【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第5話 関越リベンジ その3
「探し物はなんですかー、見つけにくいものですかー、鞄の中も机の中も、探したけれど見つからないのに、まだまだ探す気ですかー。それより僕と踊りませんか、夢の中へ、夢の中へ、行ってみたいと思いませんかぁるるっるー」
私と水原さんと良崎の三つの屍が出来上がったところでハイジさんはよっぽど愉快なのか上機嫌で意気揚々と歌っている。
「陣内さん、本当にそれはやめましょうって」
前を向いて状況と向き合ってしまったのか、水原さんが尋常でなく慌てた声をあげた。
私もそれにならおうと鉄骨のように強張った首をなんとかあげる。
「ヒゲメガネー、混雑状況ー」
というハイジさんの間延びした声で迎えられた。
「関越自動車道下り、花園インターを先頭に約50kmの渋滞」
ヒゲメガネ(小林氏)の混雑情報!
「高速に乗る気満々じゃないですか!」
関越自動車道 ↓練馬という看板の下を『アンティーク水原私物8号機』はくぐる。機敏な動きで良崎も顔を上げ、リアガラスから車の後方を確認すると、怒りも悲嘆もすっかりと抜け落ちたようにぐったりとしてしまった。
「お母さんとケンカして、仲直りしかけてたんですよ」
もう、抵抗することは諦めたのか過ぎたことのように語り出す。
「仲直りして家族みんなで冷しゃぶでも食べようかって今朝話してたんですよ……」
「大丈夫、アンナちゃん! すぐ帰れるから!」
と自分に言い聞かせるような強い口調の水原さん。水原さんだってドッキリの被害者だ。良崎を家に送り届けるとしか思っていなかったんだから。さらに、良崎を車に引き入れるきっかけも水原さんが作ってしまっている。責任感の強い水原さんにはこれは応えるだろう。
と、いうか私も被害者だ。まんまと乗せられているではないか。
「帰れないですよ、だって後ろにガンセキオープンついてますもん、知らなかったのみんなですよ、みんな」
ガンセキオープン! 小林氏!
今度は全てが良崎の言うとおりに動いているぞ! もう我々がはめられていた、という事実は火を見るよりも明らかではないか! 役者が揃っているのだもの!
そして今、前方に車両が詰まりつつもETCを……通過―!
『演劇サークル』、関越自動車道突入!(二か月ぶり二回目)
「はい、それでは注目」
計画大成功、二重ドッキリ大成功で大漁大漁のハイジさんが気持ちよさそうによどんだ我々の静寂を一閃する。
ブゥーン、と青く光りながら、さっきまで真っ暗だったカーナビに明かりがともっている。
『大江戸通運とアンティーク水原はイースト・トーキョー・ユナイテッドを応援しています』
そうか。最近好調だそうじゃないか、ETU(East Tokyo United)。若手も育ってきているし。椿あたりは五輪代表にでもなって、大阪の窪田あたりといい得点シーン演出するんじゃないのか? ただし鹿島とのカップ戦には気をつけろ。
『思えば我々の戦いは、五月から始まっていたのだ。そう、思い出すだけでも嫌になる、ゴールデンウィーク地獄旅行である。あの時、我々は大泉学園にある大学を出発し、西東京で野暮用を片付けた後、練馬から関越自動車道に乗り、群馬県前橋市を目指した』
怪獣映画のような壮大なBGMを添えて録音されたハイジさんの力のこもった厳かな声でのナレーション、ディスプレイの関東地方をピックアップした地図には、我々の旅路が一本の赤い線となって東京都と埼玉県の境目から群馬県に向かって伸びている。
『しかし、ゴールデンウィークの繁忙期とぶつかり、想像を絶するきつい渋滞の中で、とうとうと過ぎるあまりにも退屈で先のない車内の空気に全員がこのやられっぷりである』
運転席でクルミを握りつぶすハイジさん、助手席で地図に目を落としているがやることがないからただ暇つぶしに眺めているだけの水原さん、眠ろうと目を閉じている良崎、そして携帯電話を弄っている私。誰の表情からも活気や爽快と言った言葉は感じられず、マイナスの空気が排気ガスのように充満している。誰がどこから撮影した。
『そして痺れを切らした陣内はついに、藤岡ジャンクションにして休憩を取った際にギブアップを宣言、我々は瞬間移動で前橋へ移動し、結果として関越自動車道に敗れることになった。そして誓ったのである。関越自動車道で受けたこの屈辱は、関越自動車道で返すしかないと』
『演劇サークル 8月の試み』
『東京→新潟 246km お盆ラッシュの旅』
『関越リベンジ』
ドォーン! と爆発する背景から飛び出す、今回の旅の趣旨。
「俺たちは今から、新潟を目指すと言っているんだ」
【自己批判】
以後恒例となるドクターKのここまでのあらすじや高速道路旅の主力化、ギャグ漫画路線からバラエティ番組路線へもここから。本当に『ふぉそみつ』の分岐点となった月です。




