18 「黒い太陽」
ケン・ホッパ:16歳。アンチヒューマンズ配下、スリーピングの刺客の一人。 性格、クールな少年。姉のケリー・ホッパと正反対なタイプ。 使用ファンタジスタスーツ、使用武器、不明。
そういや、最近、桜花さんに逢わないな…。
と、バイト終了後の脱衣所で、ゼファーナは思った。シュガーレススーツを着ないで、彼は、そのまま、夏服を着た。
脱衣所から出ると、スタッフルームで、他のアルバイトのみんなと話しているダイゴの姿が、目に入った。笑いながら、彼は、周囲と話している。
そんな彼を、横目で見ながら…、
(あの人が、桜花さんを狙っているのか…)
と、ゼファーナは思った。
彼は、いつものように、シュガーレススーツの入ったカバンを携えて、バイト先を後にした。
彼らの会話が、たまたま、小耳に入ったが、どうやら、桜花は事情により、実家に帰ったようだ。その事情は不明だが。
まだ、盆になっていないのに…。
と、ゼファーナは思った。
翌日の昼。
ゼファーナ達が、住む市街から離れた先にある海沿いの街に、桜花の姿があった。
街の海岸や、港が見える位置にある丘の墓地に、白いワンピースを着た彼女が居た。墓場の入り口には、彼女の愛車、NSR250Rが駐輪されている。
彼女は花束を両手に抱えて、ある一つの墓石の前に立った。
少し汚れた墓石を、彼女は撫でながら、花束を墓石の前に置く。
そして…、
「あれから、4年ね…」
と、誰かの墓の前で呟く。
どこか、悲しげな表情をしながら、線香を立てようと、彼女は墓石の線香立てに、手を近付けようとした時。
コツコツ…
彼女の背後から、足音が聞こえた。
すると…、
「もしかして、蘭か?」
と、背後から近づく足音が、桜花を下の名前で呼んだ。
その声に、桜花は振り向くと、そこには、長身の黒い礼服を着たオールバックの髪型の男が。
墓地の前にあるNSRの横には、スカイラインの鉄仮面。
そして…、
「護…!」
と、桜花は目を見開いて、男の名前を呼んだ。
彼女の背後に立っているのは、あのアンチヒューマンズ配下、スリーピングの刺客の一人、轟護だった。
この様子から、二人は顔見知りのようだ。
轟の両手にも、花束が抱えられている。
この二人の近くで、ウミネコや、カモメ達の泣き声が響く。
「いない!?」
と、隼の働く自動車修理工の工場内で、ゼファーナは叫んだ。
すると、隼の同僚のちょっと不良っぽい筋肉質な感じの青いツナギの男が、
「ああ、なんか知らないが、今日から、有休だぜ」
と、答えた。
隼に、今日こそ、今まで貸してきた金を返してもらおうと、カバンの中に、シュガーレススーツを入れて、修理工に来たと言うのに、居ないという返答に、ゼファーナは、ガックリ…、と頭を抱えた。
その不良っぽい同僚に、隼の行方を聞いても、知らないようだったので、ゼファーナは礼を言いつつ、修理工から離れる。
ここに来る前も、彼のアパートに行ってみたが、不在だった。郵便ポストには、ガス、水道、電気代の滞納のハガキが詰め込まれており、彼の愛車のZZ-Rもなくなっていたのだ。
ゼファーナは、真夏の日差しを受けながら、どこかへ行ったんだと、街中に出向き、彼を探し歩いた。
「久しぶりね…」
「ああ…」
場面は変わって、海の見える丘にある墓場。
そこのある二つの花束が飾られた墓石の前で、桜花と轟は話している。
桜花は墓石の前で、膝を曲げて座り込み、轟は、さっきまで、花束を抱えていた両手をポケットに入れて、立っている。
二人とも、昔からの付き合いらしく、話も弾んでいた。
「今、バイトしながら、大学に行ってるわ」
と、桜花が話すと…、
「へぇ、朝まで、俺たちと、単車、ぶっ放してたせいで、毎日、高校を遅刻してた、お前が…」
轟は笑いながら、彼女の昔話を話した。
すると、桜花は苦い顔をして、
「うっさいな…。大学は、入るまで、苦労したわよ…。ついでに、バイトするのも…」
と、話した。
すると、轟は豪快に笑い出し、
「はははっ!そりゃあ、そうだろ!あの泣く子も、更に泣き出すスケバンだった、おめぇが、真面目になれるわけねぇよ!!」
「うっせーな!今では、真面目だ!」
と、桜花の口調が変わった。
二人とも、楽しげに昔のことを話している。
すると、桜花は、
「そうだ…、バイト先にさ、『アイツ』に似てる奴が居てさ…。見た目が、ひょろひょろで、弱っちそうな感じが似ててさ…。確か、名前がね…」
と、墓石に書かれた名前を見つつ、バイト先に居る誰かの話をし始めた。
ブォン!ブォン!
そんな二人の背後で、馬鹿デカイ、エンジン音が響いていた。
だが、二人は気にせずに、話し込んでいる。
「て名前でさ…。イジメられっ子ぶりまで、似てるのよ…」
と、墓石を見つめながら、話している桜花に、へぇ…、と答えながら、轟は背後のエンジン音の方に、首を向けた。
自分の愛車、鉄仮面と、桜花の愛車、NSRの近くで、黒いZZ-R1100にまたがっている青いライダースーツの人の影があった。
あれが、誰なのか、轟には解っている。
青いライダースーツの近くには、1匹のカモメが飛んでいた。
「案内、ご苦労、ラッキーラブに礼を伝えとけ…」
と、カモメに言いながら、青いライダースーツは、バイクから降りた。
ヘルメットを外さず、バイクのハンドルにぶら下げていたビニール袋を、手に取る。
そう、彼は、鳥達から仕入れたラッキーラブの情報網で、轟を見つけた秋羽隼。ファンタジスタスーツ、ポニーポニックの姿だ。
さっきまで、うるさかったZZ-Rのエンジン音が切れたことに、気が付いた桜花は話すのを止め、座ったまま振り向く。
見慣れない青いライダースーツのヘルメットの男が、こちらに近づいているのを、桜花は気付いて、立ち上がった。誰だと思いながら、ヘルメットのバイザーで顔が見えない男を見つめる。
轟は、ポニーポニックを知っているため、身構えており、桜花を守るようにして、彼女の正面に体を前に出した。
すると…、
「!?」
ポニーポニックの隼は、片手に持っていたビニール袋から、酒の一升ビンを取り出した。
そして、茫然と見つめている二人の横を通り過ぎ、さっきまで、二人が見つめていた墓石の前に、ポニーポニックが立った。
墓石の前に立つポニーポニックの姿を、桜花、轟は黙って見ている。
そして、ポニーポニックは、酒の蓋を開けて…、
「この酒は、安いモンだ…。だが、あの世に居る俺のダチが好きだった味なんで、勘弁してくれ…」
と刻まれた名前を見ながら言いつつ、墓石のてっぺんに酒を浴びせた。
その彼の姿を、黙って、桜花と轟は見つめていた。墓石が、まるで、涙を流しているように、酒が上から下と流れて行くのを、二人は黙って見ていた。
ポツポツ…、とビンから、酒の水滴が落ちる。
酒が無くなったと同時に、ポニーポニックはビンを、墓石の近くに置いて、振り向き、バイクの元へ戻ろうと、なにも言わずに歩き始めた。
桜花は、彼が誰なのか、知らなかった。
知らなかったが…、
「ありがとう…」
と、ポニーポニックに告げた。
轟は、ただ黙って、ポニーポニックがバイクに向かうのを見つめていた。
ポニーポニックのヘルメット中で、隼は呟くように…、
「これが、俺流の宣戦布告だぜ…。伝説の頭、いや、スリーピングの轟さんよ…。行こうぜ、ピリオドの向こうまで…」
と言った。
轟は、酒に濡れた墓石を見つめながら、ポケットに入れていたキーを、右手に握った。
同じ頃…。
夏の日差しに耐えながら、藤岡剣友会が練習している市内体育館道場…。
そこでは、いつものように、小室、中田、尾崎と、大樹、雪乃、カタナ達が防具を身につけての稽古をしていた。
「はい!もうすぐ、みんなが退院してくるんだから、気合いを入れなさい!」
と、雪乃が叫んでいるのを、マネージャー役のゼファーナが遠目で、スポーツドリンクを作りながら、見つめていた。
「暑いのに、よくやるよ…」
と、みんなに関心しながら、どうやって、隼から、金を返してもらおうかと考えていると…、
「すいませーん!」
と、玄関から声が聞こえた。女性の声だ。
それに、気付いたゼファーナは、直ぐ様、玄関に駆け足気味に向かう。
足を進ませながら、なんか、どっかで聞いた声だな…、と思いながら、玄関に到着すると…、
「!?」
ゼファーナは、驚いた。
「あのぅ…、冬風カタナさんは、居ますか…?」
と、目の前に立つ少女は言う。
ポニーテイルの髪型の可憐な服装をしている、以前、ゼファーナが、カラオケボックスの近くで、暴漢から助けた少女だった…。
スカートの下の右足には、包帯が巻かれている。
その少女が現れたのに、ゼファーナが驚いてた。
すると…、
「あれ…、あなた、どこかで、お会いしませんでしたっけ?」
と少女も、ゼファーナを見て、驚いた様子を見せた。
そう、スリーピングのケリーホッパが、地獄同盟会の二人の近くに現れた。
轟護:22歳。アンチヒューマンズ配下、スリーピングの刺客の一人。 性格、寡黙で男らしい、筋の通った硬派なタイプ。 使用ファンタジスタスーツ、不明。 使用武器、『スカイライン(鉄仮面)』。




