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19 「暁が呼んでいる」

 いつまでも、こうして、いられると信じていた…。

 いつまでも、3人で、笑っていられると信じてた…。

 あの国道みたいに、いつまでも続く夜道を、海に沿って、バイクで走っていられると思っていた…。

 あの日が来るまで…。

 一瞬で消えてしまうほど、あんなに命が脆いなんて、あの日まで、知らなかった…。

 そんなことを教えるために、あいつの命を奪ったなら、神は残酷すぎる…。




 夜になり、車が、あまり通らなくなった海沿いの国道線。昔は、暴走族や、走り屋達が、バカみたいに命を懸けて走っていた道だった。

 しかし、今では、この通り、誰も通ってはいない。

 だが、この日は違う。

 二台の車が、国道でエンジンを鳴らしている。互いの意地を誇示するように。

 バリバリ!と、辺りの空気を裂くように、エンジンが響く。


 若者たちが命を懸けた道は、今、ZZ-R1100と、もう一台の赤いタンクのバイクが支配している。

 赤いタンクのバイクの名前は、カワサキ、『Z1』と言う名だ。かって、二輪自動車業界に、革命をもたらしたバイクだ。


「昼間、てめぇと居た女。いい女だったなー。おめぇの女か?」


 ZZ-R1100の脇に立ちながら、昼間と同様に、青いライダースーツのポニーポニックを着用した秋羽隼が、オートマチックの銃を右手に持ち言った。

 そんな彼に、申し合わせるように、Z1の脇に立つのは、轟護。

 Z1は、彼のバイク。

 そして、彼は、アンチヒューマンズより渡された、高性能ファンタジスタスーツを着用している。


 轟護のファンタジスタスーツは、緑色のライダースーツに、ヘルメット。それに、胸、肩、肘、膝などに、硬質系のプロテクターが装着されていた。

 まるで、モトクロスの選手のような装備のライダースーツ。

 名前は、『ゴッド・スピード・ユー』…。


 そんな装備の彼が口を開く…、


「あいつは、幼なじみの女だ…。ただ、それだけ…」

 と、Z1のエンジン部を見つめ、異常がないか、チェックをしながら話す。

 ふーん…、と、ヘルメットのバイザーを開いて、隼は鼻から息を出した。

 すると…、


「それにしても、まさか、お前さんみたいな武骨なのが、敵とはなぁ…。俺たちが、大嫌いなアンチヒューマンズさんのよ…」


 と、隼は彼を見習うように、ZZ-Rのアクセルを捻って、エンジンの調子を測った。


「俺の仲間の黒仮面シュガーレス・ゼファーナを、可愛がったのも、てめぇの仲間か?」


 と、探りを入れるように、隼は轟に話し掛ける。

 エンジン部を見るのをやめた轟は立ち上がり…、


「俺に挑んできたのには、感謝する…。俺は、退屈だった…。だが、俺たちは、身の内を語り合うために、ここに来たんじゃないだろ…」


 と、隼の言葉を遮断し、Z1にまたがった。

 車一台も通らない道路の真ん中で、二台のマシンが、ただエンジンを鳴らしている。いつ、飛び出せばいいんだ…?と、獲物を前に、待ちきれない野獣の唸り声のように、ZZ-R1100、Z1がエンジンを揺らしながら、激しくマフラーから、バゥバゥ!と息を吐く。

 すると…、


「だよな…、俺たちゃあ、敵同士なんだから…、それ以外、味方も、クソも、過去も、関係ねぇよな…」


 と、隼は喋る。

 静かに、轟に体を向けた。

 そして…、


 バッ!


 いきなり、隼は片手に握っていた銃を、Z1にまたがっている轟に向けた。

 なんの躊躇もなく、隼は銃の引き金を指を掛けた。


「でもなぁ、この俺、『千葉隼人ちば はやと』は、てめぇのアンチヒューマンズに、ダチを殺されてんだよ!!てめぇが準備終えるまで、待ってやったのに、偉そうな口叩いてんじゃねぇ!!!」


 激動に駆られた隼は、銃の引き金を引く。


 バン!!


 渇いた音が、周辺を引き裂いた。




 桜花蘭は、昼間、懐かしい友人と、大事な人の墓の前に立ったせいか、その日の夜、実家の枕で、昔の夢を見た。


 夢の内容は、こうだ…。




………………


 彼女の高校時代のことだ。

 あのヤンキーまみれの、窓ガラスが割れてるのが当たり前だった学校に、ある日、ヤンキーとは、かけ離れた雰囲気の少年が居た。

 ガリガリの弱そうで、眼鏡掛けてて、気が弱い…。彼女が、最近、出会ったゼファーナ春日が、その彼に似ていた。

 当時、有名な悪だった彼女と、幼なじみの族の幹部だった轟と、同じクラスだった。

 二人は、こいつは、すぐイジメられて、学校来なくなるなと、出会った当初は思った。

 その通りに、すぐに、程度の悪い不良達に、喝上げされて、ボコボコにされていた。もうこんな光景は、彼女には、当たり前だった。

 次の日には、学校に来なくなるだろうと思うのも、当たり前だった。

 しかし、彼は、当たり前ではなかった。


 翌日、絆創膏まみれで、また学校に来た。

 その次の日も、絆創膏を増やしながら、彼は学校に来た。

 また次の日も…。

 その時は、見た目によらずに、あいつは根性があると彼女は思った。


 ある日、校庭の影で不良に殴られていた彼を見つけて…、


「おい、いつまでも、ダセェ真似してんじゃねぇ…。人に対して、囲んだ時点で、もうお前等の負けだ…」


 と、轟と一緒に、彼が殴られてるのを止めた。ただ、珍しく我慢強い奴だから、気に入ったのと、これ以上、同じ学校の不良共に情けない真似をやらせたくなかっただけで、それ以外に助けた理由はないつもりだった…。

 だが…、


「あっ、ありがとう…」


 さっきまで、不良達に、殴れていたのにも関わらず、彼の目は痛みや、苦痛で歪んでなく、ただ真っすぐで綺麗な目をしていた。

 その目に、彼女は、心臓が揺れた。


 轟も連れて、彼と一緒の三人で、近くの居酒屋で、未成年だが酒を飲んだ。少し遠い場所にあったが、所属してた族の頭が好きな店だったので、電車を使って、よく行ってた店だった。

 並々に注いだビールのグラスを、三人で乾杯した。


「おい、別に無理しなくてもいいぞ…」


 と轟は言った傍で、初めての酒をグビグビ飲み干した彼の姿には、二人は驚いた。

 これには、轟は、すぐに彼を気に入った。

 彼女も、見た目の割に、そこらの不良共より、男らしい彼が気に入った。



 それからは、三人は、ずっと一緒だった。

 普通の少年だった彼に、単車の乗り方を教えて、集会に参加させたり、あの馴染みの遠い店まで言って、飲み明かしたりとして、三人は過ごした。

 族の頭から、信頼されてた轟に、黙って居ても歩くたびに、周りの不良達から頭を下げらるほどの桜花。

 そんな二人に、不釣り合いなまでに、普通の彼。

 なのに、誰もより、仲良く、つるんでいた。


 ある日の集会の時、愛車のZ1を飛ばしていた轟の後ろを、一台のNSR250Rで走る彼の姿があった。

 そして、後部席には、桜花が彼の背中を抱き締めながら、座っていた。

 轟が、たまに後ろを振り返ると、仲良さそうに、彼と桜花がバイクにまたがっているのが見えた。桜花に背中を抱かれている彼の姿に嫉妬を感じたが、幸せそうな桜花の表情を見たら、嫉妬なんかするじゃないと、轟は自分に言い聞かせた。


「いつまでも、こうしてられたら、いいね」


 と、目の前の彼に向かって、桜花は言った。


「なに?」


 だが、彼は大きな声で聞き返してきた。

 ノーヘルメットだが、周囲のバイクの爆音で、声が掻き消されたため、桜花は、また…、


「ずっと、こうしていたい!て、言ってんだよ!バカ!!二度も言わせるな!」


 と、照れながら、彼女は彼の耳元で叫んだ。

 轟は、Z1のサイドミラーから、その彼女の赤くなった表情を見た。


(そうか…、桜花の奴…、あいつのことを…)


 桜花の気持ちに、気付いて、心の声に出そうとしたが、轟はバイクのアクセルを、さらに捻って、爆音を出して、声を掻き消した。

 これが、永遠に続けばいいと、彼の背中を抱き締めながら、あの日の桜花は思った。


 だが…。



………………


 昔の夢を見ながら、彼女は枕を、涙で濡らした。




 カッ!


 隼は、やっぱりか…、と口から息を漏らした。

 無防備に見えた轟の姿に、銃弾を飛ばしたが、予想通りに、当たらなかった。

 と言うよりは、あのファンタジスタスーツ、ゴッド・スピード・ユーの左肩のプロテクターが、新品の傘が受けた雨水のように、あるいは、車に塗ったワックスに刺さった雨水のように、銃弾を弾いた。

 丸みを帯びた左肩のプロテクターに弾かれた弾丸は、硬いアスファルトに穴を開けた。


「どうりで、隙だらけだと思ったんだよなぁ…。こんなファンタジスタスーツの特性なら、隙だらけにもなれるわな…」


 と、隼は、相手のファンタジスタスーツの超防御特性に気付いた。

 丸みに帯びたプロテクターなら、弾丸や、刃物は筋が立たなくなり、接触点がズレ、そのまま、勢いが違う方向に飛んでしまう。

 その特性を、自分の頭に記憶していると…、


「甘いし、遅いぞ!」


 と、Z1にまたがりながら、轟はスーツの腰に下げていたリボルバー式の銃を右手に取り、隼に向けた。

 彼に驚く暇も、与えずに、轟は銃の引き金を引いた。


バン!!


 命中したかに見えた。

 だが…、


「その台詞は、あのガキの決めゼリフだ…」


 と、轟の背後から声が…。

 リボルバーの先から、煙がなびく…。

 同じように、轟の目の前のアスファルトに、穴が開き、煙がなびいてた…。これは、さっきの銃弾でだ。

 穴が開いたアスファルトの近くで、さっきまで、隼が握っていた銃が転がっている。

 さっきまで、銃を片手にしていた隼の姿が目の前から消えただけでなく、なぜか、轟の背後には、Z1のテールランプで、赤い光を浴びている隼の姿が。

 隼の片手には、銃は無くなっていたが、あの刹那の間で、轟の背後を制した。

 一体、これは…。


「なるほど、互いに銃は不要のようだな…」


 と、轟は右手から、銃を離した。

 テールランプを浴びる隼は、激しく息を切らしていた…、


「ああ、そうだな…。どうやら、知ってるみたいだなー。ポニーポニックのシークレット・プログラム、『一時空間離脱』を…」


 と、隼はZ1のテールランプから離れ、自分の愛車の元に駆け出す。

 そして、隼は、息を切らしながら…、


「言っておくが、てめぇ!俺は甘くねぇぞ!」


 と、ZZ-R1100にまたがりながら、轟に向かって叫んだ。

 叫んでる途中、あっ、これ、あのガキ(ゼファーナ)の台詞だったと隼は思った。


 似たもの同士の二人の単車、拳銃使いの戦いが、今、始まった。




「へっくしょん!」


 と、夜になり、市内体育館から出たゼファーナは、くしゃみをした。

 もしかして、夏風邪なのかなと鼻をこすりながら、まだ六月の夜は冷えるんだなと、ゼファーナは思った。


「にしても、まさか、カタナさんに…」


 さっき知った事実に、再び驚きつつ、ゼファーナは歩きながら、夜空の月を見上げた。

ゴッド・スピード・ユー:正体、轟護 タイプ、防御用ライダースーツ 武器、銃、歴代幹部から譲り受けたZ1 特性、ライダースーツや、プロテクターは、特殊な形状なのと、特殊な素材がコーティングされており、銃弾や、刃筋をズラす。そのため、力学的な攻撃は当たらない。

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