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うぉくのふぉそみつ リターンズ  作者: ムッシュ志乃
8月編
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【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第16話 関越リベンジ その14

「あぁああ! 酒が飲みてぇえなあ! 運転したくねぇなぁコンチキショウ!」


 ハイジさんは悲嘆にくれた声で地面に拳を叩きつけているが、良崎は思ったよりも悔しさを感じていないようにも見える。良崎の場合、ハイジさんに酒を飲ませたくない気持ちの方が強かったのかもしれない。無免許で乗せてもらうだけの身としては、暴挙に出る可能性のあるハイジさんや良崎よりも真面目でしかも初心者ではない水原さんの運転が一番安心できたのだが、仕方あるまい。水原さんもたまにはいい目を見ないといけない。


「残念でしたが、ここはわたしの勝ちということで」


 勝ち誇った声と仕草で水原さんが髪をかきあげると耳のピアスが夏の日のでキラリと反射する。後光?


「まぁ、いいですよ。銀さんもたまには怠けてください。さっきの肉リベンジにも巻き添え食らった訳ですし、後部座席の荷物になってた訳でもないし。銀さんの分は、陣内くんが運転してくれますよ」


「あぁん? 今なんつったリーベルトてめぇ」


「さぁ、最後の一回を回しましょうか」


 早めに出発して距離を稼ぎたいのか、ハイジさんが200円払ってガチャガチャを回すところを自分で回した。


「『リーアム・ニーソン』です。惜しかったです。もう少しでしたね」


ハイジ ― +0×200= 6600点

水原 ― +0×200= 20000点

良崎 ― +50×2000= 16000点 


「いや…………。いや、まだだ! 俺はまだ回してない!」


 往生際悪くハイジさんが顔を上げるが


「6600ポイントを2回やっても20000には届かないです」


 と良崎に引導を渡され、大人しくなってしまった。


「いやぁ~気分いいですね、銀さん! お天道様は見てますね、悪人のことをちゃんと! 若い女性を拉致して日本の向こう側の海に連れて行こうとかする輩には、ちゃんと天が然るべき報いを与えてくれますねえ!」


 腰に手を当て、体を逸らして車に乗るための準備運動をしながら良崎が高笑いを上げる。


「あんまり言わないであげてね。本人も反省してるだろうから」


 あまりのにこやかさと酒が飲める嬉しさで溶けてしまいそうな顔で水原さんが言い、ビールをぐいっと流し込んだ。


「ビール、最高~! やっぱり夏はビールね!」


 そのまま生きながらに成仏してしまうのではないかと思うような恍惚の表情。


「温泉旅館豪華ディナーも楽しみだわ。あ、アンナちゃんはお酒飲めないのよね」


「いえ、コップ一杯くらいなら点滴しても大丈夫ですよ」


 良崎は気の抜けた笑みを浮かべながらお茶を受け取り一口すすり、よほどの美味だったのかさっきよりはマシな笑みを浮かべる。


「あぁ、それね。うん、それか」


 肉リベンジの時の良崎のような邪悪さと、布団にもぐりこんだような腑抜けたネガティブな笑みを浮かべたハイジさんが楽しそうな女子二人の雰囲気に水を差す。


「水銀バカ野郎」


「え」


「てめぇが運転しないで瀬波温泉までたどり着けると思ってるのか」


「え…………」


「仮に休まずに進むとして、わかばマークの初心者二人に夜道を行けっていうのか」


 自暴自棄が膨らみすぎてどこかに穴が開いてしぼんだようなハイジさんの表情は変わらないが、ハイジさんの言葉で女子二人の表情からは徐々に明るさが失われていく。


「そんなに進んでないんですか?」


「うん」


「単純に地図を見るに、目的地までの半分くらいだ、今ここは」


 スマートホンをするすると操作して二人の前に突き出す。


「終点の長岡がここ。で、瀬波温泉がここ」


 二人の顔から徐々にではなく一気に明るさが損なわれた。


「見せてもらっていいですか? …………はははは!」


 もう笑っちゃうしかない。何が関越リベンジだ。瀬波温泉は関越自動車道の終点、新潟から乗り換えて日本海東北自動車道に乗り換えねばならない。246kmでは足りないぞ。関越やりすぎリベンジではないか。運転しないで後部座席で眠れる身だからまだいいが、これから渋滞の関越自動車道に乗ってひたすら北上し、その後北陸と東北を繋ぐ道路をなぞる旅路、任せたぞ、ハイジさんと良崎。がんばってくれ、ハイジさんと良崎!


「で、今18時になろうとしている。出発したのは、10時。これから疲れもたまるからこまめに休むとして、着くころには一度お別れしたお日様とコンニチハする頃かな」


 日付跨ぎ確定宣言!


「どうするんですか?」


「どうもできねぇよ。ただ、俺はこの辺で一泊! する処置をとることを進言する」


「いやいやいやいや」


 鬱陶しいハエを払うように良崎は何度も顔の前で手を振る。水原さんは運転できない自分が情けないのかその場でへたり込んで今にも泣きだしそうだ。


「いやいやいやいや!」


 若干音量が増える。


「嫌だ!」


「てめぇの川越バーベキューがなけりゃこんなことにはならなかったんだ!」


「嫌だー!」


「俺たちはみな一蓮托生だ」


「わたしが運転し続けますから一泊だけは絶対にない!」


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