【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし(終)】関越リベンジ復路 その2
いい日旅立ち。夜中の釣りバカ3人衆に水原さんを足した我々は一足先に新幹線で帰る良崎を見送り、みなで砂に枯れ木で「さよなら」と書き、父の背中で聴いた歌、『いい日旅立ち』を道連れに瀬波温泉を後にした。私は帰りは小林氏のおんぼろトラック通称ガンセキオープンの助手席だ。ハイジさんと水原さんが二人っきりで『アンティーク水原私物8号機』に乗っている。不安というか、不満というか、なんていうかウワァアアア!!! って感じだ。もどかしいというかむず痒いというか歯がゆいというか。
「そういえば、ハイジさんと水原さんって僕たちが入ってくるまで二人っきりだったんですよね」
「そうだね。あのサークルはずっと2人だったよ。むしろ、なんで今年5人集めろって言われたのか分からないくらいだ」
小林氏のガンセキオープンには初めて乗ったが、おんぼろの外見に反し中は快適、しかもハイテクでカーナビも『アンティーク水原私物5号機』及び同8号機よりも上等とも言えるだろう。しかも「アンティーク水原私物8号機」というボタンがあり、それを押すと2つのアングルから『アンティーク水原私物8号機』の内部が中継される始末だ。これで我々の旅路をいちいち監視しては面白がっていたか。まぁ、ハイジさんは知っているだろうしハイジさんもVTRの編集作業は買って出るくらいだろう。
ちなみに、ハイジさんと水原さんは我々がかつて見たことがないほど楽しそうに談笑し、今は水原さんが運転しているハイジさんのためにお茶のペットボトルの蓋を開けてあげている。事故でお前だけ死ねハイジ。
「ハイジさんは…………よく考えると高性能すぎますよね。超能力を抜きにしても身長高いし、イケメンだし、実家金持ちだしコネもあるし行動力もカリスマ性もあるし、粋だ。本気になったら出来ないことなんかないんじゃないだろうか」
「超能力がある時点で、無理に自分と比べてはならないよ。むしろ、超能力があるから僕たちは陣内さんと同じ土俵に立たなくて済むと考えなければ」
「なんにせよ、モテる要素が強すぎますよ」
「そうだね。敵わんなぁ」
と小林氏も苦笑した。
「そしてちょっと趣味が悪いね」
と言ってディスプレイをカーナビに切り替えた。
ハイジさんの本命はどっちだ。良崎か、それとも水原さんか。どっちにも脈があるように思えてしまう。というか、私の気持ちはどうなんだ。私の今ふつふつと湧き上がるこの感情はハイジさんへの嫉妬なのか? なのだとしたら私の本命は水原さんなのか。そもそも良崎はどういう存在なんだ? 比肩する者など存在しないほどの美貌と、化け物じみた攻撃力と凶暴性が第一印象だった。それがなにかを妨げているのか?
つうかそもそも本命とかなんとかって話はいったいどこから出てきたんだ。恋?
「ヒゲメガネー、次で休憩ー」
どこからともなくハイジさんの声が聞こえてきた。テレパシーか?
ハイジさんの指示に従って次のサービスエリアで車から降りると、水原さんがかつてないほどハイジさんに近づき、手をがっちりつないで店の前で立っていた。もう私のメンタルはボロボロだ。それ以上に、ハイジさんと水原さん、二人ともさっきまでと服装が違うことが気になった。二人とも、ぴっちりとした上下の服に加え、アフリカの民族の装飾品のようなもので全身を飾りつけているのだ。ハイジさんにいたっては、帽子の下の艶やかだった直毛がチリチリのアフロヘヤーになっている。
ペアルックなんかで仲良しっぷりを見せつけやがってナメてんのかこの野郎ぶっ殺すぞ、と思ったが私はちょっと今朝から荒れすぎだ。自制しよう。
「ハイジさん、水原さん、なんですかその服装」
「あぁ、ちょっと久々に音楽の話をしてたら偶然、最近同じような音楽聴いてて話はずんじゃってさぁ。じゃあちょっくら二人でユニットでも組むかってことになってな」
「ソウルとブルースをやるつもりなのよ。ユニット名はアースウインドアンドファイヤーウィズウォーターリーフ」
二人で話すとそんなに盛り上がるのか。なんだ、俺は楔かなんかか。
「アースウインドアンドファイヤーなら僕も好きですよ。セプテンバーも宇宙のファンタジーもiPodに入ってますし」
「ド定番すぎて話になんねぇな」
「ダメよ一葉さん、そういうこと言っちゃ」
一葉さん!
かくしてハイジさんと水原さんはソウル&ブルースのユニット、アースウインドアンドファイヤーウィズウォーターリーフ、略してEW&FwWLを組むことになり、私が青春とは友情だけでは成り立たないのではないかと一つの疑問で心を澱ませている間にも車は進み、関越リベンジはいよいよ終わりを迎えようとしている。
「ハイジさん?」
サービスエリアでお手洗いを済ませ、ガンセキオープンに戻ろうとしていたら、ベンチにハイジさんがいた。それでも一瞬見逃しそうになってしまったのはハイジさんがさっきまでのファンキーなファッションからプロレス観戦の時のような普通の洋服を着ていたからだ。かろうじて金田一帽子で気付くことが出来たが、普通にしているハイジさんはハイジさんに非ず。普通かどうかというのは周囲に人がいて比較してこそであり、一人ぼっちのハイジさんは暫定的に普通、ということになる。
「どうした」
「ハイジさんこそどうしました」
「こっぱずかしい気分の時は、一人でいるのに限る」
「…………なにかこっぱずかしいことでもあったんですか?」
見たことがない大人っぽさを醸し出しているハイジさんに怪訝な目を向ける。
「ガキ共と旅に出て杯を交わしたりすることにこっぱずかしさの一つや二つを覚えるようになんねぇと大人にはなれねぇンだよ」
いつになくネガティブで低いテンションの口調で言葉を吐く。
「なら…………僕は大人になりたくはありません」
「大人にはなりたくなくても大人になる日が来るんだ」
「でも、くだらないことを恥ずかしいって思うようになるくらいなら」
「あぁ、だからお前らは好きにしてろよ。水原もお前も良崎もまだまだガキだ。だからこそ、楽しみがある。だから俺にはお前が若いのに急ぐ理由がわからんね」
「急ぐ?」
「恋愛も人生も青春も、手に入らないくらいで誰かを恨んだりしなきゃいけないくらいならなんで欲しがるのかねぇ。用意はいる。出遅れる者もいる。だからといって時間をかけずにしようとするのは間違いだ」
「なんのことを言ってるんですか?」
「長い人生のことだよ。何かをなすには準備が必要だ。その準備をするのに要する時間は人それぞれ違う。それが個人のペースってもんだ。それを誰かと比較して無理に変えようとしてはいけない。大体、過去を振り返れば無駄だったと思える時間なんか少しもないんだよ。時間は全て何かの伏線で、準備期間なんだよ。今、こうしている間にも何かの準備が整ってる。未熟者よ、マイペースになれ。花火を楽しみにして夜を待っていてもな、だからといっていつもより早く日が暮れるわけじゃない。うちわで煽いで涼を得たり、昼寝をして待つも良し」
ハイジさんはフリスクを一粒噛んだ。
「あおぐよし、夜に咲く花待つ午睡良し」
「あおぐよし、夜に咲く花待つ午睡良し」
思わず復唱してしまうようなさらさらとした川のように言葉を紡ぐ。
「急ぐ気持ちもわかるけど、急いだところですぐ夜になるわけじゃない。どうしても焦る時は、無駄なことでもしようぜ」
去り際に私の肩にポンと手を置く。
「おい陣内、てめぇ何見透かしてカリスマ性のあるいい先輩気取ってんだこの野郎」
「あぁん?」
「そんなこと言われたって、気休めにしかなりませんからね!」




