12 「Spider」
夏海アルゼが、父親を失った日…。
「全部、燃えろ…」
亡き父の写真を涙の溜まった両目で見つめ、実の兄、エヌアルの傍で、そう願ってしまった…。
そして、すべてが始まった…。
兄のエヌアルと、アルゼの復讐劇が…。
アンチヒューマンズと、地獄同盟会の戦いが…。
本日の午後九時のファミレス、『ジョルノ』に、ジャージ姿のアルゼと、バイトが終わったばかりで、疲れ気味で、セーターを着たゼファーナが居た。
相変わらずの無表情で、冷めた口調のアルゼを苦手に思いながら、ゼファーナは彼女から渡された紙袋をチラッと見た。
中には、今は、身につけていないシュガーレススーツとマスクが入っていた。先日の戦闘で、肘部分を破いてしまったので、彼女に修理を頼んでいたのが、本日、やっと戻ったのだ。
正確には、彼女ではなく、アルゼの叔父、夏海幸雄が経営する工業会社、『ライフコーポレーション』の秘密にされている研究所が直した。
アルゼの父親の弟の夏海幸雄は、彼ら、地獄同盟会を裏で支援している。
夏海幸雄は、自らの会社に、アンチヒューマンズの造った兵器、ファンタジスタスーツに対する部を設け、密かに、ファンタジスタスーツの研究を進めていた。そして、アルゼを通して、地獄同盟会の資金面、生活面を支援。
ファンタジスタスーツは、超小型コンピュータが内蔵されており、表に出せば、世界情勢が乱れてしまうかもしれないほどの最新鋭の技術や、プログラムが搭載されており、さらには、特殊な素材を用いられてるため、並の企業では扱えず、夏海幸雄は、自分の会社、ライフコーポレーションに特設の部所を作った。
しかし、ゼファーナのシュガーレススーツにしろ、隼のポニー・ポニック、カタナのサムライ・ロジック、そして、アルゼの爆裂ロマンティストは、実は、アンチヒューマンズが造り上げた物で、超小型コンピュータに組み込まれているプログラムすら、解読出来ず。
そのため、ライフコーポレーションでは、ファンタジスタスーツが破れた際のスーツの素材に合わせて、修理することしか出来ず、自社で、ファンタジスタスーツを造り上げるには、未開な部分が大きくあり、難易だ。仮に造れたとしても、コストの問題で、安価型以下の物しか造れなかった。
それほどまでに、驚異の技術が搭載されているファンタジスタスーツ。
恐ろしいのは、それを造り上げたアンチヒューマンズの巨大さと、得体の知れなさだ。
袋から出さないよう、机の下で、ゼファーナは修理されたシュガーレススーツの肘部分を見た。
完璧に違和感なく、破れた部分が修繕されていた。
「肘部分のコンピュータは?」
と、ゼファーナは顔をアルゼに向けて聞いた。
ファンタジスタスーツは、すべての布繊維にコンピュータが組まれている。
ゼファーナは、破れた部分のコンピュータが破損したため、ライフコーポレーションが、肘部分のコンピュータを組み込めたのかを気にしていた。
アルゼは、いつもの業務的な態度で…、
「シュガーレススーツは、原理が不明だが、破れた肘部分に同一の素材を縫い付けただけで、スーツ内のコンピュータが動いて、修繕した部分に…」
と言ったが、ゼファーナが理解してなさそうな顔をしたので、表情をしかめた。
「つまりは、コンピュータが、スーツ内で増殖して、新しい肘部分に、その増殖させたコンピュータを移動させ、以前のように、肘部分の繊維にも、コンピュータが組み込まれた…。人間の血小板か、カサブタみたいなもんだ…(でも、違うか…)」
と、改めて言い直した。
とりあえずは、理解したような表情をゼファーナはしてみた。
しかし、自分のシュガーレススーツが生き物のように、意志があって、修復したんだと言う部分を理解は出来ていた。
さらに、紙袋を見ると、なにか、スーツの他に、ビニール袋で包まれているのに気付いたが…、
「一文字クラブのファンタジスタスーツの送り元が、解った…」
アルゼのその言葉に、ゼファーナは思わず、びくっ!とした。
「AHとの繋がりのある下請けの商人がやってる裏の組織だ…」
アルゼの話によると、今までのファンタジスタスーツの流失の根源は、その組織からだ。
奴らが売ったファンタジスタスーツは、マフィアなどに出回り、マフィアは収入を得るため、裏の情報網などで、個人に売り捌いた。
しかし、一文字クラブの場合は、直接、その下請けに接触して入手していた。
つまり、手当たり次第に動いていた地獄同盟会が、下請けの存在を知ったことで、少しだけだが、敵であるが、謎の部分の多い、闇に隠れているアンチヒューマンズに近付けるのだ。
アンチヒューマンズが、下請けに安価型を売っている理由は不明ではあるが…。
「その下請けの組織に迫れば…」
ゼファーナは顔を引き締めて、アルゼの目を見た…。
「やっと、奴らを…」
アルゼが、なにかを言おうとした瞬間。
「あれー、春日氏じゃないかー!?」
と、いきなり、脇からゼファーナを呼ぶ声が…。
なにかを、言おうとしたアルゼの唇が止まった。
ゼファーナは、声の方に振り向くと…。 何故か、席の近くに、前回の一文字クラブの事件の件で知り合った藤岡剣友会のあの3人組の小室、中田、尾崎が学生服で立っていた。
ゼファーナの顔が、急に砕けた。
「あっ、えーと、安室さんに、田中さん、柿崎さん!何故、ここに!」
と、見事に全員の名前を間違えながら、ゼファーナは返答した。
すると、長髪の男が笑いながら、
「違う、俺が、小室」
と言い、隣の坊主頭が、
「そして、僕が、中田」
と言い、角刈りの男が、
「俺が、尾崎だ」
と言い、みんなして流れるような自己紹介を改めてした。
ゼファーナは苦笑いをしながら、横目で隣に座る、他人と接するのが嫌いと言っていたアルゼを見た。予想通り、不機嫌な顔をしていた。
ゼファーナは、あの無表情が、さらに、無表情になったような気がして仕方なかった。
「僕達は、さっき、稽古が終わったので、ここで食事をしに。そして、たまたま、春日氏を発見と…」
と、中田が事の説明をした。
そして、小室がアルゼに目を向けて…、
「あれ、その女の子、もしかして…」
と、なにかを言おうとした瞬間、ゼファーナのすべての血の気が引き始めた。
小室に、彼女とかと勘違いされたら、ただでさえ、怖くて、接しにくく、上司にしたくない人ナンバー1で、異性として見れないアルゼが、どんな態度を取るか解らなかったため、声にならない叫びを、心の中で、叫びながら、余計なこと言わないでくれー!!と、ゼファーナは願った。
そして、小室は…、
「妹さん?」
と、指を差していった。
ゼファーナは、ズッコケた。肩透かしを、くらったからだ。
しかし、アルゼの顔が固まった。
地獄同盟会など、当然、言えないし、恋人とも言えるわけがない、ゼファーナは仕方なく…、
「そうです…。妹のアルゼです…」
と、彼らに合わせるように、言った。
気のせいか、アルゼの方から、変なピキン!って音が聞こえた。
ちなみに、彼女は19歳の大学生なのに、今だに、中学生に、よく間違われる。しかも、この間、デリカシーのない秋羽隼から、『中学生体型』と言われたばかりだった。
アルゼより、三歳も年下のゼファーナが、そう言うと…、
「へぇー、やっぱりー」
「いやー、可愛い妹さんだー」
と、3人とも頷いた。
冷や汗ダラダラのゼファーナの耳元に、アルゼは顔を近付けて…、
「あとで、貴様を…」
と、ボソリと3人組に聞こえないように告げた。
事情により、…から先は省略させてもらう…。
ゼファーナの顔が真っ青に染まった。
「大勢と居るのは、嫌いだ…」
と言いながら、アルゼは青い顔のゼファーナと、あの3人組が居る席を後にして、ファミレスを出た。
会計は、ゼファーナに払わせた。
そして、ファミレスを出てすぐの、車が走る国道添いの歩行者用の通路を歩かずに、暗い夜道の狭い小道を歩く。
彼女は、自宅のマンションに帰宅しようとしているが、国道添いを歩けば近い。だが、彼女は、車の走行時の騒音や、排気ガスが嫌いだったから、車や、人の通らない小道を選んだ。
「どうして、この世の中は、僕の嫌いなものばかりなんだ…」
暗い小道を歩きながら、彼女が呟く。




