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17 「ホテル・パッシング」

キャンディ・キュティ:正体、ケリー・ホッパ タイプ、近距離格闘用。 武器なし。 特徴、チャイナドレス、ニーソックスにより、どのファンタジスタスーツよりも、強力に脚部を強化する。その威力は、分厚い鉄板3枚くらい砕く(が、シュガーレスの蹴りは同格だったのは…?) ちなみに、ホッパは、バッタと言う意味であり、つまり…。

「けっ…!」


 駅裏の深夜になり、人が少なくなった商店街を歩きながら、隼は唾を道端に吐く。たくさん、酒を飲んだはずなのに、全然、酔ってなく、ただ、イライラしている。

 さっき、居酒屋で、何故か、自分の名前を知っていたオールバックの男に銃を突き付けたら、男は名前を言い残して、店から去った。

 そのことが、なんか、食い足りなかったらしく、彼も居酒屋から出た後、気分が良くなかった。



「なんで、あいつ、俺の名前を知ってたんだよ…」


 と呟きながら、隼は、あの男が言い残した名前を思い出して、口に出して、呼んでみた…。


轟護とどろき まもるだと…。どっかで、聞いたような…」


 と、隼は頭に手を置いて、自分の記憶の中を探った。



 一方、市内の駅近くにある駐車場に、あの轟護と言うオールバックの男が居た。長いコートと、片手に握る車のキーを揺らしながら、歩いていた。

 多くの車達が並んでいる駐車場で、轟は、一台の車の運転席近くで足を止めた。


 その車の名前は、『スカイラインRS-X TORBO-C』と言われる古い型式の車。別名、『鉄仮面』。

 『ハコスカ』、『ケンメリ』に続く、日産スカイラインが誇る六代目の名車。

 そして、この車が、轟の愛車だ。


 彼が、キーを運転席ドアの鍵穴に挿していると…、


「秋羽に接触したのに、何故、仕掛けなかった?」


 と、轟の背後から、声がした。

 運転席のドアを開こうとしていた手を止めて、轟は振り返る。

 背後には、いつのまにか、黒い皮のコートに、同じく河のズボンを身につけている金髪の男が居た。鉄仮面の運転席側に駐車されているセダン車のフロントに腰を置いている。


 彼の名前は、『ケン・ホッパ』。アンチヒューマンズ配下、スリーピングの刺客のケリー・ホッパの弟であり、同じく、刺客の一人の青年。

 また、轟も同じく、彼の仲間であり、スリーピングの刺客である。

 そう、彼らも組織から渡された高性能型ファンタジスタスーツを持っている…。



「何故、仕掛けなかったんだ…、と聞いている…」


 冷たくケンは、轟に言う。

 すると、轟はケンの方に、体を向け…、


「あいつは、酒を飲んでいた…。酔っ払いを倒しても、自慢にはならんさ…」


 と、ケンに言う。

 すると…、


「俺なら、やるんだけどな…。相手が、酒飲んでようが、病だろうが、タレててもな…」


 ケンは、鋭く目を尖らせながら、硬く拳を握った拳を、轟に向けて、そう言った。


 そんな、二人を月は照らしていた。




(ダイゴさんが、桜花さんを狙っている…。なんて、馬鹿な話だ…)


 ゼファーナは下を向いていた。

 ファミレスのテーブルに座り、私服のズボンの膝部分を力強く握りながら、先日、桑田に言われたことを、頭の中で考えていた。

 すると…、


 バシン!


 と、隣に座っている、ジャージのアルゼに後頭部を叩かれた。


「っ!」


 頭を叩かれて、ズレた眼鏡を直しながら、ゼファーナは隣の席のアルゼに目を向けた。

 いつものアルゼの無愛想顔が、目に入り、正面に目を向けると、秋羽隼に、冬風カタナが座っていた。

 ゼファーナは、今、夜のファミレスで、『地獄同盟会』のメンバーが集まって、新たに現れたアンチヒューマンズの刺客について、話していた。

 なのに、さっきから、アルゼが話している途中で、自分が別のことを考えていたのを、ゼファーナは恥じた。

 そして…、


「どうした?まだ、怪我が痛むか?」


 と、ハンバーグを食べながら、この季節に合わせたような薄手の着物姿のカタナが、ゼファーナに言う。彼だけ、バクバクと食事をしていた。


「あっ、いや、すいません…。少し、疲れてたんで…」


 と、ゼファーナが言うと…、


「と言うよりは、なにか、考え事してたように見えたが…」


 ゼファーナが言ったことに、アルゼは、そう返しながら、片手に、アイスコーヒーを取り、横目で彼を睨んだ。


(すっ、鋭い…)


 まだ、前の小室、中田、尾崎が現れた時のことを怒ってんのかなーと思いながら、ゼファーナは、目の前にあるアイスコーヒーを口に入れた。

 そして、ゼファーナが、目の前で座っているタンクトップ姿の隼に目をやる。すると、彼は腕を組んで、目を見開いたまま、ただ黙っていた。

 隼も、なにか、考え事をしているような様子だった。


「秋羽さん?」


 と、ゼファーナが、隼に話し掛けた。

 すると、彼は気が付いたように、ん?と言いながら、視線をゼファーナに向ける。


「なんだ、お前も、考え事かい?」


 隣の席の隼に、首を向けて、カタナが言う。

 すると、隼は…、


「あっ、いや。昨日、行った店のソープ嬢のこと、考えてた」


 と、言った。

 すると、アルゼは目を更に尖らせて、ゼファーナは顔が赤くなり、カタナは興味津々な様子で、


「今度、俺も誘えよ…」


 と、言い寄っていた。

 すると、隼は笑いながら、


「おめぇには、あの剣道少女が居るじゃんかよー」

「いやー、あいつは、ガード固いからねー。昨日、道場で、着替えを覗いてたら、通報されたぜ」

「馬鹿か、お前…」


 と、カタナと会話を弾ませた。

 そんな様子を、ゼファーナは、隣でプルプル…、と小刻みに怒りで震えているアルゼのオーラを感じながら、黙って見ていた。



 そんな話にならない3人を残して、アルゼは無言で、先にファミレスを去った。

 イライラした自分をなだめるように、額に手を当てて…、


(ゼファーナ春日は、先日、敗れたくせに、だらけている…。秋羽隼は緊張感がない…。カタナに至っては、やる気あるのか解らない…。どいつも、こいつも…)


 と、イライラの原因である3人について、頭を悩ませた。


 なんで、あんな奴らと、同じメンバーで居なければならないんだと思いながら、ファミレスから離れて行く。

 彼女は、先日、奇襲タイプに襲われた道を避けて、違う道を歩いた。先日の件を思い出すと、尚更、イライラしてしまうからだ。


「どいつも、こいつも役に立たない…。兄さんが居れば…、あんな奴ら、必要ないのに…」


 と、嫌いな車達が走っている国道添いの歩行者用通路を歩きながら、彼女は、この場に居ない兄のことを思った。

 車のヘッドライトが、滝のように流れ、まるで、スポットライトのように、アルゼに光を照らした。



 一方、アルゼが居なくなったファミレスの席。アルゼに続くように、残りの3人も店から出ることにした。

 支払いすべてを、ゼファーナに払わせ、店から出たカタナと、隼の二人は、それぞれ異なる方向へと歩いて行った。

 遅れて、支払いを済ませたゼファーナも店から出た。財布の中身を気にしながら、外へ出ると、少し、蒸し暑くなった空気を感じた。



 先に店から出た隼は、ファミレスの駐輪場に停めていたZZ-Rのキーを挿し…。


(轟護…。あいつ…、もしかしたら…)


 と思いながら、市販のヘルメットを被り、夜空を見上げた。



 そして、隼とは違う方向を歩いているカタナは、満腹になった腹を押さえながら、星が光る夜空を見上げて…、


「さて、次に、雪乃の尻を触るのは、邪魔者を消してからだな…」


 と、呟いた。



 ゼファーナは、蒸し暑い空気の中で、夜空に輝く星達を見た。

 そして…、


(桜花さん…)


 と、桜花のことが、頭に描かれた。

 しかし…、


(アンチヒューマンズが、送り出した高性能ファンタジスタスーツ…)


 同時に、頭の中に、先日のファンタジスタスーツ、『キャンディ・キュティ』のことも、描かれる…。

 そして、彼は夜空の星屑に願いを込めるように…、


「もう、今までとは、違ってくるんだ…。周囲の人々も、敵も、状況も、世界も…」


 と、夜空を見上げるのをやめて、再び、前を向き、彼は歩き始めた。

 すると、夜の虫やカエル達の泣き声が、彼の耳に入り込んだ。

 もう夏なんだなと、ゼファーナは感じた。




「退屈だ…。退屈すぎる…」


 彼は建物の夜の闇に隠れ、携帯型のゲーム機を投げ捨てる。パリン!と液晶が割れ、部品が飛び散った。

 そして…、


「もう、我慢できないよ…」


 と言い、被っていたキャップを投げた。

 彼の名は、『鳥村辰とりむら たつ』…。そう、アンチヒューマンズ配下、スリーピングの刺客の一人…。そして、最年少…。

 片手にある地獄同盟会の写真5枚を片手に、彼は、大きく跳ねるようにして、地面を蹴りながら、前へ進み、灯りが、キラキラと輝く街中へと飛び出した。

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