00 「construction」
…あの人、さっきから、喋ってばかりだ…
「明日、新しく、ここに女の子が入るってよ。21歳の女子大生だって」
客が帰った後のテーブルを拭く女子高生のヤヨイに、ダイゴはいやらしい笑顔で話し掛けていたのを、ゼファーナ・春日は、違う席を拭きながら、横目で見た。
ヤヨイという少女は、彼に話し掛けられ、楽しそうに話す。
すると、他のアルバイトのメンバー達も、彼を中心にして話を始める。
ゼファーナ・春日だけは、黙って作業をする。
このダイゴという大学生の男は、いかにもって感じのチャラチャラした見た目をしていて、女の子の扱いに慣れている。
(女の子って、あんな風に流暢に喋れる男の人が好きなのかな…)
ゼファーナは、このアルバイトのメンバーの中で、彼が一番年上だからと言って、偉そうにしているのが、気に入らなかった。
ダイゴの声にイライラしながら、テーブルを拭いていると、窓から月が見えた。
ゼファーナは、閉店後の掃除作業中に、月を見ると、何故か、救われた気分になる。
午前12時に、閉店後の作業が終わり、ゼファーナは帰宅の準備をしていた。
アルバイトのメンバーは、これから、カラオケに行く話をしていた。
言い出したのは、やはり、ダイゴ。
他のみんなは、誘われていたのに、ゼファーナだけは誘われない。
バイトの制服から、普段着に着替え終わったゼファーナは、そのまま、挨拶をして、レストランから出た。
挨拶は返っては来たが、誘い来なかった。
「カラオケか…」
と、呟く。
誘われなかったことについては、彼は慣れていたから、気にもしなかった。
さっきまで居たバイト先、『レストラン・クリッパー』の看板を後にして、帰宅しようと歩き始めると…。
ブルルルル…。
と、マナーモードにしていた彼の携帯が鳴る。
携帯をポケットから取り出すと、画面には『夏海・アルゼ』と表示されていた。
ピッ!と着信を受けた。
「もしもし…、ゼファーナ・春日だ…」
「『AH』の組織の者が現れた」
アルゼの冷たい声に、ゼファーナは背筋が伸びる。
前置きなしに、話を進めるのが、彼女だ。
「いきなりですね…。今回は…、なんですか…」
「さっき、強盗事件が起きた。たぶん、組織の人間だ。場所は、君が近い。場所は…」
聞き手に休みを与えない言い方をするのが、彼女の話し方だと思いながら、ゼファーナは場所を頭に入れる。
「ん…」
携帯を耳に当てながら、見上げた夜空の月が、赤くなったように、ゼファーナは感じた。
「今から、一時間以内に。質問は…」
と、アルゼが言う。
それに対して、ゼファーナは…。
「ああ…、はい…。あの…、アルゼさん」
「なんだ?」
「アルゼさんも、流暢に喋る男性に魅力を感じますか?」
そう言うゼファーナの頭に、さっきのダイゴの顔を浮かんだ。
プッ…。
電話が切れた。
マズイ質問してしまったかと、ゼファーナは思った。
彼女は、怖い。
業務的すぎるし、なにより、なにを考えているか解らない。
「彼女は、甘くないや…」
そして、再び、夜空を見上げると、赤くなった月が、まるで、自分を見下しているように、ゼファーナは感じた。