【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第19話 関越リベンジ 最終夜
こんばんは、Walk Now For So Meetです。お相手は皆様の鼓膜の恋人、ドクターKこと梶井基九次郎が務めさせていただきます。
さぁ、このまで16回にわたってお送りしてきました『関越リベンジ』、真夏の関越自動車道に乗って東京から新潟を目指す旅は、やっとゴール地点の新潟県瀬波温泉に到着しました! 罵倒やケンカや襲撃がありました。さて、彼らの旅の終着はどのような形になったのでしょうか。それでは、ゆっくりとご覧ください。
「ご機嫌いかがでしょうか。陣内一葉です。今、私がどこにいるのかといいますと、新潟県村上市の瀬波温泉でございます。『関越リベンジ』、完了!」
やったぁ! と叫びながら良崎がなぎ倒すようなタックルをハイジさんにぶちかまし、そのまま首に腕を巻き付けた。勢い余って首にぶら下がるような形になってしまっている。目には達成感からかうっすら涙が浮かんでいるようだ。
「やったよハイジさん! すごいよハイジさん!」
頬にキスでもしそうな勢いだ。以前にも考えたことがあったが、ハイジさんと良崎は決して仲が悪いわけではない。むしろ相性は良好とさえ言えるだろう。全身全霊で罵詈雑言をぶつけ合える仲だからこそ、全身全霊で喜びや楽しみも分かち合うことが出来る。
「よぉーしよし、お前も頑張ったぞリーベルト。辛かったなぁ」
とハイジさんも良崎の頭を撫でている。
「こばやっちゃん、記念撮影」
海を臨むホテルをバックに、まったく貢献していない私も達成感を申し訳なさで押し殺して浮かれすぎないように、ぎこちなくだが笑みを浮かべ、愛すべき先輩たちとカメラの前に立つ。
押し殺さねばならないほどの達成感なんて、私の人生で初めての経験だ。そして、自分が誰かのために貢献できなかったという反省も。残念ながら新潟ではサトウキビを見かけることはなかったが、広大な大地に揺れる大海のような稲をサトウキビの代わりにして、サトウキビの精霊ネルソンに感謝したい。この人生で誇れるような経験と、それをともにした仲間たちに出会えたことを。
「ねぇハイジさん。重要なことなんですが、今日はもう豪華ディナーがあるって言ってたじゃないですか。部屋はあるんですか?」
あ、オチだ。オチの気配がする! 怖い!
「ちゃんと予約してあるぞ。今だからぶっちゃけると、昨日のうちにたどり着けないってことはもう織り込み済みだったんだよ。むしろ昨日到着しちまったらどうしようって思ってたよ。4部屋! 確保してあるぞ」
「キャー、ハイジさん最高! 流石サークルの王!」
まだオチない! ちょっと不安だぞ。このままだと有終の美になってしまう! 流石のハイジさんなら我々を地獄に突き落とすなにかを用意しているはずだぞ!
「そうだそうだ、セイセイ。盛り上げろぃ! さぁ、ホテルにぃ、突入!」
勇ましい足取りでホテルの敷居を跨ぎ、たまにある真面目なハイジさんでチェックインを済ませ、部屋のキーを受け取る。
「えー、部屋の割り振りだけど、俺と曾根崎が同室、水原はこれ、こばやっちゃんはこれ」
とキーを配るが、良崎まで配っていないのにハイジさんの手の中にはもうキーが一本もない。おや?
「わたしの分がないじゃないですか」
良崎から歓喜の色が消えていく。
「お前はね」
「アンナ?」
不意に聞こえた声の方へ顔を向けると、浴衣を着たとんでもない美人の外国人の女性がにこやかな表情を浮かべていた。
「ママ?」
良崎=リーベルト・ダレカ!
「なんでいるの!?」
良崎はただでさえ大きい目をさらに大きく丸くし、驚いた声でリーベルトママに駆け寄る。
「あなたの先輩がね、商店街のくじ引きで温泉旅行のペアチケットが取れたから行かないかって譲ってくれたのよ。でもただじゃ悪いわって言ったらいつかおいしいお肉を食べさせてくれればいいって言うから」
小林氏が満面の笑みを浮かべ、鞄から水色を基調とした綺麗な装丁のアルバムを取り出し、リーベルトママに手渡す。
「娘さんは少し元気すぎますけど、とても正直で、困難を乗り越える仲間もいます。心配されていた娘さんの大学生活は、全く心配ありませんよ。今回の旅の記録が証拠です」
リーベルトママがアルバムを開くと、中表紙に『8月の試み 東京→新潟246km お盆ラッシュの旅関越リベンジ』とあり、良崎の川越での笑顔の記念写真。
いつ仕込んだのかはわからないが、粋な計らいじゃあないか。粋すぎる計らいじゃあないか! まぁ、パッとしねぇ普段着で出かけたはずの娘が真夏にゴスロリ着てたら一概に無事とは言えないけどな。
「ありがとう。…………あなたが今回の旅を企画してくれた先輩さん?」
「んあ、俺?」
照れ隠しかハイジさんはソファにどっかりと腰かけて、ホチキスで留めてあるホテル備えつきの新聞を広げてのんきな表情をしている。
「電話改めてお礼を言うわ。アンナとわたしのためにありがとう。電話じゃわからなかったけど、あなたとってもハンサムだったのね」
「言われ慣れててもう嬉しくもなんともねぇや」
とまたも照れ隠し。
「と、まぁリーベルトの部屋は残念ながら取ることはできなかったけど、偶然ママが同じホテルに泊まってるんなら娘は同じ部屋に泊まればいいんじゃねーの? 『関越リベンジ』は終了したからもう一緒に行動することもねぇし、そういえばお前に渡した帰りの切符、二枚だったし。いててて。娘さんはとんでもねぇことをしでかしてくれたぜ。椅子に12時間も縛り付けられたとあっちゃ、この質実剛健不撓不屈のハイジ様もさすがに腰がいてぇ」
と腰に手を当てて苦しげな表情を浮かべるが、その表情の前に一瞬口元が得意げに綻んでいたのを私は見逃していないぞ。わかってるぞ、ハイジさん。さっき口を滑らせて部屋を4つ取ったと言っていたじゃないか。商店街のくじ引きなんて嘘だってこともわかってるぞ。だからこそ、私はお前が羨ましいんだ。粋な計らいが出来る行動力も、なにげな優しさも。ついでにオーシャンビューのホテルの部屋4つも取れる経済力。
良崎はそのハイジさんに近寄り、頬にすっと口づけをした。
「陣内が、バカだぁ!」
「おぅ、そういやてめぇお袋と喧嘩中だったなバカ野郎。せいぜいホテルで刃傷沙汰を起こすなよ、バカ野郎」
ハイジさんと挨拶のように罵詈雑言をぶつけ合った良崎は小林氏に簡単な一礼をして、リーベルトママに寄り添い、「またね!」と真っ赤な顔を一瞬だけこちらを向け二人でどこかへ行ってしまった。
ハイジさんは頬に黒い口紅をぐいっと掌底でぬぐい、「お前ら、先に荷物置いてこいよ」といつもと変わらぬ口調で言った。
ゆ、有終の美じゃないか! 過酷な試練を乗り越え、感動的な親子の再開と仲直りを演出し、ほっぺにチューまでもらいやがってこの野郎。完璧な有終の美だぞ! 死ね!
小林氏もあのアルバムを制作していたあたり知っていただろうが、私と水原さんはまだびっくりしていて棒立ちだぞ! 水原さんなんかほっぺにチューのあたりでもう放心状態だぞ。
「なにぼさっとしてるんだお前ら。明日もあるんだからさっさと今日の疲れを早めにとっておけよ」
「明日?」
新幹線のチケットは2枚しかなかった。しかも2枚とも良崎が持っていてしまった。今更返せというのは水差し野郎にもほどがある。我々は車で東京まで帰らねばならなかったのだ、そういえば。『アンティーク水原私物8号機』を返すためにも。しかも、良崎がいないから運転手が一人減った。
『関越リベンジ』復路!
オチ!
さぁ、いかがだったでしょうか17回に及んだ『関越リベンジ』! 壊して修復壊して修復を繰り返して、強くなる絆もあるんですねぇ。そしてこれまで垣間見えていながらも誰も何もしないでいたからこそ保たれていた『演劇サークル』の恋の均衡は、リーベルトさんのほっぺにチューで崩れてしまうのでしょうか! さて、いよいよ次回からは後始末、『関越リベンジ復路』がいよいよスタートです。お相手は、ドクターKこと梶井基九次郎でした。次回もお楽しみにぃ!




