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人外町迷い荘

作者: 椰ヶ汰
掲載日:2015/07/23

さてさて不思議な物語の始まり始まり

ある森の奥深く、人が全く寄り付かない。


いや、普通の人なら決して辿り着けない、そんな場所に少年は立っていた。




少年の名は相楽さがら 士郎しろう


士郎は困惑していた、目の前にある異質な物にも困惑しているが、困惑という感情自体にも困惑していた。


『これが困るという事か……』

少年は、こくと一人頷いた。


士郎は今まで困惑という感情を抱かずに生きてきた、それどころか今まで喜びも悲しみも怒りも抱いたことがないのであった。


士郎は生まれてこの方感情というものを自分で感じたことがないのだ、全てを受け入れ、これはこういう物なのだ、これが正しいからいいのだ、考える必要性などないと全てを諦めてきた、それは元来の性格であり、生まれつきのものであった。




士郎は今年で14になった世間的には多感な年頃だが、士郎は多感どころか一つの感情も持っていなかった。


士郎は今異質な物の前に立ち困惑という感情を手に入れた。


それは森にあるには余りにも異質なもの。


それはアパートの様に見えた、二階建ての木造、焦げ茶色をした壁に古ぼけた赤い屋根に掲げられた古ぼけた看板には迷いまよいそうと書いてあった。

一階に横並びで三部屋、扉の上にはプレートが付いていて「101」「102」「103」と書いてあった、向かって左側に二階へ上るための鉄製の階段があった。


二階の構造も概ね一階と同じになっていて違うのは扉のプレートに書いてある「201」「202」「203」という文字ぐらいだった。「迷い荘?」士郎は考えた。


『こんな建物の話聞いたことがあったっけ?こんな変な建物なら一度ぐらいは聞きそうだけど…』


そうして迷い荘を見上げていると後ろから足音が聞こえた、士郎が振り返るとそこには背の高い人が立っていた。




しかし人と呼んでいいのかは怪しかった、筋肉質の体、身長は2mを超えていそうなほど大きく、何より短く切り込まれた前髪から覗く角があった。


角は片側に縦に並んで上側に大きい角とその下に小さい角があった、その角が生えた人は開襟シャツのボタンを胸あたりまで開いて着ていて下はジーンズというラフな格好をしていた。角の生えた人は不思議そうに士郎を見ていたが突然ハッとした顔をすると。


「人間か?」


と訝しげに聞いた。士郎はキョロキョロと辺りを見回した、自分以外に人間と呼べそうなものはなかった。


「はい、人間です」


士郎は角の生えた人を真っ直ぐ見て答えた、すると角の生えた人は少し驚いたような顔をしたがすぐ笑顔になって言った。


「人間なのに、俺を見て逃げないなんてなかなか肝が座ってるな!」


士郎は首を傾げた。


「逃げる?なぜ逃げる必要があるのでしょう?」


「ん?なぜって、俺が鬼だからだよ」


角の生えた人は何でもないように答えた。


「鬼……とは、あの桃太郎なんかに出てくるのですよね、なるほど実際に目にしたのは初めてでしたので」


鬼だと名乗る男は眉を潜めた。


「疑わないのか?」


「何をですか?」


「俺が鬼だってことを」


「さぁ?本人がそう言うのだからそうなんでしょう?」


鬼は目を点にして士郎を見つめた。


「なるほどね……だからここに来たのか……」


鬼はうんうんと頷いて。


「お前、何かしら足りないものがあるんだろ?」


と、士郎に問いかけた。


「……恐らく……僕には感情というものが足り無いらしいです、母がそう言ってました」


士郎は何でも無いというように答えた。


「やっぱり……しかも全部無いタイプは……ふんふん……」


鬼はぶつくさと独り言を呟いていたがやがて士郎を真っ直ぐ見つめ笑いかけた。


「いいか、お前は理由があってここに来た」


士郎は考えたが理由など見当たらなかったがきっとそうなのだろうと思った。


「そうなんですか、知りませんでした」


鬼はまた少し眉をひそめた。


「……まぁいいや、此処に居れば治ることだしな……」


そう小さく呟くと士郎に迷い荘の説明をし始めた。




「あのな、ここは迷い荘っていって、何かが足りない人間が何故か迷い込んじまう場所なんだ、そして人間は此処で足りない物を手に入れるといつの間にか元いた場所にもどっちまうのさ。ここにいる間、あっちの世界でお前はいないが、それを誰も不思議だとは思わない、何故だかは知らないけどな」


士郎は黙って聞いていた。


「つまり、何かを手に入れるまではここから帰れないんだ、だから俺達は人間が帰るのをお手伝いするんだ、お前の場合は感情を手に入れるまでは帰れない、わかったか?」


士郎は黙って頷いた。


「……ホントに変わった野郎だな、疑問とかは持たないのかねえ……ああ、疑問ってのも感情の一つか」


鬼はため息をついた。


「たぶん先ほど困惑という感情は手に入れた気がします」


士郎は迷い荘を眺めながら言った。


「ん!?そうか!!まぁそりぁこんなんが急にあったらビビるよな!!」


鬼はケラケラと笑った。


「さぁ!おいで!迷い荘を案内しよう!と、その前に自己紹介だな!俺は鬼島(おにじま) 飛雄(とびお)、実は迷い荘の大家をやってるんだ、よろしくな!」


鬼島はニコニコと笑ってみせた。


「鬼島さん、宜しくお願いいたします、僕は相楽 士郎と言います」


士郎はペコリとお辞儀をした。


「士郎だな!よろしく!鬼島さんなんてかたっ苦しいからよ!下の名前でよんでくれ」




鬼島は士郎の手を引いて歩き出した。


「今迷い荘には俺を含めて5人が暮らしてる、俺の部屋は101だ、ドア上のプレートに書いてあっから、何か困ったことがあれば気軽に来てくれ!」


士郎は鬼島に手をひかれながらアパートを見回した。


「あそこですね、覚えました」


鬼島は頷いてから102号室の前に移動した。




「ここには、猫傀 タマ(ねこがい タマ)ってやつが住んでてなイラつく野郎だけど困った時は助けてくれる奴だ」


その時目の前の扉が鈍い音を立てて開いた。


「だぁれがイラつく野郎だって?」


中から出てきたのは真っ黒な毛に覆われた二足歩行の猫だった、猫と言ってもサイズは人間サイズで士郎よりも背が高かった、猫は開襟シャツに黒いロングコートをまといニヤニヤと口が避けるのではないかと思うぐらい口のはしを鋭利に釣り上げて笑っていた。


「なんだ、いたのかタマ」


タマと呼ばれたその人は屈んで士郎をじぃっと見つめた。


「人間かい、久しぶりに見たな…やぁ、私は猫傀 タマだ、よろしく」


士郎は猫傀が差し出した前足と言っていいのか手と言っていいのかわからない部分をしげしげと見つめながら。


「相楽 士郎です、宜しくお願いいたします」


と会釈した。


「ふん、最近の人間は握手も知らないのか、低能だな」


とぶっきらぼうに言うと猫傀は手を下ろした。


「こら!タマ!」


鬼島はむんずと猫傀の首根っこを掴んで持ち上げた。


「士郎に失礼だろ!てかお前の場合は手かどうかわからねえんだから握手と呼べるかも怪しいじゃねえか!」


「なんだと!ええい!離せ!この歩く筋肉!脳髄まで筋肉の貴様にとやかく言われるのはごめんだ!!この馬鹿力!加減知らず!独活の大木!」


よくまぁ人を罵る言葉が次から次へと出るものだ。


「うるせえ!発情期か!」


そう言うと鬼島はポイと猫傀を放り投げた。


「ふんっ」


猫傀は猫の名にふさわしく身を翻して綺麗に着地をした。


「……ごめんなさい、握手というものにあまり慣れていないもので」


士郎は申し訳なさそうに呟いた。


「……人間のくせに社交性の一つもないのか、まぁどうでもいい、もう私の邪魔をしないでくれよ」


そう言うと猫傀はさっさと102の中へ姿を消してしまった。


「勝手な奴だな……あんな奴だけど根はいい奴なんだ嫌わないでやってくれな?」


士郎は首を傾げた、嫌うという感情がわからないので自分が今ので嫌ったかどうかもわからなかった。


「たぶん嫌いではないと思います」


士郎は曖昧な表情のまま答えた。


「ん、ならいいんだけどな、まぁいいや次行こう」


そいう言うと鬼島は103号室の前まで歩いた。




「おーい、久楽ーいるかー」


ノックをしたが返事はなかった。鬼島は構わずノックを続けた。


「いないみたいだな、また後日にするか」


そう言うと鬼島は階段へ向かって歩き出した、その時前方から人が歩いてくる人物がいた。


「おっ!久楽!いたいた!」


士郎には鬼島で隠れて久楽は見えなかった。


「あっれえ!大さん!どしたの?俺の部屋になんか用?」


「おぉ、新人が来てな!紹介しようと思ったんだよ」


士郎は鬼島の背後からひょこっと顔を出した、そこには明るい金髪の長髪を後ろで一本に縛っている狐の耳が生えた見た目年齢25ぐらいの男が立っていた、背中には狐の尾が生えていた、顔は普通に人間だ、黒地に白の縦ストライプが入っている浴衣を軽めに着流して、腕には買物袋と思われるものを抱えていた。


「あ、君か!我は狐田(きつねだ) 久楽(くだら)だよ!よろしくね!」


狐田はニコニコと笑って手を振った。


「相楽 士郎です、宜しくお願いいたします」


狐田はじーっと士郎を見つめた。


「士郎くん!!ダメダメ!!そんな顔してちゃあ!ほらほら!笑って笑って!」


狐田はカツカツと近づいてきて士郎の頬をつねって笑顔を作った。


「ふぁい、ふいまへん」


士郎は抓まれながらも返事をした。


「あっはっは!!これが本当の狐に抓まれるってやつだねえ!!」


狐田はケラケラと笑った。


「我は人とお話するのが大好きだからね!是非暇なときは我とお話してくれよ!あっはっは!良かったら今部屋に上がってくれても構わないよ?」


狐田は103号室の扉を開いて手招いた。


「そうしてえが、今案内中でな!またの機会にしてくれや」


鬼島が言うと狐田はしょんぼりと尾を垂らした。


「そうかい……まぁ仕方が無いね!また暇なときにでもおいでよ!!じゃあね!」


狐田はそう言うと部屋にそそくさと入ってしまった。


「相変わらず寂しがりやな奴だなーまぁ暇な時は構ってやってくれよな」


士郎はこくっと頷いた。


鬼島は笑いながら鉄製の階段を上がって行く。




「おーい、瞳ーいるかー」


201号室の前に着くと扉をノックした。


少しの静寂のあとカチャと扉が少しだけ開いた。


「は、はい……あ、飛雄さん……ど、どうもこんにちは……」


そう言うと部屋の主は扉を全て開いた。


そこには一つ目の人がたっていた、士郎より少し高い背丈、猫背のため実際より少し低く見える、痩せ気味の体に上下スウェットという格好だった、髪はセミロングの暗い茶髪、顔は一つ目とその少し下に口が付いているだけだった、鼻らしきものは見当たらない。


「よう!瞳、今日は新人を連れてきたぜ!」


鬼島はそう言うと士郎を前へ押し出した。


「あ、そうでしたか……あ、えと、どうも……」


「はい、どうも、相楽 士郎と申します」


「あ、つ、常見(つねみ) (ひとみ)と言います……」


常見は恥ずかしそうに俯いてもじもじと手を動かしている。


「お前部屋で何してたんだ?……もしかしてまた……」


鬼島は眉をひそめた。


「あっ、違っ、違います……」


常見は大きな一つ目で地面を見つめたまま首を振った。

お久しぶりでございます、猫田椰ヶ汰です。

今回まだ途中です日々更新してきたいです。


2015/07/23 猫田 椰ヶ汰

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