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20.5 「さよなら、ベイビー」

 アンチヒューマンズ配下、スリーピング、轟護と地獄同盟会の秋羽隼が、バカみたいに戦った翌日の国道の昼間。

 あのカーブに、桜花は、たくさんの花束を持って、彼が大事にしていた愛車のNSR250Rで行ってみると…、


「えっ…」


 目を疑った。

 あのカーブには、たくさんの花束が供えられている。

 明らかに、以前よりも、花が多くなっている。

 誰が…?

 と思いながら、彼女は、あのカーブに花を供えた。

 道路には、妙な跡があったが、彼女は気付かなかった。

 そして…、


「よかったね…。たくさん、花束をもらえて…」


 と、その場所に言った。

 そして…、


「あたしも、もう22か…」


 自分の増えた年齢を、彼女は数えた。




 一方、あの海の見える丘にある彼の墓場の前には…。

 珍しい顔触れがあった。

 秋羽隼に、冬風カタナ、ゼファーナ春日、夏海アルゼ、ラッキーラブの姿だ。

 彼らは、両手に花束を抱えていた。そう、あのカーブに、花束を供えたのは、彼らだ。

 隼は、一応、敵である轟護のことを知っている範囲で伝えた。

 すると、全員が手向けに、この場に現れたのだ。


「それにしても、馬鹿な話だ…。族の抗争といい、国々の戦争といい、この彼のような犠牲を出してまで、人間は戦うのか…」


 珍しく女らしい服を着たアルゼが、花を墓に供えながら言う。

 続いて、珍しく礼服を着たカタナが、墓に花束を供える。

 花を置きながら、カタナが言う。


「俺たちだって、似たようなもんだ…。戦いに、身を投じちまってる…」


 その彼に続いて、ゼファーナが花を置く。礼服はなかったため、白いYシャツとズボンだけの姿で、ゼファーナは墓に向かって…、


「僕は、あなたが、誰か知らない…」


 と、自分の手首にある消えかかっている傷を袖から出して、傷を見つめた。


「あなたに対して、なにを言えばいいのか解らない…。でも…」


 そこから、先が、ゼファーナは口に出せなかった。

 そんな彼の背中を、いつものコートを着た隼は遠くから見つめていると、墓の向こうから、青く染まっている海と空が見えた。

 大きく息を吐いて、カタナが…、


「ところで、轟とか言うのは…」


 アルゼに、目を向けながら言った。

 すると…、


「戦意は喪失したらしいが、奴から、ファンタジスタスーツは確保させてもらった。当然、しばらく拘束して、徹底的に、情報を吐かせるだけ吐かせる…。僕は甘くない…」


 いつもの切れ長い目を光らせながら、アルゼは言う。ゼファーナは、何故か、苦い顔をして彼女を見つめた。


「だが、拘束される前に、1時間だけ、自由にしてくれと頼まれたんで、明日に日付が変わるまで、○○駅に来なければ…」


 と、アルゼは言う。

 それを聞いて、カタナはガハハ笑いをし、ゼファーナも軽く笑った。


「ん?」


 ゼファーナが振り向くと、いつのまにか、隼の姿が消えていた。

 どこへ行ったんだと、左右に首を振りながら、彼を探したが、ZZ-R1100と一緒に消えていた。




 その日の夕方。

 駅裏の昭和の薫りが漂う、あの古い店づくりの居酒屋に、桜花と、轟の二人が居た。

 久しぶりの馴染みの店で、ひっそりとしたカウンターに腰を置いて、二人はビールを片手に飲んでいた。


「誕生日、おめでとう…」


 と、轟が彼女に言う。

 桜花は恥ずかしい表情を浮かべて…。


「ああ、また歳を取るのか…」


 そう彼女は言った。

 今日は、桜花の誕生日であり、そして、彼の命日だった…。

 すると…、


「お前、今後は、どうするんだ…」


 轟は、桜花に聞いた。

 彼女はビールを飲みながら…、


「とりあえず、大学卒業しなきゃね。明日から、またバイトもあるし…。頑張らないと、あいつから、笑われちゃう…」


 と、彼女は語る。


「そうか…」


 轟は頷く。

 彼女は、たまに、あいつのことを思いながらも、前に進んで行くんだなと、彼は思った。

 同時に、彼女と違う道を歩んでしまった自分に、彼女は…。


「どうしたの?」

「いいや…」


 急に、黙り込んでしまったので、彼女が心配そうな顔をした。

 しかし、それを拭い去るように、轟はビールを一気に喉に流し込んだ。



 数年前の出所後、彼は彼女に、一切の連絡をせず、会わなかった。

 そして、流れ落ちるように、裏の世界に身を置いた。

 そんなある日に、彼女と、墓の前で、再び、出会った。忘れようと思っても、忘れられなかった彼女に。

 もしも、彼女と、再び、会えて、あいつのことから、彼女が立ち直り掛けているなら、ある伝えたい言葉があった。

 どうしても、伝えたかった言葉があった。

 でも、彼女を、裏の世界に巻き込みたくなかった。

 だから、轟は、伝えたかった言葉を酒と一緒に流した。



「そういえば、あんたは、どうすんの?」


 と彼女が、轟に聞いた。

 すると…、


「お前を見習って、真面目になるわ」

「なに、それ!?」


 と、彼が言った言葉を二人で笑いあった。


 そんな二人の席から離れた場所で、一人、二つのグラスをテーブルに並べ、酒を嗜んでいる者がいた。

 二つのグラスに酒を注いでいるのは、秋羽隼。

 遠くから、轟を監視しつつ、片方のグラスを握る。

 そして…、


「その向こう側に、何もなくても、俺は戦う…」


 と、もう一つのテーブルに置いたグラスを鳴らした。



 あの頃の匂いが漂う夏は、夜を蒸し暑くさせた。

余談。18から、今回までのエピソードで、少々、好ましくない描写を含ませたことを、この場で謝罪します。 現在、車や、バイクによる交通事故は多く、毎日のように、起きています。悲しみを増やさないため、くれぐれも、交通事故を起こさず、巻き込まれないよう、お気を付けください。作者からでした。

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