【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第13話 関越リベンジ その11
澄んだ空気と都心の焼けつくような暑さを吹き飛ばした心地よく涼しい風が肌をなぜる。遠くに見える山々はアルプス改め赤城山。花とおいしそうな食べ物の香りに鼻をくすぐられて歩みを進めれば、そこはもう群馬県ではなく美しい情緒あふれるドイツの山中である。これがドイツ村、赤城クローネンベルク。
「観光地だなぁ。どうだ、リーベルト。なにか感慨深いものでもないか」
「陣内について行くとろくなことがないとひしひしと感じます。ドイツとか関係なく、なんで新潟を目指す関越リベンジでさっさと新潟を目指さないんですか」
「あ? 関越リベンジの趣旨は説明しただろうが」
「最初っからここに来る予定だったんなら構いませんよ。でも、これは明らかにさっき決めたことですよね? 高速道路が空いてるならさっさと進めばいいのに。あんた馬鹿ぁ?」
「テンションあがってんじゃねぇか」
「心底出た言葉ですよ。偽らざる本音です。それに、関越リベンジ関越リベンジ言っておきながら、さっき川越からズルしたじゃないですか。二の次でいい観光地に寄って、第一にするはずの関越道をおろそかにして。なにが趣旨ですか。もっともらしいこと言って。最初っから俺の行きたいところにいくよぉ~なら」
「なんだお前、馬鹿にしてんのかその口調」
「え、陣内さんの真似が馬鹿にしているように聞こえましたか? やっと気づいてもらえて嬉しいですよ。陣内さんが馬鹿だぁってことも、わたしが陣内さんを馬鹿にしてるってことも」
良崎のマシンガン斉射が止まらない。休むことなく言葉尻を捕まえ、大粒小粒にかかわらず次々に罵詈雑言の嵐をぶつけている。
「俺が馬鹿かお前が馬鹿か、っていうかお前の馬鹿はもはや言うまでもないがともかく、ちゃんとしたテーマパークだろうが、赤城クローネンベルクは。なんの文句があるんだ。きれいなところだろうが。東京にこんなところはねぇぞ、綺麗な景色、空気。なんの、文句が、あるんだ!」
「高速道路を降りたことですよ!」
私もできることならば、良崎に味方したい。良崎の意見、全肯定だ。私が眠るまでの関越自動車道の渋滞は凄惨、の一言だった。その凄惨な渋滞が、私が眠っていた間は解消されてすいすい進んでいたという。確かに、藤岡を越える瞬間、ハイジさんに叩き起こされた時はスムーズに自動車が進んでいた。だというのに、こんなどうでもいいような観光で…………チャンスをつぶすのか! と、声を大にしてハイジさんを糾弾したいが、今は良崎ががんばってくれている。私は口出しをしないほうがよいだろう。
「わたしが見てる時だけ混んでて、わたしが見てないときは空いてるって、だるまさんが転んだじゃねぇんだよ! 大体、赤城ってなんですか! 万人が心洗われるような絶景があるわけでもなく、誰もが一度は舌鼓を打ちたくなるような絶品グルメがあるわけでもなし、東京に住んでる人間からしたら赤城なんて徳川埋蔵金でしか知らないですよ! 糸井重里を呼んでまた埋蔵金探すならまだしも、先を急ぐ旅でドイツ村で一休みしようってやっぱり陣内が馬鹿だと言わざるを得ないんですよ!」
「…………」
ハイジさんももう、良崎のすさまじい勢いには反論する気もなくしてしまったのか、その舌鋒の鋭さに、一種のパフォーマンスを鑑賞しているような表情を浮かべている。確かにすさまじい。というか、傍から見てると面白い。コイツ、実はこうやってゴネるために言葉を用意しておいたのではないかと勘繰ってしまうほどだ。
「お前、政治家にでもなるのか?」




