【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第12話 関越リベンジ その10
「おい、起きろ。起きろ、バカ」
西に傾き始めながらも未だに棘のような陽光を浴びながら、運転席からハイジさんが興奮した声を上げている。車内にはかの有名なシド・ヴィシャス擁するセックス・ピストルズ最大のライバル、UKパンクシーンのビッグネーム、ザ・クラッシュの『LONDON CALLING』が流れている。高速道路でクラッシュとは、縁起の悪い。
「なんですか、新潟ですか」
まだ眠り足りないのか眼をこすり、良崎は大きな欠伸をした。私も顔をしかめ、あたりを見回すと車がすいすいと流れている。
「新潟はまだだが、渋滞は緩和してきた! 藤岡を通過するぞ!」
「藤岡……?」
「前回ギブアップしたところだよ! 俺たちの関越リベンジがやっと本格スタートだ! さぁいよいよ旅の鉄砲玉『演劇サークル』が、再び群馬県にぃ、突入ー!」
『演劇サークル』群馬県突入(2か月ぶり2回目)!
「あ、本当だ。渋滞してない」
「わたし、初めて関越道の車線を見た気がします。ずっと車でギチギチだったし。じゃあ、ハイジさん引き続き運転、銀さんナビゲートお願いしますね」
と、無邪気にはしゃぐハイジさんとすぐにでも眠りにつきたい良崎と私の温度差がはっきりと出てしまっている。
「もうちょい何か言おうぜ!」
「えぇ? じゃあ、人生の鈍行青春かたみち切符は、念願の準急運転を開始しました」
「もう一声」
「じゃあ、ちょっと眠って考えてみますね」
「是非頼む」
簡単にあしらわれてしまっている。よっぽど、関越リベンジがうれしいのだろう。私だって嬉しい。嘘ではない。だが、人にはやらねばならぬことというのがあってな……。それは、食欲性欲睡眠に従うこと、とハイジさんが言って……
「おい寝るな曾根崎」
「…………! はい」
「寝てただろ」
「いえ、寝てませんよ。ビンビン起きてましたよ」
水原さんとハイタッチをするハイジさんは随分と嬉しそうだ。だが、良崎は早くも寝付いてしまっているため、もう喜びを分かち合うことが出来ない。
「さすが高速道路! これが渋滞でその場に拘束する拘束道路との違い、その差は約時速80km! 待っていろ新潟、待っていろ日本海! 無鉄砲ゆえに満身創痍! 満身ソユーズが今、その地に足を踏みしめるぞ!」
ハイジさんの意気込みが子守唄代わりになり、私はまたうとうとと現に別れを告げ、深い午睡の底へと潜っていった。
「起きろ。起きろ、ポンコツ共。観光の時間だ」
頬を叩かれ、目を覚ますともう絶好調の高速道路から降りていた。周囲に目を配ると西洋風の、というか白いレンガで作られた尖った屋根はヨーロッパの建物に違いあるまい。遠くに望むあの山々は、名峰と名高いアルプス山脈か! 水原さんはすでに車を降り、アルプスの澄み切った空気を存分に吸っているようだ。
「おい、起きろ。起きろってば! 乳をもむぞ起きろ!」
バチン! と耳を塞ぎたくなるような音が車内に響くと、良崎の腕がつっかえ棒のようにハイジさんの顔面に伸びている。
「運が良かったですね。あと少しでハイジさんの言う『陣内一葉』というブランドが、逮捕と訴訟によって完全に終わるところでしたよ」
今しがた目覚めたばかりとは思えないほど真っ赤に充血させた目で良崎がハイジさんをにらみつけている。
「ここはどこですか」
「ドイツ」
ドグチャア!
久々だ。この、良崎がハイジさんに暴力をふるう感じ。
「どこですか」
「ドイツ村」
バガァ!
「ん? 本当なんですか」
「群馬県赤城クローネンベルク」
むしゃりと草を食む牛のように良崎がハイジさんの髪の毛をむんずと掴んだ。痛そうだ。毛根があれを食らってはならないと警鐘を鳴らしている。
「一発芸のためにせっかく空いてる高速道路から降りたんですかこの馬鹿野郎!」




