【馴染まねば 治りもしない 五月病】第4話 ゴールデンウィーク地獄旅行 その1
一足先に部室に戻り、三人を糾弾するつもりで待ち伏せた。
「どういうつもりですか三人とも」
厳しい声で追及したしたはずなのだが、良崎が放った
「これがオフサイドですよ」
の声に感嘆したアホ先輩二人のうなり声で私の作りたかった真剣な空気は霧散してしまった。なにより、あれだけ激しくハイジさんを拒否していたはずの良崎が私よりもすんなりとサークルになじんでいることが悔しい。
「『演劇サークル』とだけあってやっぱり皆さん演技がお上手ですねぇ! 『演劇部』との不仲も演技ですか!?」
ちゃぶ台を平手でバンと叩き、その和気あいあいとしたサークルの空気に再び挑む。
「不仲だよ。俺はこばやっちゃんと仲いいだけだよ。で、親睦を深めようと」
「全員集合したって訳ですか」
「そういう訳だ」
「僕は全員にカウントされてないんですね!」
「だから、お前はツッコミ役のツッコミ王だから事前に知らせるとさぁ」
とハイジさんは両手を肩の高さで広げておどけるが、そうは問屋が卸さない。
「随分と体のいい役割ですね! 『演劇サークル』なら演技でカバー出来るように指導してくださいよ!」
「わかったわかった。じゃあ曾根崎とリーベルト、走り込み行って来い」
ハイジさんの私を軽くあしらったつもりの言葉の流れ弾が良崎にも直撃してしまう。
「なんでも基礎は走り込みだ。声量もスタミナも発声も全部走り込み。基礎を疎かにするやつに応用なんか教えられんよ。千里の道も一歩から、石の上にも三年、アンモナイトの殻に飯盛るなかれ。今日のところは俺が3プトレマイオスぐらい経ったら笛吹くから、それまで走れ」
「1プトレマイオスがわかんないです!」
良崎のエンドが変わり、こちら側に着く。
「1プトレマイオスが確か……5分43秒21でしたよね?」
と水原さんの合いの手。
「だから15分ちょっと走るのかしら」
「そうだな」
あぁ、私墓穴掘ったな。アンダーテイカーがやってきてしまう。私も15分強も走るのはごめんだが、超短時間とは言えサッカーをやった良崎の方がきついだろう。
「で、走り終わったら明日のレクの説明するから」
レク……?
「いやいやいやいやハイジさん! 明日から連休ですよ? 予定入ってるかもしれないじゃないですかぁ!」
このサークルでおおよそ歓迎と言うものを受けてこなかったが、初めて歓迎されるのではないか? 王様ゲーム、酒を酌み交わすことで初めて見えてくる相手の本音、そして大人の階段。
つい照れてしまうではないか。火照る私を冷却するかのように良崎が冷たい目線を私に向ける。
「じゃあいいよ。明日予定入ってるんなら残りでやるからさ」
照れ隠しを本気にしなくていいのに!
「わたし、明日予定あります」
良崎が挙手。
「じゃあ明後日に延期」
私の時はそんなそぶり見せなかったのに!?
「でも、あと5分以内ならまだキャンセルできるんですが、3プトレマイオスも走るとちょっと間に合わなくなるので」
「走り込み中止。良崎、明日来れるか?」
「いいともー」
「明日は宴だヒャッハー!」
ハイジさんが歓声をあげ、飛び跳ねて喜ぶハイジさんを見ていると、あの時覚えたハッピーラッキー星人への加虐衝動がよみがえる。私は来なくてもいいのに良崎は来ないとダメなのか! 畜生! 畜生!!