【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第9話 関越リベンジ その7
「で、曾根崎は免許持ってたっけ?」
「ないです」
「そうかぁ。じゃあ、免許を持っているのは俺、水原、リーベルト」
川越での活動を終え、本気で関越自動車道にリベンジする気になっている我々は各々アイスクリームを持って作戦会議を開いた。もう後戻りはできない、というか大学までは川越から電車で帰ることが出来るが、良崎が本気になった以上、空気を読めばもう嫌だ嫌だと駄々をこねることは出来ない気がする。たかが246km、往復で約500km。時速100kmで走れば5時間で往復できる。日付は変わらない。(※渋滞しています)
「三人で交代していきましょう」
頼もしい良崎の言葉で、自分がただのお荷物になっていることに気づいてしまった。命を削って面白いことがいえる訳でもなく、運転が出来る訳でもなく。そうかんがえると良崎は私3人分くらいの価値があるだろう。今日の為替レートは1良崎=3曾根崎だ。
「次はわたしが運転しましょうか?」
水原さんも心が持ち直したのか、やる気だ。やる気を出すのはいいことだが、みんながやる気を出すたびに己の無力さを思い知ることになってしまう。みんなあんまりやる気出すな、傷つく。
「それは考えどころだ。何時間かかるか本当にわからない。渋滞でなかなか動けないといえど、運転手は眠ることが出来ないから消耗が激しい。一人一人が限界まで粘るか、こまめに交代して全員がなるべく余力を残すか」
ハイジさん、否、真面目で後輩思いの陣内先輩主導で会議が進む。
「誰か一人が限界になると車内の空気がやっぱり悪くなるんでこまめに交代したいですけど、交代のたびにどこかで止まると時間は大幅にロスしてしまいますね」
「どうする? ローテーションにするか、その都度立候補で決めるか。 交代のタイミングも時間にするか、距離にするか」
「ここは、唯一初心者じゃないわたしが距離を稼ぎましょうか」
「いえ。わたしにやらせてください」
強い口調で良崎が手を挙げた。
「銀さんには申し訳ないですが、時間が進んで疲れるにつれて運転がきつくなるし、夜道になれば視界も悪いし、でも渋滞は解消されて車の進みは良くなると思うので、それまで銀さんには休んで体力を温存していてもらいたいです」
「それで水原がいいんなら、それが一番いいかもな。じゃあ、次はリーベルトが運転」
運転席に良崎が乗り込み、助手席にはさっきまでと同じく水原さん、後部座席に私とハイジさんが座り、出発。
「あのさぁ、リーベルト」
後部座席で手持無沙汰なのか指でカエルを作りながら、ハイジさん。
「なんですか」
「いや、参考までに聞いていてほしいんだけどさ、高速道路がすごぉい混んでるんだって」
「知ってますよ」
運転で苛立っているのか、再び渋滞に乗ることにいら立っているのかはわからないが良崎は刺々しい声でそれに応答している。
「でさ。今、下の道割と空いてるんだよね」
「……」
「ちょっと離れてみて、戻ったらスーイスイ、なんてこともあるかもしれないよな? で、ナビを見ると254号線っていう大きい通りが結構関越道に沿って通ってて東松山あたりで交差するんだけど」
良崎は少し揺さぶりをかけられたようだが、唇を噛んで真一文字に結んだ。
「関越リベンジですから」
「まぁ、そうだけどさぁ。まぁ、そうなんだけど、正直俺たちがやられたのって藤岡だから、藤岡まではもう予選免除、みたいな扱いでもいいかぁと俺はちょっと思ったりもしたんだ。ほんのちょっとではあるんだけど、下の道の方が、お得っぽいんだよね」
「だからなんでしょうか」
ハイジさんを躱しながら良崎はハンドルを切るが、それでも何故か関越自動車道が見えてこない。良崎はアレか。結局関越道に乗る気はないのか?
「おいおいリーベルト。そっちじゃない。ナビ見ろ」
地図を熟読していた水原さんも顔をあげ、異様な雰囲気のハイジさんと良崎の顔を交互に目配せしている。
「いえ、こっちでいいんです」
「いや、だからナビ見ろってば。せめて関越に向かえよ!」
あせるハイジさんの声を受けて、良崎は背筋に鳥肌が立つような邪悪な笑みを浮かべた。
「……ふ、みんな、肉食べましょうかぁ」




