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14 「Answer」

「派手に、割ったな…」


 部屋の窓が割れているのを、爆裂ロマンティストのスーツを着たまま、自宅のマンションに戻ったアルゼは、顔をしかめた。

 だが、おかげで助かったのだから、良しとすることにしたが、この姿で、誰ともすれ違わず、敵に狙われないように、帰宅するのは難儀だったようで、大きくため息を吐いた。

 さすがに、服を燃やすのは、第四の失態だと、彼女は思った。

 時計を見てみると、ゼファーナと別れてから、かなり時間が流れていて、もう深夜の二時で、辺りは野良犬達の泣き声しか聞こえない。

 アルゼは、自宅のベッドの近くで、ファンタジスタスーツのタキシードを脱ぎ始めた。




 何故、彼女の自宅にあったファンタジスタスーツが、遠く離れた廃墟まで、あの状況下で、届いたのか?あるいは、誰が届けたのか…?

 それは、とある協力者が居たからだ。


 協力者の名前は、『ラッキーラブ』。変わった名前だ。

 だが、もっと変わっているのは、彼は、実は廃墟の近くに居た、あの小さな柴犬。そう、あの犬が、アルゼにファンタジスタスーツを届けたのだ。

 彼は知能指数が、人並み以上に高く、さすがに、人間の言葉は話せないが、人の言語の意味を理解でき、さらには、様々な動物達の泣き声をも理解出来る。

 尚且つ、驚異の体力を持った不思議な子犬だ。

 彼は、街中をうろつきながら、街中にたむろっている野良犬、野良猫、カラス達の泣き声から、街中の状況を掌握し、そして、地獄同盟会に情報を提供している。

 以前、ゼファーナが銀行強盗の居場所を知ったのも、彼が犯人の居る場所から聞こえた野良犬達の泣き声で位置や、犯人の情報を把握し、ゼファーナを犯人の居場所まで案内した(01参照)

 さらに、今回、アルゼがファンタジスタスーツがなかったために、廃墟に追い込まれ境地に落ちた際、廃墟にたむろしていた動物達の泣き声を聞き、アルゼの状況を理解。そして、わざわざ、彼女の二階のマンションの自室に壁をよじ登り、窓を突き破って侵入。ファンタジスタスーツの入ったカバンを口にくわえて、彼女の居る廃墟まで駆け抜けた。

 さらには、親切なことに、口先を器用に使い、カバンの中に、オイルを入れた。

 そして、ピンチの彼女の匂いを嗅ぎ分け、アルゼに、敵が来る前に、ファンタジスタスーツを渡した。

 このように、常識では考えられない子犬のラッキーラブの機転で、彼女は救われたのだ。




 廃墟のホコリにまみれた体を洗い流すため、彼女はシャワーを浴びる。金色の髪の毛のホコリを洗い流そうと、両手でゴシゴシと頭を洗う。

 自分の足裏が汚れているのを見て、彼女は、いくら敵を欺くためとはいえ、自分の服を燃やすんじゃなかったと思う。

 暖かい温水を浴びながら、ふと視線を変えると、シャワー室の洗面所の棚が、ラッキーラブがオイルを出す際に、開けっ放しにしてたようで開いていた。

 すると…。


「ん!?」


 棚から、黒光りしたモゾモゾとした動きをした固まりが出てきた。小刻みに、素早く、かさかさと音を鳴らす。

 それが、なんなのか解った瞬間、彼女の全身から血の気が引いた。


「まさか…、あの動き、あの色、あの形は…」


 彼女は全身を震わせた。

 それは、夏海アルゼが、この世で、もっとも苦手かつ、嫌悪をしている生物…。

 イニシャルが『G』で、驚異的な生命力の生きた化石と呼ばれ、水や油が好きなで、一回、叩いて死んだと思ったら、実は生きてて、いつのまにか、逃げられてしまっている、一人暮しの天敵だ…。

 彼女はガラにもなく、全裸で、その場で叫んだ。

 その叫び声は、マンションの外で眠るラッキーラブの耳に入り込んだ。

 彼は、たぶん、アルゼが『G』に襲われてるんだなと、あくびしながら思った。




 一方、火炎の後が残る廃墟。

 もう野良犬達は、たむろしてなく、辺り一面は、シーンと静まり返る。

 そんな廃墟の内部は、棚などが焼け焦げ、壁や、天井がすすまみれだ。さらに、アルゼの服の燃え跡。

 その近く、ファンタジスタスーツを着衣したままで、燃やされ、軽い火傷を負い、裸の体に黒いすすまみれで、気を失うアンチヒューマンズの男が眠っている。

 どうやら、彼は知っている情報を、ある程度、アルゼに吐いたため、命に別状のないままで、済まされたらしい。

 あの炎は、どうやら、アルゼの意志で消せるらしい。例え、大規模に広がった火炎であっても。


 しばらくして、この現場に二つの影が現れた…。

 廃墟の現場を、手で触れたりして観察しながら、この光景を見つめる男が一人。

 そして、倒れている男の近くで、まだ灰にはなっていない、アルゼの下着の一部を手にとって見つめる女が一人。

 指に付いたすすと、倒れている燃えカスとなったファンタジスタスーツを纏う男を見つめながら、男は…、


「開発コード、04の仕業…」


 と言いながら、男はポケットから、携帯電話を取り出す。

 そして、耳に当て、


「やはり、量産のファンタジスタスーツじゃあ、スタイリーシリーズは倒せないか…」


 と言い、誰かに連絡をした。

 その男の近くで、アルゼの下着の一部を握る女は…、


「あたしの勝ち…」


 と自分の胸に触れながら、焼け焦げた、その下着を手から離した。


 アルゼのファンタジスタスーツの火は、新たなる境地への篝火になったようだ。




 思えば、ゼファーナは、同じ歳ぐらいの他人と一緒に居るのは初めてだった。

 更に言えば、人とこうして、遊んだりするのは初めてだった。

 今、彼は駅裏近くにある、ショッピング街にある、午前五時まで営業のカラオケボックスに、オールナイトで、あの3人組と、カラオケをしている。

 狭い室内で、4人それぞれが椅子に腰を掛けており、その中で、小室は本を見て次の曲を選択し、田中と尾崎は二人で熱唱していた。

 ゼファーナは漠然と、ただ、ジュースを飲んでいる。


(まいったな…)


 と、ゼファーナは、初めての場所の慣れない空気に戸惑う。

 第一、歌なんて、歌って、なにが楽しいんだと思いながら、シュガーレスの入った紙袋を見つめていた。


(なんか、妙な物が入っていたが…)


 と、紙袋から、チラッと見えたスーツ以外の物体を気にしていると…、


「春日氏も歌いなされ!」

「そうだ!そうだ!」


 と、なんの曲なのかは、ゼファーナには解らなかった歌を歌い終えた、中田、尾崎が話し掛けた。

 同じように、小室も、


「そうだ!時間が勿体ないし、一曲も歌ってないじゃないか!」


 と言ってきたので、ゼファーナは苦笑いで…、


「あっ、いや、ちょっと、僕はトイレに…」


 と紙袋を握りながら、話を逸らすためと、外の空気を吸うために、彼は、一時、この場から離れた。ささくさと、早足で出た。

 どうも、他人と居るのは、苦手らしい。

 そんな彼の姿を、3人は茫然と見ていた。



「おっ、いい女!」

「これから、ここで、いいことしない?」


 カラオケボックスの外では、明らかに柄の悪い茶髪で金ネックのスエットの男たち二人が、深夜の道端を歩いていたイマドキの服装で、髪の毛をポニーテールに束ねた女の子、一人に絡んでいた。


「ちょっと、近づかないで!」


 と、強気に男たちを突き放そうとするが、効果があるわけもなく、その態度は返って、より男たちを興奮させた。

 男たちの一人が右手で、彼女の腕を強引に掴み掛かり、


「カワイイー」

「でも、どこまで強気でいられるかなー、ちょっと、その壁の間に…」


 と、言いながら、右手で彼女の体を引っ張ろうとした瞬間。


サクッ!


「ぎゃああああ!!」


 いきなりのことに、男は驚きながら、苦痛の叫びを上げた。

 もう片方の男と、腕を掴まれた女の子も、目を大きく見開いて、びっくりした。

 彼女の細腕を握る男の右手には、黒い柄の付いたレストランの食器ぐらいの小さなナイフが突き刺さっていた。

 誰かが、投げ付けたようだ。

 イテェ!イテェ!と叫びながら、男はナイフが刺さる右手を抱えながら、連れの男と一緒に、その場から離れて、どこかで、治療を受けようと、この場所から駆け出した。

 なにが起きたのか、理解出来ない彼女は、周囲を見渡す。

 すると、近くのカラオケボックスのビルの二階の窓に黒い姿の人の影が…。

 その窓に立つ人影に、彼女は、目を見開いて驚いた。


 カラオケボックスの二階の便器が一つだけの個室トイレの窓。

 そこに立つのは、紙袋の中から修繕されたシュガーレススーツを、トイレで着ていたゼファーナが、スーツ、仮面を着けた姿だった。

 念のためにと、服の下にスーツを着てた途中、トイレの窓から、あの男たちと女の子のやりとりが聞こえてしまったため、急遽、窓から紙袋に入っていたライフジェネレーターから支給の新武器の小型ナイフ、『ワザシ』の一本を投げ付けたのだ。

 この小型ナイフは、足に巻くポーチのような鞘が付いているベルトに4、5本が納まっている使い捨てのナイフ。軽くて、投げ付けやすく、切れ味抜群だ。

 どうやら、前回、コダチが足りなくなった反省点から、セットで使うように渡されたらしい。


「夜中に、街中を歩くなんて…」


 と、窓を閉めて、向こうから姿が見えない位置まで離れて、ゼファーナはマスクを外した。

 たぶん、相手にシュガーレスの姿は見られても問題はないだろうと思いながら、足のベルトを外して、スーツの下から、私服を着ていた。

 すると、トイレのドアから、ノックの音が聞こえたので、ゼファーナは急いで着替えた。


 カラオケボックスの外に居る女の子は、片手に携帯を握り、耳に当てた。

 かなり慌てた様子だった。

 どうやら、ゼファーナのシュガーレスの仮面が目に入ったらしい。

 そして、彼女は携帯を片手に、こう言った。


「もしもし、ケン?わたしよ、ケリー…。信じられないけど、今、噂の試作品に助けられた…」


 彼女の携帯を握る右手は、なぜか、黒く汚れていた。

ラッキーラブ:オスの柴犬。詳細不明だが、高い知能、身体能力で、動物たちの声を解読したり、話せたりするため、地獄同盟会の情報係。 01で登場したが、設定が組み上がってなかったため、13で、やっと光臨…。満を持して…。

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