【あおぐよし 夜に咲く花待つ 午睡よし】第4話 関越リベンジ その2
「なんですか」
駅まであと数百メートルというところで猫背で異様に機嫌の悪そうな良崎を発見、あまりの機嫌の悪さにいつもならつい腰が引けてしまう所だが、今日の私にはハイジさんがついている。悪巧みをする際の心強さではハイジさんの右に出る者はいないだろう。酔いにさえ目をつぶれば瞬間移動で一瞬で高跳びも可能だ。
「いやぁ、夏休みだし、海までドライブでも行かないか?」
クルマ(ベンツ)の窓から首を出し、一片の悪意もない笑みと言葉を良崎に向けるハイジさん。
「行かないです」
しかし、その真意はこの数か月で見抜いているのか、それとも面倒なことは嫌いな元来の性格か、今後の我々との関係の悪化も何も考えずに突っぱねてしまう良崎。
「いや、ちょっとだから」
と手招きするが、目に入らなければ見ていないのと同じと良崎は目を背ける。
「アンナちゃん、ちょっと気分転換しましょうよ」
本当に気分転換が必要だと思っているなら話は別だが、水原さんも悪い人だ。人のよさそうな顔と言葉で一気に引き込もうとしているぞ! 私が察するに、今の良崎はドライブ如きで転換できるような気分ではない。
「……信じていいんですか?」
「お前次第だよ。信頼に値すると思ったら乗ればいい。値しないと思ったらそのまま行けばいい。ただ、俺たち三人が出かけるのにお前一人に何も言わないのは忍びなかっただけだ」
詐欺師のようにつらつらとハイジさんが口調を紡ぐと、良崎はけだるそうにドアを開けてシートに座った。
「ロック!」
ジャキッ! と扉のロックがかかり、ハイジさんが嬉しそうな奇声をあげた。
「ようこそ良崎、『アンティーク水原私物8号機』へ!」
「残念だったな良ざ……」
カツーン!
怒りを少しも隠さない裏拳が私の肩に炸裂すると、骨の内側がビリビリ痺れるような痛みが走った。なんだ、秘孔か?
「出してください!」
「リーベルト、旅に」
「うるせぇ馬鹿野郎!」
「リーベルト、旅に出ようや」
「本当にやめてくださいよ! わたしもそういうことなら事前に準備して付き合いますから、もう急には本当にやめてください。今日じゃなくて別の日にしてください」
怒りはすぐに消し炭になってしまったらしく、声から勢いがなくなって悲嘆にくれていくことが手に取るようにわかる。まぁ、しょうがない。どうせこれはドッキリだ。すぐに家に帰れる、というか家まで送ってもらえるのだぞ。それで機嫌を直してくれ。と、いうか本当に秘孔はやめよう。
「大丈夫よ、アンナちゃん。これ、ドッキリだから。気分転換にアンナちゃんの家まで、ハイジさんが送ってくれるんだって」
「うぅ、どうせ銀さんもはめられてるんですよ! なんで信じてるんですか! 騙されてばっかりですよ。なんで車とかを与えるんですか! この人に高度な道具を与えちゃダメなんですよ!」
「『アンティーク水原私物8号機』発進!」
「わたしの家になんていく訳がないじゃないですか……」
ついに良崎は両手で顔を覆ってしまった。
完全にやりすぎてしまったな。やるにしても、タイミングというものがあった。あまりにも虫の居所が悪すぎ、これでは笑い話にも出来やしない。
「すまなかった良」
「なんで懐柔されてんだよお前も!」
ピシィッ!
「秘孔はやめ……本当に家に良崎の家に向かってるんだってば」
息も絶え絶えに声を絞り出すと
「本当だから! 本当に家に送り届けるだけだからアンナちゃん落ち着いて!」
と水原さんが続いた。
「ですよね?」
良崎の予想以上のキレっぷりに逆上してしまったのか、ハイジさんは口を真一文字に結んで我々の争乱などまったく耳に貸さずに運転に集中している。
「陣内さん! そうって言ってくださいよ」
「ハイジさん、そうなんでしょう、良崎の家に行くだけなんでしょう?」
それさえも嘘ならば、と私と水原さんも冷や汗をうかばせてハイジさんを問い詰める。
わ、我々だって、良崎と同じで用意などしていないぞ!
良崎からすればハイジさんが私と水原さんを裏切るところまでも思った通りの展開だったのか、顔を覆ったまま「だから言ったじゃないですか!」を連呼している。
「海ってどこだ馬鹿野郎!」
【自己批判】
特にねぇな。




