【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第17話 関越リベンジ その15
やぁ、ケータイもしくはディスプレイ越しのみなさんお待ちかね、『Walk Now For So Meet』のお時間だよ。お相手はドクターKこと梶井基九次郎だ。
5月に敗北を喫した関越自動車道にリベンジする『関越リベンジ』のために行楽シーズン真っ只中の真夏の関越自動車道に着の身着のまま挑んだ『演劇サークル』一行は、案の定渋滞に捕まるけど「関越自動車道の観光名所をPRしながら」というテーマに沿って川越にて一休み。その際に家族で食べる予定だった高級霜降りしゃぶしゃぶ肉750グラムを腐らせそうになったリーベルトさんが、バーベキューOKの公園にてフライパンで肉を焼いてお見舞いする川越バーベキューが勃発。見事、リーベルトさんの陣内くんへのリベンジは成功したね。再び関越道に乗ると今度は先ほどまでの停滞っぷりが嘘のように車が流れ、陣内くんが距離を稼ぐと信じ切ったリーベルトさんと曾根崎君は後部座席でうとうと。群馬県の赤城クローネンベルクでお目覚めだ。陣内くんの「なんでも好きなものを買ってやる」という気前の良さにリーベルトさんと水原さんはぐいぐい食いつきビールを要求。陣内くん、リーベルトさん、水原さんによるビール争奪ガチャガチャカジノが開催され、天性のギャンブラー水原さんが見事勝利。しかし、ここで陣内君の口から衝撃的な事実が明かされる。日も暮れようというのに、実はまだ半分くらいしか進んでいないと。ここで一泊して明日勝負を決めようと提案する陣内くんにリーベルトさんは猛反発。無理矢理高速道路に乗って徹夜で瀬波温泉を目指す覚悟の車中から、今回の『Walk Now For So Meet』は始まるのです。
「帰してくれんかぁ。帰してくれんかぁ」
額をハンドルに打ち付けながら良崎が嘆く。ハイジさん、というか我々と一泊するくらいなら徹夜で目的地を目指す意を表明した良崎はハイジさんの一泊案を強引に棄却して自らハンドルを握っているが、再び始まった悪夢の渋滞っぷりに早くも音をあげている。
「渋滞、寄り道、渋滞、寄り道!」
「あぁん? だから言ってるだろうが。今からでも遅くねぇから高速道路を、降りろっつてんだ、この、バカ!」
ちなみに車内は大幅席替えで、運転席には良崎、助手席には私。ハイジさんと水原さんの首脳陣が後部に陣取り、今現在出来る限りでの情報能力をフル稼働し、近辺にある宿泊施設に虱潰しに連絡を取っているが、なかなか私たちの条件に合う部屋が見つからないのだ。
私とハイジさんと水原さんと良崎の4人。私とハイジさんの二人部屋と水原さんと良崎の二人部屋、という配置がベストだろう。最悪の場合、妥協に妥協を重ねれば大きめの4人部屋でもよいかもしれない。今夜はハイジさんもお疲れだろうし、これ以上良崎に罪を重ねることは良心が憚れるだろう。しかし、どちらの場合でも問題になるのがもう一人、第三の男の存在である。我々の背後には、ずぅっとなんの目的かガンセキオープンに乗った小林氏がついているのである。ただあちこちでカメラを構えてパシャパシャやっているだけの小林氏だが、無碍にすることはできない。見殺しにして車中泊をさせては虫の居所が悪くなりそうだ。つまり、我々は5人、泊まることを想定しなければならいのである。そして、我々が今いるところは渋川伊香保。そう、草津よいとこ一度はおいででおなじみの草津温泉である。ここに観光をしに訪れる人がいるのだから、行楽シーズンに無鉄砲のまま飛び出した大学生5人を受け入れる余裕がないのは当然である。明らかに山場で迎えているぞ、『関越リベンジ』。
「だだこねてばっかりでねぇでたまには言うことを聞け、このバカが! お前は今日一日で何回わがままを言ったんだ? 言ってみろ!」
後部シートからハイジさんが苛立った声を張り上げる。
「そういうセリフはわがままに言われるがまま付き合った人間が言うものですよ! ハイジさんは今日何回人に叱責されたか覚えていますか? うぅ、もう車が動かなーい!」
苛立ちと焦燥と疲労で良崎はすでにハイジさんによるバカ連撃に腹を立てるどころではない。単純にテンションのタガが外れて正気を失いかけているのだ。
「最終手段に出るから、高速を降りろ!」
「降りればいいんですか、降りれば今日の宿が確保できるんですか、安全はどうなんですか、清潔なんですか! いい宿泊めろバカ野郎!」
「あぁ、もしもし、東京の陣内一葉です。急だけど、今日5人泊まれる? うん、5人。あぁ、そう。わかった、じゃあ、野郎は床でいいや。今ね、渋川伊香保。あーいいよいいよ飯は。買ってくから。はい、じゃあ本当に申しあけありません。失礼します」
もはや良崎は聞く耳ナシと判断し、ハイジさんはどこかに電話をかけ、軽妙と平常心を装った声で会話し、電話を切った。
「いいか、リーベルト。よく聞いてくれ。ハンドルを持ってるのは、お前だ。運転してるのはお前だから、お前がやれよ。まず、高速道路を降りろ」
「嫌ですッ!」
「降りたら、同じ関越自動車道の、今度は下りに乗るんだ。下りは空いてる。逆走しろ」
「逆走!?」
「逆走はさすがに嫌ですよハイジさん! 僕も嫌ですよ。曲がりなりにもここまで来たじゃないですか」
私の声も無視してハイジさんは続ける。
「少し逆走して、前橋ICで降りろ。そっから交代したほうがいいかもしれないな。で、前橋にある、ひふみん、覚えてるだろ。柳一二三。成金女社長だよ、いつもTシャツジーンズで、弟子がいるひふみん。電話したら泊めてくれるって言ってたから」
思い出す。あの人は我々が関越自動車に苦汁をなめさせられ、瞬間移動でズルした時に到着した前橋の大きな家の主だ。おもしろサイト制作を生業にし、何故か巨万の富を得て千鶴と蛍という二人の弟子を従えていた。しかし、彼女自身も20代。私の中ではハイジさんに次ぐ謎人物ではあるのだが、ほんの数十分の短い間だけでも彼女が信頼に足る人物だと思えてしまう何かがあった。ハイジさんが、あの柳女史の前ではその奇想天外さも傍若無人さも影を潜め、どこか控えめでさえあったことも、私が今猛烈に感動し、安心している要因の一つであることは間違いない。
「ほら、リーベルト。ちょっと車動いたな。ICが見えるな? あそこを、降りよう」
「降り…………降り、ます!」
ハイジさんのゆったりと言い聞かせる口調に答えるように、良崎も頭悪そうにそれに応えてハンドルを切る。まるで現代によみがえった原始人、それと心通わせようとする博士みたいだ。
「そうだ。それでいいんだ」
渋滞を抜け、曲がりくねったランプの上を『アンティーク水原私物8号機』がゆっくりと進む。
「そう、よくできた。俺がやっぱりあってたな。ここまで無駄な時間を結構使ったなぁ」
「無駄な時間…………」
「そう。川越でバーベキューしたり、真剣に進めばもしかしたらもう新潟についてたかもしれない。話し合って常にベストな判断をすれば、物事は円滑に進むんだな、リーベルト。まったく、もうドラえもんが始まるような時間じゃないのか? でも、お前は悪くないぞ」
「わたしは悪くない…………」
「そう。お前が馬鹿なのはしょうがないことだから悪くない。馬鹿を憎んで人を憎まず。お前は悪くない。だから言ってみろ。ハイジさんがあってましたハイジさんが正しいです、もしくは、良崎=リーベルト・アンナが馬鹿でした、悪いのは馬鹿だからわたしも馬鹿の被害者の一人だから悪くないです。ほら、言ってごらん」
「ハイジさんが…………。…………陣内が、バカだ! このバカ野郎」
【久々の自己批判】
『Walk Now For So Meet』というのはこの作品の初代タイトル。
『Walk Now For So Meet』→『Walk Now For So Meet (うぉくのふぉそみつ)』→『(うぉくのふぉそみつ)』(終了)
↓
『帰ってきたうぉくのふぉそみつ』&『うぉくのふぉそみつリターンズ』
なぜうぉくのふぉそみつなのかという話をすると、特に旅をするから、とかそういう理由ではなく、僕の大学は偏差値も知名度も低いのに歴史だけやたらあり、未だに1年生は全学部強制で創設者の人生の歩みの授業を受ける。で、その授業は授業の感想を手書きで書いて提出することで出席と認められるのだ。その授業の第二回目の冒頭。前回の感想の優秀作品3作の一つの選ばれてしまい、僕のクソヘタクソな字がスクリーンで大勢の前に映されてしまったのだ。恥ずかしい。これは恥ずかしい。そういうことで字の練習をすることにして、何かを写本することにした。それで選んだのが、『奥の細道』だったのだ。
だから僕がこの作品で伝えたいこと……それは「字が汚くないと恥ずかしくない」ということです。




