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悪魔殺しの少年 ~その者、大精霊の契約者につき~  作者: になり
第二章 走りだした運命の上で
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第七話 決断②

「─────だされ!」


「──きてくだされ!」



「んにゃ……」



「起きてくだされ!!!」



「はっ!」


「……ボスが食堂で待っている。早く準備をしろ」 


 ぼくが起きると、そこには呆れた目で此方を見ているザシュさんがいた。


「………はい……」


 ──それがウラルの村を出てからの初めての目覚めだった。


 起きることのできなかった自分に嫌気がさし、ウラルはがっくりと項垂れる。


「なるべく早くな。私は外で待っている」


 ザシュさんが外に出ていった後、ぼくは急いで着替えて、今は水道で顔を洗っている。

 

 いや、全く信じられない。昨日のことが、全部。

 なにせ、起きたとき一番に感じたことは、もう村ではないのだな……という感慨だった。


「頑張らなきゃな……」 


 誰に言うでもなく、鏡に映った自分を見ながらそう呟き、自分の頬をパンッと叩いてから部屋の外に出る。そこで律儀に立っていたザシュさんに声を掛け、食堂まで先導して貰った。

 

「おお、きたかウラル。おはようだな」


「おはようございます、ガリゴルさん。昨日はどうもありがとうございます」


「だからそれはいいと言ってるであろう。さぁ、座れ。ここの飯は中々美味いぞ」


 挨拶を済ませてから、ウラルはガリゴルさんの正面の席に腰を下ろした。

 まわりを見回してみるが食堂はもぬけのからだった。どうやら既に人払いを済ませているようだ。この場にいるのは四人、ウラル、ガリゴル、ザシュ、そしてウラルの知らない若い男である。

 年は同じくらいだろうか。彼はガリゴルさんの後ろに立っており、その高い身長で此方を見下ろしていた。綺麗なサラサラとした黒髪を少し長めに揃えており、少し三角形に尖ったその双眸はまるで何かを刺すように鋭かった。


「ガリゴルさん、その方は?」


「ああ、紹介が遅れたな。此奴はアルベド。愚息だ。ほら、アルベド!挨拶をせんか!」


「………よろしく……」


「此方こそ、よろしくお願いします」


 少し驚いた。まさかガリゴルさんに息子がいるなんて!

 暗い感じなのかな?ガリゴルさんとは正反対だな。

 

 そんなことを思っていると、ガリゴルさんは満足げに頷いてから


「まぁ、詳しい話は飯を食べながらにしようか」


 と言っとところで、一人一人にプレートが配られた。

 ザシュさんはぼくの右隣に、アルベドさんはガリゴルさんの左隣に座っている。

 三人とも、プレートが置かれたと同時にがっつき始めた。これでは話どころではないので、仕方なくウラルもおそるおそるスープを口に入れる。


「これは……美味しいですね……!」

 

 その勢いでパンも食べてみたがこれも中々である。

 バクバクといってしまえる。


「村ではこんなもの食べたことありません……!!」


 その言葉を逃さずガリゴルは自慢気に笑った。


「かっかっか、そうだろうな。何せここの料理人は元王城料理人なのだからな!奴の飯は絶品でな、少し前に仲間に引き入れたんじゃよ」


「王城料理人……」


「ボス、そろそろ……」


「そうじゃな。さて、そろそろ本題に入るとしようか「…」


 そう言った彼等の皿の上にはもう何もなかった。

 まだぼくのは半分以上残っているのに!


「ウラルよ、お主は魔王を倒すために北へ向かう、そして、そのついでに我が友への手紙を届けてもらう。ここまではいいな」


「はい……」


「そこでだ。護衛という名目で愚息をお主に付けようと思っている」


「へ?それは一体…?」


「うむ。まず一つ目の理由だが、北へ行けば行くほど、魔物や魔獣はより強く、より凶暴化していく。そうなっていくとお主一人では辛いだろうからな。」


 初耳だ。まぁこれは仕方ない。ウラルはずっと南方の小さな村に籠もっていたのだ。ここで知れて良かったと思うべきだろう。


「そして二つ目。昨日、儂と愚息で話し合った結果、お主に力を貸した存在というのは精霊だろういうことになった。此奴はこう見えてもウチのナンバースリーでな、精霊についてのスペシャリストなのだよ」


「精霊ですか……」


「うむ、あともう一つ提案があるのだが、三つ目の理由はそれと関係している」


「それは?」


「お主の旅の工程は我々月の夜がバックアップしてやろうと思ってな。具体的には……そうじゃな。ブリッシュランド各地での拠点の利用及び滞在の許可。『月の夜』の旗の使用許可。とそんなものだな」


「……ガリゴルさんは……」


「ん?」


「ガリゴルさんは……どうして、そこまでしてくれるのでしょうか?」

 

 ウラルにはそれがわからなかった。両親が友人だとはいえ、ここまでしてくれる義理は無いはずなのでである。


「……放っておけるわけが……あるまい……」


 しかし、小さく呟いた彼の声はウラルに届くことはなかった。


「?……今なんと?」


「……いや、何でも無い、まぁ敢えて理由を付けるなら、お前の親への義理だな」


「………」


 みなが沈黙する。それを破ったのはアルベドだった。


「……親父殿は…お前を気に入っているのだ」


「へ?」


「……ま。そういうことじゃ。で、どうする?」


 少しの逡巡の後、彼は決断した。即断即決。それが彼のモットーである。


「……ご厚意……感謝します」


「そうか……」


「では、アルベドさん、いつ出発できますか?」


「……俺はいつでも構わない」


「わかりました。では、すぐに」


「…いいだろう」





 ──そうして二人はアジトを出発した。


 アジトから二人を見送っていたガリゴル・ハギスは彼等のこれからの困難を思い、その目を細めるのだった。

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