【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第10話 関越リベンジ その8
こんばんは、『Walk Now For So Meet』です! 今回もお相手を務めさせていただくドクターKこと梶井基九次郎です!
夏休みの大渋滞関越自動車道に乗って東京から246km先の新潟県瀬波温泉を目指す『関越リベンジ』、今夜はその8夜!
全員が結束しはじめ川越で一休みした『演劇サークル』一行は再び関越自動車道に戻ろうとしますが、ある人物が意味不明な行動を始めます。さぁ日付が変わる前に『演劇サークル』は新潟にたどり着けるのでしょうか!
『肉』。
『魚』『野菜』『穀物』と並ぶ日本の食卓を彩る食品であり、その中でも最上位に位置するものである。特に生のものを箸の先一つで簡単に料理し、食すものが高級品とされる。
よりシンプルあればシンプルであるほど、素材を贅沢に味わうことができるためありがたみを感じさせる。
『しゃぶしゃぶ』も例に漏れず、「肉を箸の先でつまみ熱湯に浸すだけ」という簡単な調理法から親しまれるものである。あまりにも高級すぎないことから過度な敬遠を受けることもない。
「肉は諦めろって言ってんだろ馬鹿野郎」
ハンドルを握っている良崎にはハイジさんは手出し出来ないようだがハイジさんは今にでも良崎に掴み掛りそうだ。ハイジさんは自分の身に降りかかる不測の事態に非常に弱い。すぐにパニックに陥ってしまう。
「食べるって言ってるじゃないですか馬鹿野郎。トランク見てみろ、食う準備できてるぅ」
ちょうどいいタイミングで良崎は緑のきれいな駐車場に車を止めた。ハイジさんがあわてて車を飛び下り、トランクをこじ開けると途端に膝から崩れ落ちてしまった。
私も車から降り、戸惑った顔でガンセキオープンの運転席に座っている小林氏と視線を交わし、ハイジさんの横からトランクの中を覗き込んだ。
「はははは!」
いつ忍び込ませたのか、カセットコンロとフライパン、紙皿。もう、笑うしかない。
「しゃぶしゃぶの肉を、焼肉にして食えってか!?」
「悪いのはハイジさんじゃないですか。百歩譲って、『関越リベンジ』中止にしろとはいいませんよ。でも、今日肉を食べるということはキャンセルしません」
肉の入った箱を持った良崎は、諸刃の剣で勝利を収めたような歪んだ笑みを浮かべた。
「いやぁ~リーベルト! 無茶を言うんじゃない! リーベルト、無茶言わんでくれ」
「なにが無茶ですか。バーベキューは好物じゃないんですか」
確かにハイジさんは『演劇部』のバーベキューを襲撃して肉を勝手に食べてしまったこともあるが、好物ではないと思う。
「ダメだって、公園でカセットコンロで肉焼いて食ったら問題になるぞ! 警察に何やってんだって聞かれて、はい、しゃぶしゃぶし損ねた肉を焼いているんですって言ったら保護されるぞ!」
ゆっくりと水原さんがハイジさんに歩み寄り、その肩に手を置いた。
「陣内さん」
悲嘆にくれるハイジさん、もう笑うしかない私と違い、水原さんは随分と落ち着いているようだ。今回の旅の発端ともいえるハイジさんの良崎へのドッキリの片棒を担いでしまった罪悪感もあるのだろう。
「わたしたちにも非はありますし、こんないいお肉を食べられる機会なんてそうそうありませんよ。綺麗な霜降りじゃないですか」
「なぐさめんなよ!」
「アンナちゃん、おいしくいただきましょう」
「俺の気持ちがわかるか!」
いや、わからないよ。それが振りまわらされるだけと振り回す側の違いだ。
「わかりますが、後輩を想う気持ちも大切ですよ。わたしたちがこんなことをしなければ、アンナちゃんは今夜、家族と食べる予定だったんですから。ねぇ、陣内さん、せっかくなんですから。ほら、バーベキュー場の看板ありますよ」
「リーベルト! 運転を申し出たり珍しく献身的だと思ったらこういうことか!」
「そういうことです」
ハイジさんの断末魔にも似た言葉に、勝ち誇ったように良崎が胸を張った。
「これでやっと1勝1敗ですね」
良崎と水原さんを先頭に、甲子園のマウンドで果てた高校球児の如く両脇を私と小林氏に支えられたハイジさんが続いてバーベキュー場に向かい、新品のカセットコンロの上にテフロン加工のフライパンを置く。その脇には、肉。良崎の家が何人構成か知らないが、5人で食べる分に不足はないというか、不足があるかどうかを判断するにはまずこれを聞かねばならない。
「肉しかないのか?」
「うん」
「タレは?」
「素材の味に是非舌鼓を打ってくださいね。あと他に食べるものは、さっき買った麩菓子しかない」
ファミリーサイズ霜降り肉タレなし+麩菓子オンリー!
「嫌だー! 野菜とか米とか食わせろぉ!」
ハイジさんが涙交じりの声を上げた。人は肉を食いたくない一心で、埼玉県の公園で号泣することができる。
「あぁ、野菜ね」
芝居がかった腕組みをして、顎に手を当てる良崎。
「じゃあ、畑でも借りて夏野菜でも作りますか?」
「なるほど!」
ハイジさんになるべくむごく肉をお見舞いしたい気持ちで自分の健康や食のペースすら見失った良崎をなだめて良崎のノリにあわせる水原さん。ワンテンポ早く向こう側についたことがはたして吉と出るのか凶と出るのか。
「なぁるほどじゃねぇんだよ馬鹿野郎ー! 肉で腹いっぱいにしようなんて中学生でも考えねぇぞ!」
「ちなみに肉は750グラムあります」
ほんの一分しか残っていなかったハイジさんの堰も切れたようで、腹を抱えて体をくの字に曲げて大笑いしている。
この後、本来みなが愛してやまない肉、それも高級霜降り肉はフライパンから油をはじけとばせ、あまりにも赤裸々すぎる素材の味で我々に牙をむいた。これが今回の旅で最も過酷だった出来事、川越バーベキューである。
さぁ、いかがだったでしょうか『関越リベンジ』第8夜!
良崎=リーベルト・アンナ渾身の反撃、本当に彼らは埼玉県川越市の公園で肉しか食べられませんでした! お相手は、ドクターKこと梶井基九次郎でした。次回も、お楽しみにぃ!




