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悪魔殺しの少年 ~その者、大精霊の契約者につき~  作者: になり
第二章 走りだした運命の上で
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第十三話 名は

「ウラル!?」


 慌てて、急に倒れたウラルの近くによる。

 隣にいた筈のカプルは、いつの間にかサラサラとした灰になってしまっていた。


「ちっ…出血が多いな……」


 アルベドが腿の傷を確かめながら言う。すると、先程まで隠れていた銀髪の少女が恐る恐る出てきた。


「その子、大丈夫ですか……?」


「多少し魔力は使うが──問題ない」


 そしてアルベドは、目を閉じ右手を祈るように立てて唱えた。

 

「──悠久の時を生きる水の精シズよ、我の名においてその姿を顕著せよ。──精霊召喚サモンズスピリット


 すると、アルベドの目の前の空間が光輝いた。

 やがてその光も落ち着くと、そこには30cmくらいの青髪の女の子が浮かんでいた。

 水色と白の水玉模様のワンピースを着ていて、手のひらサイズの小さな傘を持っていた。

 

『どうしたの、アルベド君?さっきぶりね』


「ああ、シズ。さっきの今で済まないんだけど、こいつ──ウラルの傷を治したい。力を貸してくれ」


 シズは、そのおっとりしたような顔をほころばせながら言った。


『アルベド君に友達ができるなんてね──お姉さん嬉しいわ』


「……別に友達じゃない、それにシズはお姉さんなんて年齢じゃないだろ。それよりさっさと治させてくれ」


 アルベドはそっぽを向きながら言ったが、その頬が少しだけ赤く染まっているのをシズは見逃さなかった。

 この四日間と先程の戦闘で、少しずつだが情がうつっていたのだ。


『レディーに年齢の話は禁句よ──さて、やりましょうか』


 シズは意地悪く笑いながらも、アルベドの頭の上に座ると、アルベドと共に詠唱を始めた。


「『聖なる癒しの恵よ、ここに集い、彼に癒しを与えたまえ。聖位治癒ハイヒール』」


 二人が詠唱を終えると、ウラルの傷がみるみるうちに治っていった。

 それを銀髪の少女は目を丸くして見ていた。


「──これ、私にもできますかね?」


「さあな、水の適性と時間と根気があればできるようになるんじゃないか?

 俺は一人じゃできないが」


 アルベドは一仕事終えて安心し、ウラルの左側にあぐらをかいて座った。


「……頑張ってみます」


 少女は決心したのか右手をギュッと握りながら言うと、アルベドの隣、つまりウラルの右側に腰を下ろした。


 すると、シズがアルベドの頭から降りてきて言った。


『さて、そろそろお暇するわね。このままだとアルベド君の魔力がなくなっちゃうし』


「すいませんね、魔力が少なくて──今日はありがとう。助かった」


 そう言って頭を下げたアルベドを見て苦笑しながら、シズは消えていった。


 そして、三人だけが残される。


 ひとときの沈黙の後、アルベドが言った。


「──そろそろ、王宮騎士団が来るだろう。話はそれからだ」


「──はい。………あの──」


「あ、名前ぐらいは話しておこうか。俺はアルベド。こいつはウラル。お前は?」


「私は──」


 少女はそこで一旦言葉を切り、伏し目がちに言った。


「──私は、ラスタ・サティ……です……」


 そんな彼女に思うところがなかったわけではなかったが、きっと事情があるのだろうと考え、アルベドは言葉を飲み込んだ。


「ラスタさん、ね。……さて、待つとしようか」




 それからまもなくして、完全武装した王宮騎士団がやってきた。


 彼らは俺達を見て困惑している様子だった。


 まぁ悪魔を倒しに来てみたら15、6の子供が三人でくつろいでいたのだから困惑するのも仕方ないのだが。


 困惑する彼らに連れがカプルを倒したと言ってみると、騎士長だという者が出てきた。


 そこで、その人にひと通り話をすると、しばらくの間大量の灰と俺達三人を見比べていたのだが、少ししてから連れて行くことに決めたようで、騎士長らの馬車に同乗して、王城まで連れて行って貰った。

 

 騎士長は話のわかりそうな人物だったので、馬車の中で、ウラルが目を覚ますまでは謁見を待って欲しいと頼んでみた。

 すると、二つ返事でオッケーされた。


 その後、王城につくと、中に入るのが初めてだったアルベドはその内装の煌びやかさに少し呆れた。

 金や宝石、絵画や骨董品が所狭しと並んでいるのだ。本職が盗賊の彼は盗ったら幾らになるかと妄想せずにはいられなかった。


 その点、ラスタはこのような場に慣れているようで、平然としていた。


 客室のようなところに案内され、夕食も頂いたのだが、その間もずっとウラルはぐっすりだった。


 明かりを消してベッドに潜ると、一日の疲れがどっと出たのか、アルベドはすぐに眠りにつくことができた。


 ──そんなふうにして、彼らの王都二日目の夜が明けた。

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