第六話 盗賊のアジトで
ガリゴルさんの後ろについてしばらく歩いた先は彼の部屋であった。中々質素だ。扉をあけると正面ド真ん中に向こうを向いて横に長いソファーがあり、その奥に、大きな机とかっこいい椅子が一つずつ。その後ろの壁には戦斧が二つ、交差するように飾られている。
実にガリゴルさんらしい部屋だ。いや、会ったばかりなんだけどね。らしいもなにもないけどね。
そういえば、ここまで歩いてきたことでわかったのだがどうやらこのアジトは地下に掘った穴のようなものらしい。ここまで来るのに通った土で囲まれた廊下は以外にも暖かく感じたので、「どうして暖かいのです?」とガリゴルさんに聞いてみたところ、火山の妖精のご加護が与えられているらしい。妖精ってすごいんだね。
ちなみにぼくはガリゴルさんのことを既に信用している。豪快で悪い人ではないというのも勿論あるけど、やはり両親の知り合いというのはデカい。ぼくは父と母が大好きだからね。まぁ、両親の知り合いだといっても全員が信用できる訳じゃないから、付き合う人は自分で見極めるけど。
ガリゴルさんは豪快にも扉を蹴り開けて部屋に入ると、そのお洒落な椅子にドカッと座ってから、ぼくにソファーを勧めた。
ぼくがソファーに座るのを確認すると、彼は横を向いて一服しながら話し始めた。
「さて、早速話をしようか」
「あの……まだ剣と荷物を返して貰ってません」
「おっと……そういえば忘れていたな、すまない。剣はここにある。荷物は集積所にあるから後で適当に持っていってくれ。場所は案内させる。あ、少しなら欲しいものも持っていっていいぞ」
その提案に苦笑しながら返された剣を腰に差す。
うん。やっぱりいいな、この剣。父の香りがする。
「ところでウラルよ……」
「はい?」
「お主、悪魔を倒したとか言っていたな?」
「『蟹爪』のことですね。確かに倒しましたよ?ただ、最後に逃げられちゃいましたけど……」
「ふむ……、魔道十二門の一柱か……。だが、それを倒せるなら何故ザシュに負けたのだ?ザシュもこの組織だとナンバー12くらいには入ると思うが、魔道十二門に勝てるほどではないと思うぞ?」
「それがですね……えっとですね……」
「どうした?なにかあるのか?」
その言葉に、ぼくは話をする決意を固めた。
「………ぼくはあの時、ぼくの中、それも意識の奥深くにいる何かから、力を貸りました。」
「…………」
ガリゴルの顔がわずかに、こわばった。
「目の前で、友達が殺されて。そのとき、頭に声が響いたんです。『力が欲しいか?』って。」
「…………」
ガリゴルは、ウラルを見やりながら黙って顎髭を撫でていた。ウラルは知らないが、これは彼が考え事をする時の癖である。
「それで、よくわからないのですけど、自己への強化魔法と、相手への弱体化魔法が使えたんです。奴にはそれを使って何とか勝てたってところですね。
ただ……」
「ただ?」
「村を出てから、その何かと、うーん、なんていったらいいのかな…交信?が出来ないんです。此方からは意識して意識の奥に潜ってるんですけどね……」
「ふむ……そういうことか……」
「………」
「……よし、わかった。今日はもう遅い。お前もこんな所に捕まって疲れているであろう?今日はここに泊まっていけ。明日、もう一度改めて話をしよう、儂はそれまでに考えを纏めておく」
「いいのですか?」
「かっかっか、当たり前よ。何たってお主はライルとウルの息子なんだからな!遠慮はいらんぞ!」
「ありがとうございます、ガリゴルさん!」
「うむ、礼はいらぬ。さてザシュよ、ウラルを空き部屋まで案内してやってくれ」
「はっ!」
「よし、頼んだぞ。ついでに彼の護衛も任せる」
「はっ!」
「ではなウラル。この者を付けたからには安心して寝れるぞ。また、明日な。よく眠れよ!」
「はい!ガリゴルさん!おやすみなさい!」
「よし、着いてこい、ウラル。」
「はい!」
そうして彼らが部屋から出て行った静な部屋で、ガリゴルはあからさまにため息を吐いた。
「皮肉なもんだな……」
そう一言呟き、彼は黙考するのだった。
「着いたぞウラル、ここが今日のお前の寝床だ」
「ありがとうございました、ザシュさん。それでは」
「うむ。私は向かいの部屋にいるからな、何かあったら呼べ」
ウラルがその言葉に頷くと彼は満足したのか彼の部屋に入っていった。ウラルも自分の部屋に入る。
まぁ、あれだな、普通の部屋だ。普通の広さの部屋に普通のベッドと普通の机があって、それらを黄色いランプが上から照らしていた。
別にやることもなく疲れていた彼は即座にベッドに潜り込んでランプを消した。
それにしても、いい人に出会えたな。ガリゴルさんね。一時はどうなることかとひやひやしたけれど、捕まったのが彼の盗賊団でよかった。いやほんと。
そんなことを思いながら、彼は旅に出てから初めての夜、『月の夜』のアジトにて、眠りの海に落ちるのであった。