第十五話 謁見
「ふぅん……そんなことがあったんだ……」
パンを噛みちぎりながらウラルが言った。
すると、彼の目がかっと見開く。
「……ふわふわとした暖かいパン…甘いジャムとも合ってて…まるで口の中で果物と小麦がダンスパーティーを始めたような……」
そこまで言うと、黙って、ムシャムシャと凄い勢いで食べ始めた。
そんなウラルの食事が終わるまで苦笑して待ち続けるアルベド。
ウラルはそんなふうにして食事を終えると、頭をテーブルに打ちつけて、言った。
「アルベド、ありがとう。助けてくれて」
その突然の感謝の言葉にアルベドは驚いて言う。
「あ、ああ……。だけどさ…俺も…ごめん。騎士の礼儀?みたいなものを破らせてしまって…」
そう、アルベドには後ろめたいことがあったのだ。
あの時、豪山羊との戦いで、ウラルを助ける為とは言え横やりを入れてしまっているのだ。一対一。そのルールを破らせてしまっていたのだ。
しかし、ウラルは俯きながら誠実に謝るアルベドに苦笑しながら言った。
「…まぁ、騎士の礼儀を破ってしまったことは、ぼく自身を助けるためだったんだから、あんまり気にしてない」
アルベドは少しだけ顔を上げる。
「本当か?」
「うん。ぼくは騎士になりたいわけじゃないし、そんな礼儀なんかよりも、生きて魔王を倒すことのほうが大事だからね」
「……ありがとう、ウラル」
「こちらこそありがとう、アルベド」
そして二人は照れくさいように笑い合う。
すると、ここまでずっと黙って話を聞いていたラスタが口を開いた。
「…空気壊すようで申し訳ないんだけど、ウラル君達って魔王を倒しに行くの…?」
すると、その言葉に二人が頷く。
「そうだね」
「俺はウラルについて行く。途中で帝国によるがな」
「ということは、このまま北上するのね?」
再度、二人が頷く。
「ふぅん……少し考えさせて……」
ラスタはそう言って、腕を組みながらウンウン唸り始めた。
二人は聞きたいことも聞けなくなってしまったので、仕方なくおかわりを食べ始めるのだった。
「さて…そろそろ時間だな……」
部屋でアルベドが呟く。
すると、それからすぐ騎士団の人達がやってきた。
三人で部屋から出て案内の人についていく。
ウラルとアルベドは周りの装飾品を眺めながらだっが、ラスタだけはまだウンウンと唸りながら歩いていた。
十五分程度歩くと、いつの間にか、廊下は赤い絨毯の敷かれた大きな一本道になっていた。左右の壁には絵画や芸術品等が飾られている。
「この道を真っ直ぐ進めば謁見の間でございます。では、私はこれで」
案内の人はそう言うと、ささっとその場から立ち去っていった。
三人が無言で歩いて行くと、やがて大きな扉が現れた。
すると、扉の前に立っていた二人の武装した騎士がその扉を開けてくれた。
「デモンスレイヤー様御一行のご到着です!!!」
扉を開けてくれた騎士がそう言うと、部屋の中でラッパが大きな音で鳴った。
国王らしき人物が椅子に座っている場所は上座となっており、そこには王族らしき人達がそれぞれの椅子に座っていた。
そこから赤い絨毯が二段程下りてここまで延びてきている。
右側には剣を帯刀したり、ムキムキだったりと見るからに武官らしき人々、左側には眼鏡をかけたりとした文官らしき人々がいて、いずれもピンと背筋を張って立っていた。
やがてラッパの音が止み、国王らしき男が口を開いた。
「デモンスレイヤー達よ、前へ参れ」
三人は「はっ!」とだけ答えると上座より1~2メートルくらい離れた場所まで歩き、頭を下げ、膝をついた。
「顔を上げよ」
国王が言った。
それに従い、三人がゆっくりと顔を上げる。
国王は見たところ50~60くらいの年齢で、口元に白がかかった髭をたずさえていた。頭には王冠を被っており、疲れたような顔をしている。
「我が、ラフタニア王国国王、チャド・ラフタヌーンである。さて、早速本題に入らせて貰おう──そなたらが王都に現れた悪魔を倒してくれたと聞いているが、それはまことか?」
その言葉に、アルベドがきっちり返答する。
「はい、陛下。しかし、我々というか、こちらのウラル・カジャスが豪山羊を倒してくれました」
「馬鹿な…」「あんな子供が…」「豪山羊ってあの…?」
その言葉に周りがざわめきだす。
国王も小さな声で「カジャスだと…」と呟いていた。
そのざわめきを止めたのは、国王自身だった。
「皆の衆、我の御前であるぞ。控えよ」
その一言で、謁見の間はしーんとなった。
「さて、ウラル・カジャスよ。それはまことか?」
「はっ、陛下。私は彼を倒し、この長剣を貰い受けました」
ウラルは国王の目をしっかりと見据えて、堂々とした声でそう言った。
国王はその目に少し迷ってから、こう言った。
「……ふむ、嘘ではないようだな。……ところでお主……ライルに似ておるな」
国王に見せた長剣を納刀していたウラルの動きが少しだけこわばる。
「……ライルは我が父故、似ているのも当然かと」
それを聞いた国王は、目を閉じた。
「……やはり、か。」
「…………」
その後、国王は少し黙考してから顔を上げると、こう言った。
「……お主の言葉に嘘はないようだな。お主に褒美として、悪魔殺しの称号と、ある程度の金貨をやろう。誰か!勲章を!」
その言葉にウラルは下を向いて答える。
そして、数人の騎士が謁見の間の奥に入っていった。
「ありがたく頂きます、陛下。」
「いや、いいのだ。我にはこれしかできぬ故、許してくれ」
「勿体ないお言葉。ありがとうございます」
と、そこで奥から騎士達が戻ってきて、持ってきた物を国王に渡していた。
「よし、これが悪魔殺しの勲章だ。これがあれば冒険者証Bランクと同じだけの待遇を受けることができる。それと、これが金貨じゃ。
お主の今回の働き、民に変わって感謝の言葉を述べよう」
国王がそう言うと、二人の騎士がウラルに金貨がジャラジャラ入った袋と銀色の刺繍の入ったメダルを渡してきた。
「ありがとうございます、陛下。それでは我々はこれで」
「うむ、今後の活躍にも期待している」
国王がその言葉を言うと、三人は立ちその場から歩いて出て行った。
外では、太陽が彼らの真上でさんさんと輝いていた。