女に声をかけられ、ゼファーナは、ビクッ!と反応した。

 すると、ゼファーナの頭には、


(そうだ…、苦手だが、彼女とコミュニケーションを交わせば、上手いこと、みんなの関係も円滑に行くかも…)


 と、仲間同士の信頼関係に疑問を持った彼は、彼女と仲良くしてみようと考えた。

 イライラが多い彼女のため、メンバー内は軋みが多いと確信したゼファーナは思い立ったら、すぐ、ショッピングモールを見渡した。

 急に、キョロキョロしはじめた彼を、アルゼは気味悪がった。

 そして、ゼファーナは、ある場所を発見した。



「貴様、これは、なんの真似だ…」


 と、ゼファーナに手を引っ張られて、連れてこられた場所を見て、アルゼは困惑しながら言う。

 そこは、市内のショッピングモールにある大型スーパー内部にある映画館だった。

 ゼファーナは、とりあえず、一緒に映画でも観て、感想でも語り合えば、少しは仲良くなれるだろうと思い、彼女を連れてきたのだった。


「いやぁ…、たまには、息抜きも必要じゃないかと思いまして…」


 と、苦手なアルゼに対して、精一杯の笑顔で、ゼファーナが言う。

 イライラが多い彼女のため、メンバー内の関係の円滑のため、ゼファーナは、彼女に怯えながらも、そう接する。

 なぜか、困惑気味のアルゼは…、


「息抜きなど、丁寧に断る…。大体、映画なんか観ない…」


 と言い、帰ろうとした。

 だが、ゼファーナは必死の抵抗で、彼女の肩を抑えて…、


「まぁまぁ、お金は僕が払いますし、退屈だったら、寝てて下さい…」


 と、ゼファーナは、彼女を制止させる。

 なんか、今日のこいつは変だ、気持ち悪い、と思いながら、アルゼは仕方なく、折れて、帰るのをやめた。ゼファーナには、戦闘を任せることが多いから、たまには、言うことを聞いてやろうと思っていた。


「いいだろう…。金は払え。ついでに、アイスコーヒーとか…」

「えっ、本当ですか?じゃあ、今、手配してきますー」


 と、珍しく折れてくれたアルゼに、喜びながら、ゼファーナは映画館の窓口に走って行った。

 ハァ…、とため息を吐きながら、アルゼは…、


「あいつ、あんなキャラだっけ…(最近、あいつ、ろくな出番しかなかったからな…)」


 と、映画館に貼られてあるポスター見つめながら、呟いた。

 映画や、ドラマを観ないため、流行の作品とかは知らなかったが、彼女は、貼られてあるポスターのホラー映画だけは、絶対に観たくないなと思った。

 そして、そのホラー映画の隣に貼られてある可愛い動物達が写っているポスターに、視線を奪われた。


「あっ…。なに…、この映画…」


 思わず、彼女は、声を漏らして、顔を赤くした。

 そして、そのポスターに書かれている文章を読み上げる。


「なになに…、可愛い子犬、子猫達が、大活躍のファンタジー感動作…。タイトル、『チョコレート・ディスコ』…。動物達が、可愛すぎて、悶絶して死にそうになります…」


 と、ポスターの動物達の写真を観て、彼女は顔を赤くして、そのポスターの文章から読み取れる映画の内容を想像する。

 彼女の頭の中では、爽やかな朝の草原を子犬や、子猫達がキャンキャン!と可愛く吠えながら、駆け巡る光景が広がる。

 すると…、


「アルゼさんー」


 想像を掻き消すように、ゼファーナが、彼女の近くに駆け寄ってきた。

 妄想に浸って崩れてしまった顔を、いつもの顔つきに戻して、彼女は、なんだ?と答える。

 すると…、


「これから、上映されるのは、ホラー映画の『ゾンビが、ぶっ生き返す!』と、ファンタジー映画の『チョコレート・ディスコ』なんですけど…」

「えっ…!」


 と、ゼファーナの口から発せられた、あの動物達が大活躍する映画のタイトルを聞いて、アルゼは一瞬、表情が柔らかくなった。

 だが…、


「『チョコレート・ディスコ』は満席だったんで、『ゾンビが、ぶっ生き返す』のチケットを買ってきま…」


 ゼファーナが、そう言った瞬間、アルゼは彼の顔を引っ掻いた。

 なぜ、顔を引っ掻かれたのか、理由は、ゼファーナには解らない。



 仕方なく、二人は、そのホラー映画を観た。

 ゼファーナは映画の内容よりも、隣の席で、ブツブツ…、と、『いつか、貴様を…』と言っているアルゼの方が、数倍怖かった。

 アルゼは、動物達が、ゾンビに変わってしまったことを嘆きながら、その映画の恐怖に耐えるため、ブツブツ…、と呟いた。

 実は、彼女はホラーや、オカルトが、めちゃくちゃ苦手だった。怖くて、眠れもしなかった。



 その日の彼女の夢は、爽やかな朝の草原を、生臭いゾンビ達が、呻きながら、歩いている内容だった。

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