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13 「I'm feeling you」

 ゼファーナは、いくら知り合いとはいえ、ファミレスで会った瞬間に、小室、中田、尾崎の3人と、カラオケに行くことになったのには困った。

 いきなり、小室が言い出し、中田、尾崎も乗り出したから、行くこととなり、流されるがままに…。

 ゼファーナは、まったく、無趣味な性格のため、音楽を聞いたりしないし、テレビもニュースしか観ないし、アルバイト先の有線放送ですら、耳障りに思っているくらいだ。

 さらに、アルバイト先のダイゴ達のカラオケに誘われないことが、頭にあり、どうも乗り気になれない。


(人付き合いだって、苦手なんだし…)


 しかし、強引な3人に流されるがままに、カラオケボックスへと向かう。

 片手には、シュガーレススーツの入った紙袋が、ぶら下がっている。




 同じ頃、国道添いの暗い小道を歩いていたはずのアルゼは、閉店して、立入禁止になっているスーパーの廃墟に隠れている。辺りには、空き地しかない。

 薄暗い、辺りには棚しかない廃墟の壁に背中を預け、外から見て窓に写らなく、月明かりが入らない位置に、体育座りをしていた。

 周囲では、野良犬や、野良猫達が吠えている。

 そして…、


(僕としたことが…、しくじった…!)


 と壁を殴ったあと、ギリギリと自分の親指を血が滲み出るまで、噛んでいた。

 予想内であったのに、不用心であった自分を忌々しく感じている。



 彼女の身に起きている今、現在の状況…。

 それは、帰宅路に、アンチヒューマンズの手先のファンタジスタスーツ着用者が伏せられていたのだ。

 相手は電柱にしがみ付き、アルゼを発見した際に、背後から迫まったが、訓練からか、背後に違和感を感じた彼女は、とっさ攻撃を避けて、逃げ出し、現在、身を隠している。

 振り向いた際に、チラッと、アルゼの目に入った相手のファンタジスタスーツは、以前、ゼファーナが、桜花の大学で相手にした壁に貼りつく侵入、奇襲用タイプであった。

 もし、違和感を感じずに、逃げ出さなかったら、今の彼女は…。

 そう考えると、アルゼは、自分の犯してしまったミスに嘆く。いくら、今は身を隠せても、相手に、この場所に居るのは読まれている。

 だから、もう自分には逃げ道がない。


(こんな…、こんな、場所で、奴らに…、父の仇に…)



 彼女は命取りとなる、ミスを三つしてしまった。


 一つ目のミス、さっき、ゼファーナ・春日に忠告していた、一文字クラブにファンタジスタスーツを提供していたアンチヒューマンズの下請けの商人の存在。

 前回の一文字クラブを潰した事件により、地獄同盟会の存在が、下請け組織に感付かれた。地獄同盟会は、あの一件で、下請け組織の利益に影響を与えたため、アンチヒューマンズに敵対する存在として認識された。

 さらに、一文字クラブのファンタジスタスーツ着用者の被害状況から攻撃や武器、能力が読まれ、地獄同盟会のメンバーが使用するファンタジスタスーツのタイプの情報が解読された。

 それに加えて、ある事情により、夏海アルゼ、秋羽隼、冬風カタナ、そして、夏海エヌアルの4人と、彼らのファンタジスタスーツは、実は、アンチヒューマンズに存在が知れられ、顔が割れていた。

 以上の情報から、アンチヒューマンズの刺客は、アルゼ達を知り、あとは、見つけ次第に仕掛ければ良いだけで、今のアルゼは、敵の網に引っ掛かってしまっただけのことだ。

 アルゼ達の存在が、何故、アンチヒューマンズに知られているか?

 何故、アルゼ達に、ファンタジスタスーツがあるのか?

 何故、アルゼ達が、アンチヒューマンズに敵対するのか?

 これらについては、まだ語られる時期ではないが、この物語の中心核となる要素であり、ゼファーナ・春日の存在が重要な理由でもある。

 つまり、夏海アルゼのミスの一つは、今まで、動きが見えなかった敵に先手を打たれてしまった事。


 二つ目は、ゼファーナ・春日と離れてしまったこと。

 さっきまで、ファミレスに居たが、余計な3人組により、人と距離を取るアルゼは離れた。今、彼に携帯で連絡するにも、相手に音で、この位置を知らせることになる。

 つまりは、ゼファーナを呼び出すには、難しい状況だ。


 そして、三つ目…。

 今、ゼファーナ・春日が必要であるのは、今の夏海アルゼは、自分のファンタジスタスーツを持ち合わせていなかったのだ。

 この場所から、遠くにある自宅のマンションの2階の個室。そこに置いてあるカバンの中に、ファンタジスタスーツを締まっていた。

 個室は、換気のために、猫一匹入れるくらいの窓しか開けておらず、すべてのドアや、窓は、ロックされている。その鍵は、アルゼの服のポケットにある。

 つまりは、仮に誰かに取りに行かせても入れず、しかも、連絡するにも出来ないため、どうやっても、ファンタジスタスーツを着用が出来ない。


 以上が、夏海アルゼが犯してしまったミスであり、プライドの高い彼女が、なにも出来ず、今は廃墟の影に潜むしか出来ない理由だ。



 アルゼは、自分の手が震えているのを認めたくないせいか、自分の親指から血が溢れ出しても、噛むのを止めなかった。

 しかし、それでも、震えが止まらなかった。

 震える自分の親指を噛みながら、無防備な自分と相手のファンタジスタスーツとの力の差に絶望感を感じている自分に、さらに絶望している。


(敵が、こんなにも早く動いてたのを、予測出来たはずなのに…)


 彼女の目から、涙が溢れ出した。


(あたしは、このまま、奴らに…。お願い、間に合って…。父さん…、助けて…)


 彼女の目から、涙が流れそうになった瞬間…。


スタスタ…。


 なにか小さな足音が、アルゼの耳に入り込む。

 思わず、アルゼは親指を噛むのを止めて、その音がする方に首を向けた。

 そこには…。




「だから、夏海アルゼを発見した…。ちっ、犬がうるせぇな…。現在、廃墟に隠れている…。逃げたことから、たぶん、あのファンタジスタスーツは着用していない…。だから、安心して、生け捕りに出来るな…」


 と、奇襲タイプのファンタジスタスーツの男が、携帯を片手に誰かに連絡を取っていた。

 奇襲タイプは、アルゼが隠れている廃墟の入り口、数メートル前に立っていて、まだ中には入っていない。

 彼の周りで、野良犬、野良猫が吠えている。だから、携帯の泣き声が入り込んだ。

 それにしても、異様なまでに野良犬、野良猫がたむろしている。

 だが、奇襲タイプは気にせずに、アルゼの隠れる廃墟に入り込もうとしていた。

 入り口は、自動ドアだがガラスが割れており、別に壊さなくて、中には入れそうだったため、奇襲タイプは用心せずに、内部に入り込む。

 中は、スーパーだったらしく、棚などが辺り一面にあった。これは、中に隠れた人間を見つけるのに一苦労だ。

 しかし、このタイプは壁や、天井に貼りつくことが出来る特性があるため、奇襲タイプは、壁に手足を付けて、よじ登り、天井に貼り着いた。

 これなら、天井を移動して、上から、すべての棚を見下ろし、隠れているアルゼを見つけることが出来る。

 そう思いながら、奇襲タイプの男は天井を移動していると…。


「?」


 隅っこの壁ぎわに、不思議な物を発見した。

 奇襲タイプは、不思議に思い、そのなにかが落ちている場所に天井を伝って、床に降りた。

 壁ぎわに落ちている物を、奇襲タイプは手に取った。

 触ってみると、ファンタジスタスーツの手袋からは、何も感じられないが、なにやら、小さなものだ。


「なに?」


 男は目を疑う。

 水色の女性物の下に穿く下着だ。

 しかも、妙な液体に、じっとりと濡れている。

 他にも、近くには、なにかの液体に濡れている、青色の3本線のジャージのジャンパーにシャツと、白いズボン。

 これを見て、男はなにかを思い出した。

 これは、さっき、仕掛けたときに夏海アルゼが着ていた衣類だ。

 さらに、ジャンパーなどの近くに靴や、靴下、また、女性物の下着が落ちている。

 何を考えているのか、壁ぎわには、アルゼが着衣していた服が散らばっている。しかも、妙な液体が染み込んでいる…。


「まさか!」


 しばらくして、男はあることに気付いた。

 このアルゼの衣類に染み込んでいる液体が、トロトロと粘り気のある事に。

 奇襲タイプのファンタジスタスーツは、多目的に使用されることが開発コードにあるため、どのような場所にも潜入できるように、臭いやガスが鼻孔に入らないように、マスクが気体から、必要最低限の酸素しか取り出さないようになっておるのと、手袋、ブーツはゴムのように、皮膚に液体などが入り込まないように、外部からの物体をシャットダウンしていた…。

 だから、男は気付かなかった。

 揮発しないが、粘り気がある、この液体の正体を…。

 同時に、男は迂闊だった自分を呪う…。

 夏海アルゼのファンタジスタスーツ、『爆裂ロマンティスト』の能力を知っていたのに…。



「迂闊だったな…」


 男の背後から、声がした…。

 いつのまにか、男の背後には人影が…。

 闇に溶け込むような黒いタキシードの白いマスクの姿が背後に…。

 そう、何故か、さっきまで、持っていなかったはずの、爆裂ロマンティストのタキシード、シルクハット、マスク、手袋、ブーツを着用した夏海アルゼの姿が…。

 男は振り向いたが、遅かった。

 オイルで湿り切ったアルゼの衣類を持つ男の後ろで、アルゼは右手の手袋を外す。

 さっきまで、噛んでいたせいで、血が流れている親指。

 その親指から、流れる血を、振り向き際の男が手に持っている自分の下着に向かって、飛ばした。

 血が、線を描くようにしてオイルに濡れた下着に向かって飛ぶ。

 そして、付着し…、その瞬間!


ボワッ!!!


「ぎゃああああ!!!!」


 なんということだろうか、下着に血が付着した瞬間、奇襲タイプのファンタジスタスーツが、いきなり着火した。

 たちまち、炎はオイルまみれの男は包み込み、辺り一面を業火で焼き尽くした。赤い炎に、ファンタジスタスーツを、皮膚を焼かれる男は夜空を裂くように叫びを上げる。

 その光景を、白いマスク越しから、アルゼは見つめて…、


「ファンタジスタスーツ、爆裂ロマンティストにより、僕の血は超高温に上昇…。マグマ、溶岩より熱く熱を帯びた血は蒸発すらせず、一滴であっても、オイルを発火させる…。だから…」


 と燃えている男を、紅色に染まる瞳で見つめながら、


「地球の始まりは、炎で包まれていた…。だから、貴様は、ロマンチックに燃えろ…」


 と赤い炎で、煙を吐きながら、燃え上がる奇襲タイプのファンタジスタスーツを見つめる。



 男の叫びが聞こえる廃墟の外。内側から、赤い光が見える。

 廃墟の外には、さっきまで、吠えていた野良犬、野良猫達が集まり、その中に、小さな柴犬…。

 そして、中身が入ってない、開かれたままの黒いカバンが…。

爆裂ロマンティスト:正体、夏海アルゼ タイプ、特殊戦闘用タキシード 武器、可燃物 特徴、マスクをキーに、着用した自分の血液、体温を超高温に上昇させる。血は蒸発せずに、溶岩のように熱を持ったままで、着用者の身体は体温以外は異常はなく、スーツも燃えたりはしない。 ちなみに、『爆裂ロマンティスト』という名前は、アルゼが自分で決めた。

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