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15 「真夜中のダンディ」

 ゼファーナ春日は、夏海アルゼが受けた奇襲から、相手のパターンを読む。

 アンチヒューマンズは、今まで、密かにファンタジスタスーツを駆除してきた地獄同盟会を相手にはしなかったが、一文字事件から、下請け組織の利益の害となると判断したため、本格的に動き始めた。

 何故、今まで、組織が動いてこなかったかの詳しい理由は不明だが、今まで、裏で捌いてきたファンタジスタスーツの利益から開発は進み、たぶん、戦力の増強が考えられる…。

 それに、相手は、とある事情から、地獄同盟会の所有するファンタジスタスーツが欲しい。

 つまり、顔の解る地獄同盟会を狙うのなら、目立たぬよう奇襲し、地獄同盟会のメンバーを生け捕りに。そして、スーツを在処を吐かせねばならない。

 それに、アルゼを襲ったファンタジスタスーツのタイプから、敵の作り上げたトラップは読める。

 これを、逆手に狙えば…。




「ぐぁ!!」


 深夜の市街の電柱の地上から、数メートル位置に、貼り着いて、地獄同盟会メンバーを詮索していた奇襲タイプのファンタジスタスーツの頭部に、そこら辺に落ちている石が当たる。

 投げ付けたのは、もちろん、シュガーレス・ゼファーナ。


 シュガーレススーツは、奇襲タイプよりも、隠密性に優れ、物音が出ず、さらに、視界の範囲が広く、五感の感覚が優れる。

 だから、電柱や、建物の隅に、潜んでいる奇襲タイプを発見でき、さらには、相手に気付かれずに接近出来る。


 頭に石を投げ付けられ、驚いた拍子に、電柱に貼り着いていた奇襲タイプは落下。

 すかさず、シュガーレスは地面に叩きつけられた奇襲タイプの腹部に、一撃与え、気を失わせる。

 そして、奇襲タイプのファンタジスタスーツを剥ぎ、消去する。

 これが、ゼファーナの考えた、奇襲タイプの包囲網対策だ。


 しかし、他にも、同じように、市街には奇襲タイプが潜んでいるし、相手の数が解らないため、手探りになってしまう。

 それに、今のところ、この包囲網破りを実行しているのは、ゼファーナだけだった。他のメンバーは、顔が割れていないゼファーナに任せっきりだ。


「これで、3人目…」


 と、さっき倒した奇襲タイプを見て、今日一日で、見つけて撃沈させた数を、シュガーレスは数える。

 相手は、半径数十メートル間隔で、電柱や、建物の高い位置から、周囲を見渡せるように点在しており、その合間を縫うように、シュガーレスは動いている。

 あと、何人居ることやらと考えながら、シュガーレスは奇襲タイプを着ている男から、スーツを剥がしながら、ため息を吐く。

 今日、バイトが終わって、すぐに行動しているが、この調子では、いつ終わるか解らず、先は長いと、ゼファーナは考えていた。


 すると…、


 スタッ…、スタッ…。


「!」


 シュガーレスの背後から、音が。それも、人が歩く足音。

 まずい!と、シュガーレスは動揺する。一般人に、この光景や、姿を見られたら厄介だ。

 だから、シュガーレスは振り向かず、気絶した奇襲タイプを引っ張り、壁の隅にでも隠れようと動き始めた瞬間…。


「みーぃ、つけたー」

「!!」


 と、シュガーレスの背後から、そんな言葉が…。

 シュガーレスの動きが、止まった。同時に、なにか、得体の知れない恐怖を背中で感じつつ、まさかと、妙な不安が走る…。


「試作のファンタジスタスーツを着てるのは、夏海エヌアルかしら…」


 スタッ…。

 背後からの足音が、止まった…。

 この声は、なぜか、シュガーレスの耳に聞き覚えのある女の声だ。


「誰だ!?」


 誰かは特定できないが、聞き覚えがあったせいで、シュガーレスは、その声の方向に振り向く。

 すると…。


!?


 背後には、チャイナドレスに、ブーツ、ニーソックスの服装に、龍頭部の形をしたマスクを被った者が、振り返れば迫っている。

 その者は、いつのまにか、目の前に立ち、太ももまであるプロテクターの付いたニーソックスの右足を、大きく振り上げ、シュガーレスのマスクにめがけて、放たれる。

 これは、間違いなく、ハイキック。


「しまった!!」


 急なことで、反応が遅れてしまったシュガーレスは、その迫ってくる右足を防ぐため、左腕を上げて、マスクをガードする。

 相手のハイキックが迫る。

 そして…、


 バゴッ!!メキ!!


「ぐぁあ!!」


 ハイキックは、左腕に命中。腕は妙な音を出し、さらに、シュガーレスの体が右に吹っ飛ぶ。

 そのハイキックの威力は想像以上で、吹っ飛んだシュガーレスの体が壁に激突。右半身が、壁にめり込み、激突した衝撃を表すように、壁には無数のヒビが走り、破片が辺りに散らばる。

 壁から離れ、シュガーレスは、その場に倒れた。破片が、仰向けに倒れるシュガーレスの体に降り掛かる。

 シュガーレスは、脳を揺さ振られ、気を失いそうになるが持ちこたえる。

 そして、左肘の痛みの耐えながら、立ち上がろうした時…。


 ドン!


「ぐっ!」


 龍のマスクをした女性が、すぐシュガーレスの元に寄る。その驚異の破壊力を持つスラリと細長い右足が、シュガーレスの胸板を踏んだ。

 また、砂煙を上げ、シュガーレスの体が地面に降れ伏す。


「あはは!誰が、立っていい、って言った?」


 と、龍のマスクの女性は、立ち上がろうとする動くシュガーレスを、踏み伏せさせた。ブーツの踵部を、シュガーレスの胸板に刺さるように、踏み付けている。

 シュガーレスは、この短いスカート丈のチャイナドレスと、龍の形をしたマスクに、あの破壊力を生んだ足にあるニーソックスとプロテクターから…、


「貴様!ファンタジスタスーツか!?」


 と判断し、倒れている自分を踏み付け、見下している相手のマスクを見ながら、シュガーレスは叫ぶ。

 すると…、


「大正解ー。それも、アンチヒューマンズの下請け組織、『スリーピング』の刺客に渡された高性能型ファンタジスタスーツの『キャンディ・キュティ』よー」


 と、キャンディ・キュティと名乗るファンタジスタスーツを着用した女性が言う。それと、同時に、更にシュガーレスの胸板を踏み付ける。


「ぐあ!」


 シュガーレスは、激痛に耐える。

 さっき、左肘をやられたせいか、まともに反撃するのが、難しく、シュガーレスは…、


(さっきの蹴りで、左腕の間接が…。この状況で、反撃出来るか?)


 と、マスクの奥の表情を曇らせて、シュガーレスは策を考える。

 そして…、ふと浮かんだ疑問を彼女に、ぶつけた。


「なぜ、俺が、ここに居ると解った…」


 と、シュガーレスは、相手に話し掛ける。

 そう言われたキャンディ・キュティの名のファンタジスタスーツの女は、クスッ…、と笑い声を出し…、近くで気絶している奇襲タイプのファンタジスタスーツに指を差し、


「アレ、私たちの部下なんだけど、偵察中、30分置きに、私たちに現状を連絡するように命じていて、連絡が来ない場合は、緊急事態と判断し、私たちが動くことになってるの」

 と、更にシュガーレスの体にブーツの踵を、めり込ませる。


「で、今日は、部下が二人も連絡しないから、まさかと思って、この範囲内の偵察に私が来て見れば、倒れてる部下と、あんたの姿がねぇ…」


 そう相手に言われ、シュガーレスは唇を噛んだ。敵の包囲網が、このように、情報をネットワークさせているのを考えてなかったのと、奇襲タイプ以外のファンタジスタスーツが現れるのを配慮してなかったため、境地に陥った自分の甘さを噛み締めた。


(奇襲タイプをやれば、済むと思っていたが…。まさか、敵が、こんな対策を練ってたなんて…)


 右足を胸板に乗せたまま、彼女は、上半身を倒れているシュガーレスに向ける。そして、その全身の青いチャイナドレスの中に、目立つ白い手袋をした右手を、シュガーレスのマスクに近付ける。

 どうやら、シュガーレスのマスクを剥がすつもりだ。

 シュガーレスは、それに気付き、もがく。


「剥がす気か!マスクを!?」


 と、シュガーレスが叫ぶ。


「きゃはは!正体を確かめる必要があるわ。それに、あんたが、エヌアルだったら、以前のお礼がしたいしねー。あんたの顔、好みだしー」


 と彼女は、組織から渡された写真で見たエヌアルの顔を思い浮べながら、シュガーレスのマスクに手を掛けようと近付ける。

 シュガーレスは、自分のマスクを、彼女の手から防ぐため、自らの右手を顔の前に出す。

 すると、彼女の右手が止まった。


「その手、どけな!」


 と、更に、シュガーレスを踏み付けながら、彼女は言う。

 すると…、


「以前のお礼って、なんのことだ!?」


 と、シュガーレスが右手をマスクの前に出しながら、さっきの言葉の意味を訊ねた。

 この女の声に、聞き覚えがあるのと、『お礼をしたい』と言う相手の言葉から、以前、出会ったことがある相手なのかと、シュガーレスは思った。あるいは、夏海エヌアルのことを言っているのかと…。


「そんなの、マスクを剥がしてから、教えてあげるわよ!」


 そう彼女が言い、右手をマスクに迫らせた瞬間…。

 シュガーレスのマスクの奥瞳が、漆黒の色に染まり、光った。


「甘く見るな!」


 と、シュガーレスが叫ぶ。自分のマスクを防いでいた右手を、彼女の迫ってくる右手を握る。

 そして、思いっきり、彼女の右手を握った。

 以前、一文字事件に現れた中型のファンタジスタスーツに首を握られたときにした握力によるガード崩しだ。

 彼女の右手が、メキメキと鳴る。


「きゃっ!」


 と、シュガーレスから強力な握力で握られた右手の痛みに、彼女は声を漏らす。

 その声に、シュガーレスは…、


「はっ!」


 なぜか、握っていた右手を開き、彼女の手を離してしまった。

 彼女は、手をシュガーレスから遠ざけて、彼を踏んでいた足を退きながら、自分の激痛の走る右手を左手で押さえた。

 この隙を逃さず、シュガーレスは、すぐに、立ち上がる。彼の胸部に、踏まれた跡が残る。


「お前!」


 と、彼女は、体勢を整え、また右足を大きく振り上げる。

 立ち上がったばかりのシュガーレスのマスクに狙いを定め、またハイキックが放たれようとしていた。

 だが…。

 その動きに合わせたように、シュガーレスも、右足を振り上げる。

 彼も、ハイキックをするつもりだ。


「!?」


 彼女は驚いたが、構わずに、そのまま、ハイキックを敢行する。

 シュガーレスも、そのハイキックを撃つ右足を狙って、ハイキックをする。

 そして…。


 ブァァアアアシン!!


 二人の放った右足のハイキックが、互いに激しく激突した…。

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