【笹の葉に 結ぶ短冊 おもうもの】第21話 文学部のブルース その8
「……好き! 好き! 愛してる!」
ステージ(櫓)の上からマイクを向けられると、「愛してるー!」とギャラリーもボルテージMAXで応えるコールアンドレスポンス。頭にタオルを巻き、浴衣を着たお坊さんたちはマイクを握った拳を突き上げ、飛び跳ねながらステージを縦横無尽に踊りまわる。お坊さんのパフォーマンスと「一休さん」の音頭に合わせて周りを老若男女の人々が盆踊り。ロックンロールは生きている。そこに魂があれば、どこででもロックは芽吹くことが出来る。お寺であろうとも!
「横浜最高ゥー! ロッキン盆踊りに来てくれてありがとー! 最高のテンションで、最高のお祭りに、最高の夜にしようぜェー!」
「イェー!」
レイくんもマミヤさんも額に玉のような汗を浮かべ、楽しそうに声を張り上げて盆踊りの列に加わっている。
「へぃ、アゲアゲアゲアゲー!」
ハゲハゲハゲハゲー!
と、「禅-we are BOUZE people-」とプリントされたTシャツを着たお寺ロック常連客と思しき方々が返す。しばらくはお坊さんの「アゲアゲアゲアゲ」のアジとBOUZE peopleの「ハゲハゲハゲハゲ」の応酬が続き、
「ドラえもん音頭~!」
突然のお坊さんのシャウトで子供たちの悲鳴のような歓声があがり、またもやお坊さんが煽っては四打ちの『ドラえもん音頭』で踊る。
私はあのテンションにはついていけないな、と少し離れて『盆踊FES 2012 大往生スーパーライブ』の看板の横でその様子を眺めていると、ソースのにおいがする屋台の道を埋め尽くす人垣から綿あめを二つ持ったハイジさんがひょっこり現れた。
「どう、あの二人は」
「いい雰囲気だと思いますよ」
私はそう答えて、綿あめを一つ受け取り、300円ハイジさんに渡す。
「良崎と水原さんは?」
「あっちで『お寺プロレス』やってたからそっち行った」
「『お寺プロレス』……」
「最近はお寺と他のもののハイブリッドは増えてるんだよ。お寺シアター、お寺ロック、お寺プロレス」
お寺界の未来は明るい。将来的には盆踊りだけではなく年中無休で営業し、グッズ販売、ついでにドラッグストアの出店や『お寺シアター』のシネコン化で一大企業に発展し、イオングループと火花を散らしたり球団が出来たりするのだろう。
岩手平泉レインボーズ。悪くない。卒塔婆ットによる華麗なバッティング。悪くない。
「つっきがーでーたでーた、つーきーが、でたぁ!」
「あ、よいしょぉ!」
原曲のキーを少しずらして、お坊さんが腹の底から声を出して天高く声を張り上げる。
「おぅおぅ、すげぇな『炭坑節ロックアレンジ』。ライブDVDが発売されるんなら俺は喜んでライナーノーツを書くぜ」
「僕は、このテンションは高すぎてどうも」
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」
ハイジさんは綿あめをもさりを口に押し込んだ。
「これは紛うことなく祭りだな。で、芥川を偲ぶ会は祭事だったな。日ごと季節ごとの意味と大騒ぎの理由ってのは別モンだった。俺が間違ってたな」
「気づいていただけて何よりですよ」
「日ごとの何かを気にしてたら大安の度に大騒ぎ、仏滅の日には外には出ねぇってことになるもんなぁ。必要なのははしゃぐ理由だ。お盆は先祖を迎える日なんだから、家でゆっくりともてなすべきだってこの場で言うのは野暮が過ぎる。盆は盆、盆祭りは盆祭り」
私は綿あめをかじってその言葉の肯定とする。
「それこそが祭りの本質だよな。楽しいってこと。祈る日は祈る。偲ぶ日は偲ぶ。阿呆になって騒ぐ日は騒ぐ。そうじゃなきゃ、世界中から祭りはなくなっちまおうもんなぁ。だから俺も次は、楽しく騒げるものを考えるとするぜ。っつうことで、ヘイ、ハゲハゲハゲハゲー!」
綿あめ一本を早食いバラエティのように平らげ、ハイジさんも盆踊りに加わる。
珍しくハイジさんが反省しているんだ。深追いして逆ギレさせるより、自省を促す方がよいだろう。
その数日後、ハイジさんの考える『みんなで阿呆になって騒いで楽しめるもの』が、我々の認識と大きくズレている邪神復活であったというのは言うまでもない。
【自己批判】
『お寺プロレス』も『お寺ロック』もあります。詳しくは「総持寺 一休さん」で。




