第九話 冒険者ギルド
「わーぉ…………」
思わず感嘆の声をあげる。
ハブリッシュ正門前-その門と街の周りを囲む壁の全高は軽く三十メートルを越え、そこにきた者全てを威圧する-ここに彼等二人は立っていた。
「ここが王都ハブリッシュだ。俺も初めてきた時はひどく驚いた。さて、行くぞ」
そう言って正門に向かって真っ直ぐ歩き出したアルベドを慌ててウラルが追いかける。
正門前に着くと、関所を通ろうとして並んでいる人々の中でアルベドがキョロキョロしだす。
「お、いたいた」
そして見つけた人に向かってずんずんと歩いて行ったところでその人がアルベドの耳元で囁くと、二人は周りの木々の中に入っていった。
黙って並んで待ってろと言われていたウラルが言われたとおりおとなしく待っていると暫くして笑顔を浮かべたアルベドが戻ってきた。
「一体何してたんだ?」
「……ウチは、強盗、暗殺、交易、そして身分証明書の売り買いなんかもやっていてね、ま、そういうことさ」
そう言って持っている二枚のカードの内一方を差し出してくる。
「………まあ、俺も正義感がそこまで強いわけじゃないしな……。ありがたく受け取っておくよ」
「それはよかった。もし、受け取らなかったら殺さないといけなくなるところだった」
「…………」
「ふふふ、冗談だよ」
「…………笑えねぇ……」
そんなふうにして手に入れた身分証明書を使って関所を楽々と通過したウラルは、ただただ、驚いた。
「…すげぇ……!」
関所から真っ直ぐ伸びる石畳の大きな通りは人々で溢れており、左右の端には屋台のような店がズラリ。そこは、和気あいあいとした熱気に包まれていた。
そして、さらにその奥に高く大きいお城が鎮座しているのが見え、その周りにはお城より少し小さい建物、教会がズラリ。
かつての村暮らしのウラルには想像もつかないような光景だった。
「さて、おれらが行くのは冒険者ギルド。このハブリッシュの中央通りを真っ直ぐ進んだ突き当たりだ。そこで冒険者登録を済ませてからいくつか依頼をこなして金を貯める。滞在期間は七日間の予定、質問はある?」
「宿をとるのは何故後回しなんだ?」
「冒険者登録すれば冒険者特権で宿賃が安くなるからだな。よし、行くぞ」
そう言ってガンガン進んでいくアルベドに、ウラルは慌ててついていくだけだった。
三十分ぐらい歩いたところで、アルベドが急に後ろを振り向いて、言った。
「着いたぞ、ここが冒険者ギルドだ」
ウラルが顔を上げると、そこには四、五階立ての大きな建物が鎮座していた。
その石造りの建物は正方形のような形をしていてその真ん中の両開きの扉はとても大きく、その存在を示している。
更にその上の横長の看板には『冒険者ギルド!』と愉快な字で書かれていた。
「………でけぇ……」
「よし、さっさと済ませるぞ」
ウラルがギルドの扉を開けると、そのムワっとした熱気が流れてきた。
中は一階から三階までがぶち抜かれて吹き抜けになっており、正面奥には受付カウンター、その右には依頼掲示板、左には連絡掲示板。
入り口からそこまでの場所には、たくさんのテーブル席が点在しており、昼間から酔っ払った男達が何か言い争っていた。入り口から見て右側のカウンターで料理や酒等を売っているようだ。
そんな中、アルベドはずんずんと受付カウンターへ向かっていった。無論、ウラルは黙ってついていくだけである。
「すいません、冒険者登録ってできますかね?」
そう言うと、受付のお姉さんが顔を上げた。
綺麗だ。
「冒険者登録ですか?わかりました。二人分で大丈夫ですか?」
「はい」
「それでは、これに必要事項の記入をお願いします」
「はい」
そうやって二人が記入を済ませると、受付のお姉さんがそれをチェックしてから、言った。
「これで登録は終わりです。それでは、基本事項、注意事項を話させていただきます。
まず、基本事項を五つ。
一つ目、あなた方は冒険者ギルドの冒険者として登録されました。これにより、幾つかの特権を得ることができます。
二つ目、依頼を受けるときは受付カウンターからです。
三つ目、依頼は成功の是非に関わらず報告をお願いします。
四つ目、これが一番大事です。冒険者にはA~Dのランクがあって、これはギルド側が危険度で振り分けた依頼のA~Dのランクに相当しています。冒険者ランクがDランクの時はDランクの依頼。CランクだとC、Dランクの依頼。BランクだとB、Cランクの依頼。AランクだとA、Bランクの依頼というようになっています。冒険者ランクを上げる為には、そのランクの依頼をDなら15回、Cなら10、Bなら5回こなしてください。勿論、条件を達成してもランクを上げないことは可能です。また、危険度が高い依頼は勿論報酬が高い傾向にあります。ランクを上げるとランクが二つ下の依頼を受けれなくなりますので、上げるかどうかは自分の実力を鑑みて、よく考えてください。
五つ目、パーティーは、二人~七人で組むことが可能です。ランクが一つ違いまでの人としか組めないので注意してください。また、パーティーの中に自分よりランクが上の人が三人以上いるならば、自分よりも上のランクに挑戦可能です。が、その場合はランク上げの課題を達成したことにはならないのでご容赦を。ちなみにパーティーを組む方法は、パーティーを組む人と共に受付カウンターまで来て下さればオッケーです。報酬の取り分は自分達で相談してください」
「ほうほう…」
「次に、注意事項を四つ」
「一つ目、冒険者証は最後に依頼をこなしてから一ヶ月まで有効です。効果を失った後も、もう一度依頼をこなしてくれればまた効果は復活しますので、把握をお願いします。ですが、発行してから一週間も特別に有効です。
二つ目、基本事項を破った場合。それも冒険者証は無効となります。
三つ目、殺人、窃盗等、重犯罪行為を行った場合。これも冒険者証は無効となります。
四つ目、依頼で命を失ってもギルドは責任を取れませんのでご容赦を。
そんなところですね。
おや、ちょうど冒険者証も出来上がりましたね。これを、どうぞ」
「ありがとうこざいます」
受け取った銀色のカードには、名前、生年月日、そしてDランクという大きな白い文字が彫られていた。
「このカードは魔法で作られていますので、ランクが上がった際等には、自動で更新されます、再発行は不可能ですので、なくさないようにお願いします」
「はい」
「これで、冒険者登録は終了となります。それでは」
「ありがとうございました。よしウラル、行こう」
そう言って、冒険者ギルドの階段を上がっていったアルベドにウラルはついていった。
ぶっちゃけさっきの事項は殆ど聞いてなかった。長すぎだろ。
まぁ受付のお姉さんに見とれていた部分もあるけどさ……
「なあ、アルベド、冒険者登録したことあるのか?」
「まぁね。DCBの三つのランクのは揃えてある」
「すげぇや……」
「よし、着いたぞ」
階段を三階分上がったその部屋は、受付のある、ホテルロビーといったような場所だった。
「すいません、二人部屋空いてますか?」
「はい、冒険者証の提示をお願いします」
「これで」
「はい、ではこれが部屋鍵になります。部屋番号は505です」
「ありがとうございます」
二人は更に二階分階段を昇る。
「505…505と…お、ここか」
部屋の中は二つのベッドに。間に一つの机、その上に花の入った器が置いてある、という簡素なものだった。
疲れていたウラルは、ベッドに倒れ込んだ。
「悪い、ぼくはもう寝るわ、今日は色々ありがと」
「ん、おやすみ」
「おやすみ」
二人は電気を消して、部屋は暗闇に包まれた。